第43話「ルグル防衛戦-呪い-」

 蓮が修羅を解くとパリンッとガラスが割れたような音が響き目の前の女は倒れた。


 詳細な効果を見ていない蓮だったがその使い方は的を得ていた。修羅は強制的に対象の肉体と精神体を分離させる世界に引き摺り込み、その世界で受けた精神体へのダメージは修羅解除と共に肉体へも反映される。


 女は精神へ過度なダメージを受けた為、修羅解除と共に肉体を維持する事が出来なくなり絶命した。


「はぁっ、はぁっ、今のは……何だったんだ。俺が俺じゃない感覚だった……」


「蓮、今のは……何? 時が一瞬止まっていて気づいたら女が倒れたみたいだけど」


「俺もよく分からないんだ。それより、百合とティリアは!?」


 百合は大きな怪我を全身に受けていたが、ハイポーションを飲ませて何とか持ち堪えた。

 ティリアにも同様にハイポーションを与えたが起き上がる事は無い。


「うっ、お兄ちゃん……私……」


「女は倒した。百合は安静にしてていいぞ」


「くっそ、ティリアは何故起き上がらないんだ? ハイポーションを飲ませて傷自体は治ったはずなのに……」


「蓮さん、ティリアさんは恐らく呪いの類に侵されているかもしれません。すぐに命を失うことは無いと思いますが……」


「呪い? 分かった。一旦、王室の間まで連れて行こう。こんな時にダルカンの兵士が攻めて来ても厄介だ」


 蓮達は百合とティリアを抱えて王室の間まで急いだ。


「良かった! この部屋は特に荒らされていませんね! 確か……玉座の裏に……ありました! これがあれば暫くの間、このルグル全体に防御結界を張れるはずです!」


 アデルは玉座の裏から取り出した宝玉を取り出すと高く掲げて唱えた。


「聖の光をもって我らを護りたまえ――守護結界」


――ブゥォーンッ


 宝玉から光の波動が勢いよく広がり、ルグルを取り囲む様に光の結界が張られた。


「上手くいきました! これで敵意を持った者は結界内に立ち入る事が出来なくなったはずです!」


「凄いな。これで少しは時間が稼げるかもしれない! この間に体勢を整えておかなきゃな。きっと奴らはまだ攻め込んでくるはずだ」


「そうですね。向こうの王子と王子の右手と呼ばれているヨハンもかなりの手練れと聞いております。その者達がまだ現れていないのが気に掛かります……」


 結界が張られ、百合とティリアを王室の間の横にある部屋のベッドに置くとティリアが少し意識を取り戻した。


「蓮さん……すいません。お役に立てず……」


「良いんだ。よく戦ってくれた! ティリアの体を治す為の方法を考えるから少し休んでいてくれるか? 後の事は俺に任せてくれて良いから」


「……はい。ありがとうございます。少し……休ませて……貰いま……すね」


 ティリアは再び眠りについた。呪いが少しずつ広がっているのかティリアはひどく衰弱してきている。しかし、呪いの対処は蓮はもちろん、アデルですら聞いた事はなかったので万策尽きた状態だった。


「蓮さん、葵さん! アデル王女! 大丈夫ですか!?」


 扉を勢いよく開いてアサギリが飛び込んで来た。


 アサギリにティリアの呪いの事や結界の事を全て説明すると、思わぬ言葉が返ってきた。


「ティリアさんの呪いの件ですが、以前ダルカンへ出向いた時に魔物から受けた呪いを解く事ができる者がいると聞いたことがあります。あくまでうわさですが……」


「――!? 本当かそれは!? 一体どいつが?」


「それが……聞く話によるとエルフだそうです。けどダルカンの人がエルフに会っているはずも無いので噂の域は出ないかと思いますが……」


「うーん、エルフの里に行った時も人には最近会っていないと言っていたし信憑性は薄そうだな。けど今は頼れるものも無いから一度、エルフの里にいるアイネさん達に会いに行こう!」


 蓮は里へ行く事に決めたが、エルフの里では何故かポータルの設置が無効になってしまい以前行った時に設置が出来なかった為、再び、大森林の奥にある里まで自らの脚で行くしか無い。


 すると特に技を唱えた訳でも無いのに目の前に突如、白いモフモフが現れた。


「ルクス!? どうしていきなり?」


「がう、がう! わおぉん!」


「何て言ってるんだ? ルドガーやヴォルグ達みたいに話せれば意思疎通出来るんだが……」


「ん? どうした?」


 ルクスはジェスチャーで蓮に何かを伝えてきた。


「がうが、がおぉん、くぅん(僕が、ティリアさんを救う為、エルフの里に行きます!)」


「ん? なんだ? お腹が空いている? とでも言ってるのか?」


「蓮、多分ルクスは皆の代わりにエルフの里まで行こうとしてくれてるんじゃ無いかな? ティリアさんと里の方角をジェスチャーで伝えてるし。というか、何でこのジェスチャーでお腹が空いているってなるのよ!」


 ルクスは大正解と言わんばかりに尻尾をブンブン振り回している。


 (いや、これじゃ分かんないだろ……前足と後ろ足バタバタしてるだけじゃないか……これで分かった葵が凄いよ)


「わ、分かった。確かに結界を張ったとはいえ、俺達がこの場を離れるのはマズい気がするから里まではルクスに行ってもらおう。アイネさんにこの手紙を渡してくれ。内容を書いておいた」


 ルクスは蓮から受け取った手紙をくわえて直ぐに城を出て行った。


「よし、ひとまずティリアの件は任せよう」


「皆さん! 一度この状況を把握する必要があります。あちらに作戦会議室がありますのでそちらに来ていただけますか?」


 アデルの言葉でその場にいた全員は部屋に入り席に着いた。



「アサギリ、街の方はどうでしたか? 他の護衛、シンクとアスカには会えましたか? ここには来ていないようですが……」


「街は侵入していた兵を全て制圧したので今のところ問題ありません。しかし、ダルカンの兵士の中にタイランドがおりまして何とか倒しはしましたがシンクとアスカは傷を負い、街で傷を癒しております」


「タイランド……噂では聞いていたが本当に王子の配下に加わっていたのですね……状況は分かりました。シンク達もタフですからね! 暫くしたらきっと再び参戦してくれるでしょう」


「……けれど見た感じ、ダルカンの兵力の半分にも届いておりません。これから王子達と共に第二陣がやって来るかと。そしてそちらが本命だと思います」


 アデルの話によると主戦力は第二陣に固められているらしい。

 王子のエスター、エスターの右手を任されているヨハン、そして王子直属部隊でも最強と言われているらしいウィン、この3人には十分気を付けなければいけない。


「それでどうするんだ? ここで迎え撃つのか?」


「それですが……結界も張っているので相手も迂闊には攻めて来ないでしょう。恐らく結界の周囲で留まるタイミングがチャンスでしょう。その隙を突いてこちらから攻撃を仕掛けます」


「分かった。それなら街の住民を城まで避難させよう。もし結界が壊されて攻め込まれたら次は本当に住民もろとも街が壊滅してしまうからな」


「葵とアサギリで街の住民の避難を進めてくれるか? 俺はここでアデルと作戦を練る」


「分かったよ!」

「はっ!」



「大体こんなところか。けど相手の能力が分かっていないから想定外の事が起きるかもしれないな……」


「――それは仕方ありません。その都度対応していきましょう! ただエスターの能力については確か剣術の類だったと思います。参考になれば良いですが……」


「剣術か……分かった。ありがとう! それじゃ、一度街の方へ向かって皆と合流しよう!」

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