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まともに就活せずに大学を卒業した私は、結局そのまま坂田さんのスタジオにお世話になることになった。一応は正社員。給料的にはアルバイト時代よりも良くはなったが、食べていくのにギリギリ、というくらい。相変わらずアシスタントを続けながらも、私は仕事で時々自分でもカメラを持って撮影するようになった。
とは言え、人を撮るのが昔から苦手だった私は、いわゆる
もちろん休日は自分の写真を撮りに出かけたりする。そうして撮った写真をフォトコンテストに応募している。だけど……全く入選しない……
いつも「もう少しで入選」というところから上がれないのだ。
坂田さんにも相談してみたが、
「俺には何もアドバイスできねえな。言えるような立場じゃない。俺だって雑誌に載るような写真を撮ってるカメラマンじゃねえからな」
素っ気なくそう言って、彼はすぐにその話を終わりにしてしまうのだ。そんなことが何度か続いた、ある日のことだった。
フォトコンテストの結果発表サイト。入選作品の撮影者の中に、よく知ってる名前があった。
私の写真部時代の後輩だった。入部当時は初心者だったが、同じ女の部員と言うことで私が手取り足取り教えたのだ。もちろんそれは坂田さんからの受け売りがほとんどだったが。
彼女は未だに学生のはずだ。それなのに全国レベルのフォトコンテストで入賞するなんて……一応プロの端くれの私が落選し続けているのに……
私は激しく打ちのめされた。今更ながら、自分の才能の無さに嫌気がさす。そして、そんな気持ちが素直に顔に表れてしまうのが、私の悪いところだ。
「どうした?」
スタジオでの仕事の休憩時間。いつの間にか、坂田さんが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「あ、いえ、何でもないです」私は笑顔を作ってみせるが、もう随分長いつきあいの彼にはそんなものが通用しないことも分かっていた。
「本当か? 何だか随分元気がないように見えるが」
「……かないませんね、坂田さんには」
私はフォトコンテストのことを話した。
「そうか……それは辛いな」
坂田さんは苦い顔でため息をつく。
「私……才能ないですよね……」
必死で涙をこらえる。泣いちゃいけない。そう自分に言い聞かせる。だけど……声の震えは隠せなかった。
「なあ、才能って、何だろうな」と、坂田さん。
「え?」
「才能が開花したら、それで幸せになれるのかな?」
「……そうじゃ、ないんですか?」
「ちょっと待ってて」
坂田さんは自分の部屋に向かい、すぐ戻ってきた。手に一冊の古ぼけた雑誌を持って。その表紙には見覚えがあった。
「この写真だけどな」
「!」
そう言って彼が開いたページには……まさに、私を写真の世界に
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