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「……!」ショックだった。「私の作品には……内面が表れていない、ってことですか?」
「というより、君はただ撮ることだけに夢中になっていて、何かを伝えたい、表現したいという意識そのものが希薄なんじゃないか?」
「!」
さらにグサッときた。言われてみればその通りだ。私はただ、きれいだな、と思ったものをそのまま撮っているだけに過ぎない。それ以上のことは何も考えていない。
「きれいなものを見た感動をそのまま伝えたい、という君の気持ちも分かるよ。でもね、君はそれが素直すぎるんだ。君なりの思い、とでも言うのかな。そう言ったものが感じられない。だから見る人の心に引っかからない」
「私なりの思い……ですか……」
「ああ」
「そういうものは……どうしたら身につくんですか?」
「そうだねぇ……やっぱり経験だろうね。それも写真ばっかり撮ってるだけじゃダメなんじゃないかな。君はまだ学生なんだし、時間はたっぷりあるだろ? だったらいろんな経験したらいいと思うよ。それも実体験でなくてもいいんだ。映画を見るとか、本を読むとかさ。そういったことが、君の引き出しを増やし、内面を磨いていく。俺はそう思うよ。映見ちゃん、
「なんか、名前は聞いたことがあるような……」
私は首を捻ってみせる。
「映見ちゃんが生まれる前に亡くなった人だから、たぶん知らないかもね。だけど、昭和の時代に大活躍した写真家だったんだよ。でね、その人がこう言ったんだそうだ。『仏像は走っている』ってね」
「……え?」
わけが分からなかった。仏像が走るの? 怪奇現象?
そんな思いが顔に出たのだろう。坂田さんは大笑いした後で、言った。
「土門 拳はね、文筆家としてもすごく優れた人だった。たぶんたくさん本も読んでたんだろうね。簡潔だけど本質を突いた、まさに名言だよ。そう思わないか?」
「はぁ」
私はあいまいな顔でうなずいた。
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