第40話「決裂」

 街の中心に建つ大きな建物に向かったが、目の前まで来るとその大きさと要塞の様な見た目に圧倒されていた。


 所々から出る煙や剥き出しになっている鉄製のパイプが一層、要塞感を出している。


 入り口に着くと迎えの者が出迎えてくれた。


「ようこそ来て下さいました。案内をさせて頂くヨハンです、さあこちらへ。王子がお待ちです」


 待っていたのは結構歳上と見られる紳士的な人でジェントルマンという言葉がお似合いだった。

 こちらへの敵意は無いのだが、以前倒したタワー管理者のヘルンに似た威圧感があった。


 (この人……かなり強そうだな。上手く隠してはいるけど……)


 ヨハンに連れられ4人は王子のいる部屋へ案内された。


「こちらになります」


――ギィーッ


 大きな扉を開けるとかなり広い部屋が広がっており、奥の方に痩せ型の青年がどっしりと椅子に腰をかけている。


「やあ、アデル。今日はわざわざダルカンまで来てくれてありがとう。すまないね」


「いえ、大丈夫ですよ」


「ところでそちらは護衛かな? 以前見かけなかった顔もあるようだが……」


「はい。今回特別に護衛して頂いている蓮さんと葵さんです。それで早速用件なのですが」


「なるほど。初めまして。私はダルカンの王子エスターだ。前回いた残りの2人の護衛は城を守っているというわけか……ああ、そうだったね! 用件は食糧についてだったかな?」


「はい。現状、我が国からダルカンに対して食糧を送っておりますが、最近はその要求が高くなり自国を守る為にも一度供給量についてご検討願いたいのです。あと、自国のフロアに無断で入り、果物や野菜といった食糧を奪っていく人も出てきております」


「確かに、要求は高くなっているかもしれませんが、その見返りとしてこちらの技術をお渡ししていますよね? それに食料を奪うと言いましたが、本当にダルカンの者がやっているのでしょうか? 証拠がありません」


「ですが……」


 アデルは話を続けようと言葉を出そうとしたところでエスターが割り込んできた。


「証拠があれば私もそれなりの動きはしましょう! せっかく来て頂いて申し訳ありませんが、食糧についてはこれまで通りでお願いします」


 半ば強引に話は終わらせられ、この日はもう遅かったので客室に案内されて翌日戻ることになった。



 客室に帰ったのを確認すると王子とヨハンは耳打ちして次の動きに出ようとしていた。


「あいつらどうしましょうか? そろそろアデルもろとも葬り去ってルグルの街を我が国の配下に収めた方が効率が良いのでは……?」


「ふふっ、既に行動に出ていますよ。わざわざ今回こちらの国まで出向かせたのも作戦の内です。ここからでは何かあってもルグルに戻るのに半日はかかりますからねぇ」


「それで例の2人と兵士の一部を向かわせたのですね。それでは明日には我らも向かいましょう。最近は争いもなく腕が鈍っておりますので」


「そうだな! 移動に関しては任せたぞ!」


「はっ! 移動に長けた天啓を持つ者がいますのでその者の力を使えば向こうの王女が異変に気付いたとしても我等が先に到着できるはずです……」



――翌朝


「ふぁ、よく寝た……」


 蓮が起きた途端に葵がもの凄い勢いでドアをノックしてきた。


――ドンドンドンドンッ!


「蓮! 大変なの! 早く起きて出てきて!」


 (朝っぱらからそんなに慌てて何かあったのか……?)


「おはよー。ってどうしたんだ!? 凄い剣幕で。それにアデルとアサギリまで!」


「蓮さん! 大変なんです! 我が国ルグルが何者かに攻め込まれているらしく!」


 アデルから聞いた言葉に驚きを隠せなかった。


「え!? でもなんでそんな事?」


「別行動している私の仲間2人から連絡が入ったんです。思念伝達が扱える者がいますので」


 アサギリから詳しく話を聞くと、どうやら今日の朝方にゼリオラ大森林をルグルの国の方へ向かう兵士が大量にいたらしい。


 それでその兵士の後をつけていったらそのままルグルに攻め込んだらしく、なんとか2人も加勢して侵攻を止めてはいるみたいだが、数が多すぎて城が落とされるのも時間の問題だと言う。


「分かりました! それでは一刻も早く戻りましょう!」


 (けど一体誰が……まさかこの国の王子が仕向けたのか。護衛2人がここに来ていない事を昨日気にしていたし……)


「けど今から急いで戻ってもルグルまでは半日は掛かります……それでは間に合わない……」


「大丈夫です! ひとまず外に出て人気の無い場所まで行きましょう!」


「……?」


 3人は何をするのか不思議そうだったが蓮の言葉を信じて外へ出た。


 (この辺で良いかな。何かあった時のためにポータル起動しておいて良かった)


 蓮は先日覚えた複合スキルの1つポータルをルグルの街の訓練場の茂みにすぐに戻れる様に出しておいた。


「それではいきます!――ポータル!」


――ヴゥォォォン、シュン


 目の前に薄い緑色の光が地面に轢かれた陣の上から現れた。光は点滅をしており、4人で入ってもまだ少し余るくらいの大きさをしている。


「さあ、こちらに入って下さい!」


「……これは?」


「いいから急いで! これが終わったら詳しく説明します!」


 4人が陣の上に乗ったのを確認すると蓮はルグルの訓練場にあるポータルを頭に強くイメージした……その瞬間、陣から出る光は空へ伸びて4人をその場所から消滅させた。



――ジジッ、ブゥーン


「わっ! なになに!? 何が起こったの?」

「蓮さん! 何したんですか!?」

「蓮さん、これは一体……? ここは私が案内した訓練場?」


 3人は一体何が起こったのか把握できておらず、ちょっとしたパニックを起こしていた。


「あ、急にごめん! 今のは……まあ簡単に言うと指定した場所にワープするスキルかな。後で説明するから今は急ごう!」


「そうだね! アデルさん! アサギリさん行きましょう!」


 4人はルグルの入り口に着くと既に大勢の兵士が街へ入り込みルグルの街を警備している兵士と激しい戦いが繰り広げられていた。


「……そんな。あれはダルカンの兵士。なんで、昨日王子と話したばかりなのに」


「恐らく、王子は初めからアデルからの要求を受け入れる気なんて無かったんだ。わざわざダルカンまで来させたのも多分、優秀な王女の護衛がルグルから離れれば城を落としやすくなると考えたからだと思う」


「最初からこれが狙いだったんですね。――けどここで悲観していても仕方ないですよね。アサギリ! 街の住民の避難を! それとあの2人はきっと無事だから合流して住民を守って下さい」


「そして蓮と葵は私と一緒に城までついてきて下さい! きっとあそこにこの軍を率いている人がいるはずです。それに百合さんとティリアさんもいるはずですから」


「はっ、承知しました! 蓮さん、葵さん! アデル王女の事は頼みました!」


 アサギリはアデルからの言葉を聞くとすぐさま行動に移し、街の方へと全速力で消えていった。


 蓮はアサギリと言葉を交わすとアデルと共に急いで城へ向かった。


 (百合、ティリア。お前達なら大丈夫だとは思うけど無事でいてくれよ……)

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