第5話 禁句

「あの……零次様……その……ですね」


風呂上がり。

ラフな格好の飛鳥が。


潤んだ瞳で俺を見上げ。


尋ねる。


「零次様……何を……?」


何をって。


「何って……ベッドに入って布団を被り、寝る。この行為に誤りが?」


夜着も寝具も、見慣れた物だったので。

そこに文化的差異は無いと思ったのだけど。

と言うか、何で飛鳥が同室なの?

部屋取れない程混雑はしていなかった筈だけど。


「零次様……今日は初夜ですよ?」


「それが夫婦の営み的な意味なら、俺達は夫婦ではない。そもそも付き合ってもいない」


飛鳥が目を見開く。


「……飛鳥が魅力的な女性なのは確かだ。でも、付き合うには、お互いもっと知ってからにすべきだ。結婚前には、ご両親にもしっかりと挨拶して。婚前交渉も、避けるべきだと思う」


20代後半だと、焦りが有るのだろうか。

もう覚えていない。

40代半ばともなると、流石に、若い頃の様な勢いも体力もない。

勇者召喚は、対象の条件をある程度絞れるらしいので、年齢フィルターを入れるべきだと思う。


「……分かりました」


飛鳥はそう言うと、自分のベッドへと向かった。


--


「零次様。こちらが、当方で厳選させて頂いた、PTメンバーの候補となります」


市長が告げる。


うひょおおおお。

きたあああああああ。

マジ天使!!!

終末少女は、容姿も人間離れしているのか!?

いや、厳選したと言っているので、容姿も審査基準だったのだろうか。


左から順に。


赤髪のショートカット。

鋭い瞳。

背丈も12歳相応。

男の子と見紛う容姿……だが、アンバランスに大きな胸。

ボーイッシュな服装と相まって、実に素晴らしい。


次は、緑髪の長髪。

優しげな瞳。

儚げな印象が、グッとくる。


最後は……普通に黒髪。

肩よりも長く伸ばした髪、真面目そうな落ち着いた印象……普通の少女だ。

勿論、それはそれで素晴らしく可愛いのだけど。


「良い……神々しいまでの天使ぶりだね」


「お気に召した様で、恐縮です。さて、自己紹介頂きましょう」


ちなみに、良くラノベである、奴隷とかそんな関係ではない。

終末少女は、人類の協力者。

人権のある存在だ。

媚びへつらう必要も無いが、命令できる立場でも無い。

あくまで対等な関係だ。

飛鳥が念の為、と教えてくれた。


赤髪の少女が口を開く。

鋭く睨み、


「あたいは、スルト。得意な神具アーティファクトは、大剣タイプだ。戦闘ではきっちり貢献してやるが……あたいの目的は、あくまで子作りだ。そっちの方も忘れるな。それさえ守るのなら、何でもする」


とんでもない事を付け足す。

可愛くて頼りになりそうだが……残念ながら、契約条件を満たせそうに無い。


「私は、アルテミスです」


緑髪の少女が言う。


「私は、神に仕える身、この身体を許す事はできませんが……勇者様の重要性は理解しております。得意な神具アーティファクトは、楽器。支援に回復、攻撃、全てにおいて貴方を助けられます」


優しく微笑む。


もとより、少女に手を出す気は無い。

この娘は契約できる……かな?


「この2人は、見ての通り、純粋な終末少女……召喚の遺跡で召喚された方です。まだこの世界に来て間もない方々を選んでみました。一緒に成長する楽しみもあるかと思いましたので」


最後の1人が、告げる。


「ただ、それだとやはり苦労しますので。私が派遣されました。私は、この世界で終末少女として生まれた存在……今年で22歳となりますが、22年をこの世界ですごしています。純人の22歳程ではありませんが、知識も技術も、そして戦闘能力も、勇者様のお役に立てると思います。ただ──」


少女は、俺の目を見て、


「あくまで期限付きのサポート。知識の提供はしますが、あまり私に頼り切りにはならないで下さい。また、私は婚活している訳ではありませんので、その点もご了承下さい」


そう告げる。

なるほど。

偶然飛鳥にあって、色々教えて貰っているが。

本来は、飛鳥は勇者PTに入る予定ではなかったらしい。

右も左も分からない俺に、この世界の事を教える役割だったのだろう。


「紹介が後になりましたね。私の名前は、神凪かんな涼風すずか。大抵の神具は扱えますが、得意な神具は銃です」


「銃……銃を扱える終末少女は、別格の強さです。神凪家は、武人の名門。流石の貫禄ですね」


飛鳥が驚嘆して言う。

凄いらしい。


飛鳥に勧められていた通り、最初に断っておく。


「俺は、昨日この世界に召喚された……勇者らしい。佐々木ささき零次れいじ、それが俺の名前だ。飛鳥に色々教えて貰っているが、なかなか分からない事ばかりで。異世界……というか、過去?から来た──」


「異世界からです」


飛鳥が言葉を被せる。


「いや、案外ここは、俺のいた世界の未来なんじゃないかと思い──」


「ここは異世界です」

「そうですね、ここは異世界です」

「異世界からようこそおいで下さいました」


飛鳥、市長、涼風が笑顔を崩さずに言う。


えええ……


「ねえ、零次様。もし零次様が過去の方で、この世界が未来だとしたら──」


飛鳥が、笑顔で告げる。


「……したら?」


若干の緊張を覚えつつ、先を促す。


「過去の人物を召喚する……もしその人物が、子孫を残す、何かを為す……そんな未来があったとしたら……歴史が変わってしまいますよね」


「……そう……だな?」


飛鳥が、にこりと笑って、


「全くの異世界から召喚している、とか。情報だけ抽出、この世界で再構築しているとか……そう考えた方が気が楽ですよね?」


「……ああ」


「実際、終末少女召喚で召喚される終末少女は、あり得ない力を持ち、髪の色や耳の形、尻尾……人類とは異なる容姿をしている場合が多いです……つまり、過去から呼び出している訳では無い……なら同じく、勇者様も過去から連れてきている訳では無い……そう考えています」


「なるほど……?」


「もうみんな、日々を生きるので必死なんです。これ以上、色々考えたり遠慮していたら、やっていけないんです。だから──」


飛鳥はにこりと微笑み、


「勇者様、異世界からの来訪、誠にありがとうございました。精一杯尽くさせて頂きますね」


有無を言わさぬ口調で、そう告げたのだった。

うん……過去から来たかも知れない、は禁句らしい。

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