第8話 魔物
夜。
「大丈夫なのか?夜に勝手に抜け出して」
「零次様。零次様は別に、PTメンバーへの行動報告の義務は有りませんよ」
だが──
「終末少女抜きで街の外に出るのは危険じゃないか?」
俺と飛鳥、2人だけで、夜の道を歩く。
「街道沿いであれば安全です──ただ、お一人ではお控え下さい。私に声をかけて頂ければ。花宿でも、逢引でも、気にしませんので」
いや、飛鳥も異獣出たら対処できないよね。
「まあ、この世界に花宿なんて無いんですけどね。男性はレアですから、そもそもお金で買う必要性は無いので」
飛鳥に、神具ガチャを回す様に誘われたのだ。
俺の運試しがしたいらしい。
「ここの……街道の道端の色に注意して下さい。赤い警告……ここからは、異獣出現の可能性が上がります。基本的には安全な道しかないのですが……重要施設との接続路は、どうしても危険な道が避けられません」
「いや、だから、涼風とか誘った方が良いのでは?!」
「涼風ちゃん、涼風ちゃんって……私も見て下さい!」
「そういう話じゃ無いよね!?」
なら……
「せめて、スルトに──」
「おっぱいですか!?そんなにおっぱいが良いんですか!?私だってまだ成長期なんですからね!」
20代後半は、もう成長しないと思う。
……しないよね?
揉めば大きくなるとも聞くけれど。
くすくす
「冗談です。産めよ増やせよ……零次様がハーレムを作るのは、歓迎です」
飛鳥はそう言うと、
「じゃあ、行きましょうか」
「いや、だから、終末少女抜きで安全な街道を外れるのは危険だと……」
聞いてくれそうにない。
--
「無事に着いてしまいました……」
飛鳥が不満気に言う。
「いや、無事に着かないと困るって」
物騒な。
「はっ、あれは何でしょうか!?」
飛鳥が遠くを指さし、
「ちょっと見てきます!」
一瞬にして、夜のとばりへと溶けた。
……
ああ!?
……終末少女がいないどころか、俺1人で危険地帯って……やばくないか?
でも、此処を離れると、飛鳥が……
「不可解。何故ここに勇者殿が?」
不意に、抑揚の無い声が背後から。
「……騎士さん!?」
助かった……でも、何故?
「寝る前の夜ガチャ……私の楽しみ。勇者殿も、夜ガチャ?」
「いや……俺は……飛鳥に誘われて……はっ、飛鳥は大丈夫だろうか」
「先程、異獣の群れに少女が飛び込むのが見えた。貴方を助ける為に囮になったと推測。心配ない」
「心配大有りですけど!?異獣って、どんな!?」
「どんな……考えていなかった」
「考える必要があるの!?」
「そう、恐ろしい見た目だけど、無害なほわほわした魔物」
「魔物……?異獣じゃなくて……?」
「そう、間違い無い。あれは異獣だった」
魔物もいるのか?
「あ……飛鳥は……大丈夫なの……か?」
「絶対に大丈夫。保証する」
……じゃあ大丈夫……かな。
「良かった……飛鳥は、俺の大切な人なんだ。この世界に来て初めて会った人で……助け得貰って……恩人で……優しくて……可愛くて……飛鳥は俺の拠り所だ……絶対に、失いたくない」
「待って、許容オーバー……冷静さを失うと、戦闘に支障をきたす……」
「何で貴方が冷静さを失うの!?許容オーバーって何!?」
……惚気が苦手とか……?
まあ、他人が聞いて面白い事でも無かったな。
「ともかく、零次殿、本題に入る」
「何で俺の名前を知ってるの!?」
名乗ってないんですけど!?
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