クレイジーサイコ~高校生日記編~

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クレイジーサイコ~高校生日記編~

 夏。都会の公園。けたたましいセミの鳴き声。


かな「しおりちゃーん」


しおり「かな。何してんの」


かな「見てわからんか。虫取りに決まってるやろ」


しおり「すまん。まさか、高校生にもなって、女子が一人で虫取りしてるとは思わなくて」


かな「しおりちゃんは」


しおり「見てわからんか。公園のベンチで優雅に読書中だ」


かな「こんなクソ暑い日に、あたまおかしいんかワレ」


しおり「お前にだけは言われたくない。日陰は意外と涼しいぞ」


かな「しおりちゃん、最近、やっと火の使い方を覚えたのに、いきなり文字の読み書きなんて、文明レベルが飛躍しすぎだよ」


しおり「誰が北京原人だ。さては、私が調理実習でガスの元栓開け忘れたこと、まだ馬鹿にしているな貴様」


かな「しおりちゃんも一緒に虫取りしよーよ。セミとか、カブトムシとか」


しおり「いやだ。むしきらい」


かな「でも、油で揚げたら好きだよね?」


しおり「たべねーわ」


かな「えっ。生はダメだよ……」


しおり「たべねーわ。頬を赤らめるな」


しおり「……あー、もう。かなが話しかけるから、どこまで読んだか分かんなくなった」


かな「ちゃんと、しおりちゃん挟んどかないから」


しおり「うるせぇカナブン。使い古しのネタと共に、森へ帰れ」


かな「あ? 喧嘩すっか? ムシバトルすっか??」


しおり「げっ、でっかいクワガタ! 近づけないで。キモい」


かな「しおりちゃんはムシ持ってないから、ちんちんカブトムシでいいーよ?」


しおり「生えてねーわ」


かな「まだ生えてなかったの?」


しおり「未来永劫生えてこないから安心しろ」


かな「陰毛の話なんだけど」


しおり「ちんちんの話じゃなかったの」


かな「うわ!? ちんちんだって!! しおりちゃんの、スケベ!!」


しおり「言うこと為すこと、小学生と同レベルだな、本当に」


かな「ところで、何の本読んでるの」


しおり「小説」


かな「官能小説?」


しおり「いや。ミステリー」


かな「ミステリアス美女の官能小説?」


しおり「彼氏欲しさのあまり、ついに脳みそバグったか」


かな「セフレは二百人くらい欲しいけど、彼氏はいいかなー」


しおり「好きにすればいいけど、人生後悔しないでくれ。それは友人として、真剣に願ってる」


かな「さすが、幼馴染の彼氏がいる女は余裕があるなー」


しおり「彼氏じゃない。ただの幼馴染だ」


せいや「しおー」


しおり「せーや。貴様、よりにもよって、最悪のタイミングで現れたな」


せいや「なんで? あ、かなやんも一緒だったんだ」


かな「やっほー。しおりちゃん借りてまーす」


しおり「私は誰の物でもないんだが」


せいや「いいよー。一時間毎に二百円ね」


しおり「おい。お前の中での私の価値は、そんなものか?」


せいや「じゃあ、最初の一時間は二百円で、以降十五分毎に五十円とか?」


しおり「駐車場みたいな料金体系にしてくれと言った覚えは無い。しかもそれだと、かえってお得になってないか」


かな「最大料金ありますか?」


せいや「んー、一日最大二千円?」


かな「じゃあ、二万円払うね」


しおり「誰か助けてくれ。合法的に攫われる」


せいや「かなやん、その格好、虫取り?」


かな「そうだよー。しおりちゃんがセミの天ぷら好きだから」


せいや「そうなの。知らんかった」


しおり「そんなわけないだろ。信じるな」


かな「せーや君も一緒にやろーよ。せーや君のおっきぃカブトムシ……かなに見せて?」


せいや「よっしゃ! 久しぶりに探すか、カブトムシ」


しおり「気を付けろ。お前、ジョロウグモに狙われてるぞ」


かな「しおりちゃん、何を想像したのかなぁ。えっちだなぁ」


しおり「おっきぃカブトムシに分からせられるカナブン」


せいや「しおは何してんの? 公園のベンチで優雅に読書する女優に憧れた結果がそれ?」


しおり「当たらずとも遠からずだが、間違っても私以外の人にそういうこと言うなよ? 嫌われるぞ」


せいや「しおは影響されやすいからなー。どうせ、読んでる本はミステリー小説でしょ?」


かな「すごーい! なんで分かったの?」


せいや「こないだ一緒に見に行った映画のヒロインが、公園のベンチでミステリー小説読んでたから」


かな「彼氏じゃん」


しおり「彼氏のハードル低いな。かなは」


かな「どうせもう、せーや君のおっきぃカブトムシも見たんでしょ?」


しおり「そのカブトムシっていう隠語の使い方をやめろ。 そろそろカブトムシに怒られるぞ」


せいや「すげ-! オオクワガタ捕まえたんだ! カッケー」


かな「せやろ? 立派に黒光りしてやがるだろ?」


せいや「アゴ、強そう。もしかして、これくらいの木の枝とか、簡単にへし折っちゃうんじゃない?」


かな「ダ、ダメだよ! そんなに大きいの、アゴが外れちゃう……」


しおり「せーや。もうその女の口にクワガタ突っ込んで黙らせよう」


せいや「ん? なんか、変な虫鳴いてない?」


かな「違うよ。虫じゃないよ。しおりちゃんだよ?」


しおり「私も、自分の名前をお前の名前に差し替えて、全く同じことを言おうとしていたところだ」


齋藤さん「シークシクシク」


しおり「なんかヤベーのいるな」


せいや「そうそう、あの鳴き声」


かな「あれは齋藤さんだね」


せいや「すげー! かなやん、物知り」


しおり「待て。私か? 果たして、外れているのは本当に私の常識なのか?」


齋藤さん「シークシクシク。先月、会社の経営悪化を理由に自己都合退職させられましてね」


しおり「普通に喋ったぞ」


かな「会社都合じゃないところがミソだね」


せいや「へー」


齋藤さん「ずっとここで落ち込んでいたのです。妻と子供に、なんと伝えれば良いのやら……」


せいや「まだ言ってないんだ」


かな「先延ばしにすればするほど、言い出しづらくなりますよ」


しおり「正論だが、なぜお前たちは先月からずっとそこの草むらで四つん這いになりながら鳴いているサラリーマンに違和感を覚えないのか」


齋藤さん「ああっ! 私は一体、どうしたら……!?」


しおり「ひとまず、その虫ケラ以下の立ち振る舞いをやめるべきだと思いますが」


せいや「辛辣」


かな「鬼。外道。悪魔。ちんちくりん」


しおり「待て。ちんちくりんは関係ないだろ」


せいや「ん? あれ。齋藤さん、動かなくなった」


しおり「……おい。死んでるぞ。脈が無い」


かな「あちゃー」


しおり「軽いんだよ。目の前で人が死んでるんだぞ」


かな「いや、虫じゃん?」


せいや「大げさだな、しおは」


齋藤さん「まったくだ。最近の若い子ときたら」


しおり「そうだな。私が間違っていたな。くそが」




登場人物

かな

サイコな女子高校生。煩悩のかたまり。

しおり

キュートな女子高校生。大人びたロリ。

せーや

特徴の無い男子高校生。鈍感で難聴。

齋藤さん

リストラされたサラリーマン。二児の父。

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