第42話「ルグル防衛戦-修羅-」

第42話「ルグル防衛戦-修羅-」

 その時、頭に言葉が響いた。


 (これは……アスカの思念伝達か)


 思念伝達による会話は相手には聞こえない為、悟られないように作戦を立てるのにうってつけだった。


 (聞こえる? さっきシンクの攻撃は相手に効いていたでしょ? そして予知能力を持ってしてもその手数の多さに対処しきれていなかった。だからシンクの攻撃に合わせてアサギリのあの技を当てるのはどうかな?)


 (俺の攻撃はあと1回なら可能だが……)


 (いや、待て待て待て! 今の作戦だと相手の斬撃とシンクの攻撃の中を俺が突っ込むのか?)


「ダメージ受けすぎて多分死ぬぞ!?」


 アサギリは仲間に殺されると思い思念伝達での会話関係なく叫んだ。結果、最後の言葉だけが戦場に響いた。


『あん? 何言ってんだ?』


「いや、気にするな! こちらの話だ」


『よく分かんねーけどこの麻痺も直に解ける。そうしたら覚悟しとけ』


 タイランドは先程の攻撃で麻痺にはなったものの致命傷を与える事はできずに麻痺が解けたら今にも襲いかかってきそうだ。


 実際にシンクの攻撃はエフェクトの割に威力が低い。麻痺の効果付与がメインでもあるためだ。


 (さっきの話だが、アスカ。お前を信じて突っ込めば良いんだな? 時間も無いから任せるぞ。あいつの麻痺が解ける前に攻撃を仕掛けたい)


 (うん、大丈夫! 多分! けど回復を連続で使うからこの戦闘が終わったら私は暫く使い物にならないと思うからよろしくね! あとシンクも自力で回復して!)


 (分かった。俺の怪我はそこまで酷くないから何とかなるだろう。攻撃の合図だけ頼む)


 (よし! それじゃーいくよ。アサギリはダメージ受けてかなり痛いと思うけど踏ん張って突っ込んで!)


 (……あ、ああ。分かった)


 アスカの作戦を実行するためにアサギリは今一度気合いを入れ直して歯を食いしばった。


「シンクお願い!」


「おう!――滅雷!天雷!」


 先程起きていた光景と全く同じ光景が目の前に広がる。


『ふん、何をするかと思えばまたそれか。威力自体は低い事も承知している! それにその体では使えてこれが最後といったところだろ? 良いのか? まだ俺の斬撃は残っているから近寄れないぞ?』


「まあ見てなさいよ! アサギリお願い!」


「いくぞっ!」


 アスカの掛け声と同時に刀は鞘から抜かずに納刀状態のままアサギリが敵に目掛けて突っ込んだ。


「がっ、ぐっ!」


「ヒール! リカバー!」


 (やはりとは思ったがアスカの作戦って……)


 (うん! 名付けてゾンビ作戦! 攻撃を受けた瞬間に私が回復入れて麻痺も治すから突っ込んで!)


 (やっぱりそれかぁぁぁぁぁ! しかしやるしかないよな。少しでも回復遅れたら死ぬからな! 頼んだぞ!)


 アサギリは天地から発生する雷撃に構わず、そしてタイランドの技による空間に設置された見えない斬撃も関係なく一直線に相手目掛けて走った。


『バカなっ! めちゃくちゃだぞ!』


「うぉぉぉぉぉっ! がはっ、ぐはっ!」


「っ!」


 (回復されるとはいえアスカの回復量だと少しずつダメージを受けてしまう。けど一回きりだ! これで終わらせる!)


「この距離なら届く!」


「――影打ち一閃」


 アサギリは刀に手を掛け、瞬時に相手の首元目掛けて振り抜いた。

 それと同時に背後にあるタイランドの影からもアサギリの分身のような黒い影が現れ、本体のアサギリと全く同じ太刀筋で首元を攻撃した。


『予知……この攻撃はマズい! 回避しなければっ、くっ、麻痺がまだ……』


『ぐぁぁぁぁっ!……」


――ゴトッ


 アサギリの技をモロに受けたタイランドの首はゆっくりと地面に落ちた。


 アサギリの出した影打ち一閃は相手の防御力を無視して攻撃出来る威力の高い攻撃だが、技を出すまでの時間が少し掛かる為、相手の行動を今回のように麻痺等で制限していないと当てるのが難しい。


「はぁっ、やったぞ! ぶへっ! おい! まだ雷撃終わらないのか!?」


「それが最後だ。もう……発生しないだろ……う」


 シンクはそう言うと気力を振り絞った影響からかそのままそこに気絶してしまった。


 アスカも同様に回復を何回も連続で使った影響で後ろの方で倒れ込んでいた。


「シンク、アスカ! 大丈夫か!?……ふぅ、気絶しているだけか。ひとまず2人を安全な所まで運んでから蓮さん達に合流しなければ」



アサギリ達の激闘が終わりを迎えた頃、蓮達は城の2階まで上がり、百合とティリアを発見していた。


「百合! ティリア!」


 階を上がって直ぐの王室の間まで伸びる廊下で百合とティリアは1人の女と戦っていたようだ。


 蓮が上がってきた時にはティリアは廊下の端でピクリとも動かずに倒れ込んでおり、百合の体もボロボロだった。


「あ、お兄ちゃん……急に敵が攻め込んできて……わたしとティリアさんも戦ったんだけど……ティリアさんが……」


「ティリアがどうしたんだ!? 大丈夫なんだろ? おい!」


 百合は蓮が来た事に安堵したのかそのままその場で意識を失った。


 ティリアの元へ行こうとした時、敵と見られる女が話してきた。


『ふふっ、それが兄妹愛ってやつ? その2人は雑魚ね。退屈しのぎにもならなかったわ。貴方達は私を興奮させてくれる?』


 (ああ、そうか……こいつが2人をこんな目にあわせたのか……)


「百合ちゃんとティリアさんを……許さない」


「葵。葵は手を出さないでくれ……俺が殺る……」


 葵は蓮の言葉でその場から動く事も言葉を発する事も出来なくなった。


 (蓮……?)


 蓮はゆっくりと歩き目の前にいる女の前に出た。百合とティリアが相手していた女は黒い鎧に身を包み、手には金属製のむちの様なものを持っていた。


 百合もティリアも鞭で叩かれたような深い傷があったのでこの女にやられたのはまず間違いない。


「お前がやったんだな?」


『だったら何? 相手が先に仕掛けてきたから攻撃しただけよ? 正当防衛ね? フフフフッ』


「正当防衛か。良い言葉だなそれ。それじゃ、今からやる事も全て正当防衛だから恨むなよ? まあ恨む余裕すら無いだろうけど……」


 蓮の怒りがピークに達した時、またあの声が響いた。しかし今回は時間停止はされなかった。


感情が上限値を超えました。カスタマイズスキル自動発動――負の感情をスキルへ変換』


『エクストラスキル生成に成功――修羅|怒《いかり》――』


 しかし、蓮は頭に響く声に特に反応する事もなく淡々と言葉を聞き、女に1歩ずつ近づいて行った。

 

「これからやる事はただの暴力だ……許してくれなくて良い……」


『だからさっきからブツブツ何言ってんのよ? 私が女だからって甘く見ない方がいいわよ? なんたってダルカン王子直属の1人、スクラ……』


「――修羅


 蓮は本能的に効果範囲を把握して間合いに入った瞬間、先程のスキルを唱えた。

 もちろん効果なんて見てもいなかったが、何が起こるかどことなく分かっていた。


 修羅を唱えた途端、周りから色が無くなりこの場には女と蓮、そしてその女のコピーだけになった。


 女はその場から動く事が出来ずにただ呆然と目の前にいる自身のコピーを見つめていた。


 (……何これ。あいつ一体何したの? 動けない。それに目の前にあるこの私そっくりなコピーは何?)


「なるはど。大体分かった……」


 蓮のみが自由に動ける空間で蓮は両手に剣をそれぞれ持ち、ATK +とAGI +で攻撃性能を極限まで上げた。


蓮はコピーに対して尋常ならざる速度で攻撃を与え続けた。


『あれ? 痛くない……? フフッ、大層な攻撃かと思ったけど見掛け倒しだったようね! さっさと解放しなさい! 正々堂々戦ってあげるわ!』


「うるさいなぁ。少しは黙れよ……」


 人が変わったかの様に5分間ひたすら攻撃を続けた。そして蓮の前の女のコピーは無惨な姿になった。最早、原型を留めてすらいない。


「ああ、解放して欲しかったんだっけ? いいよ。解放してやるよ」


『それで良いのよ!』

 (解放された瞬間にその首落としてやるわ)


「――修羅解除」

「……じゃあな」



『え?』

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