4

「……!」ショックだった。「私の作品には……内面が表れていない、ってことですか?」


「というより、君はただ撮ることだけに夢中になっていて、何かを伝えたい、表現したいという意識そのものが希薄なんじゃないか?」


「!」


 さらにグサッときた。言われてみればその通りだ。私はただ、きれいだな、と思ったものをそのまま撮っているだけに過ぎない。それ以上のことは何も考えていない。


「きれいなものを見た感動をそのまま伝えたい、という君の気持ちも分かるよ。でもね、君はそれが素直すぎるんだ。君なりの思い、とでも言うのかな。そう言ったものが感じられない。だから見る人の心に引っかからない」


「私なりの思い……ですか……」


「ああ」


「そういうものは……どうしたら身につくんですか?」


「そうだねぇ……やっぱり経験だろうね。それも写真ばっかり撮ってるだけじゃダメなんじゃないかな。君はまだ学生なんだし、時間はたっぷりあるだろ? だったらいろんな経験したらいいと思うよ。それも実体験でなくてもいいんだ。映画を見るとか、本を読むとかさ。そういったことが、君の引き出しを増やし、内面を磨いていく。俺はそう思うよ。映見ちゃん、土門 拳どもん けんってカメラマン、知ってる?」


「なんか、名前は聞いたことがあるような……」


 私は首を捻ってみせる。


「映見ちゃんが生まれる前に亡くなった人だから、たぶん知らないかもね。だけど、昭和の時代に大活躍した写真家だったんだよ。でね、その人がこう言ったんだそうだ。『仏像は走っている』ってね」


「……え?」


 わけが分からなかった。仏像が走るの? 怪奇現象?

 そんな思いが顔に出たのだろう。坂田さんは大笑いした後で、言った。


「土門 拳はね、文筆家としてもすごく優れた人だった。たぶんたくさん本も読んでたんだろうね。簡潔だけど本質を突いた、まさに名言だよ。そう思わないか?」


「はぁ」


 私はあいまいな顔でうなずいた。


---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る