第37話「生き残り」
「アイネさん。聞きたい事は色々あるんですが、まだエルフは絶滅していなかったんですか? 聞いた話では昔の争いでいなくなってしまったと……」
アイネは暗い表情で下を向きながら答えた。
「私達の仲間は昔の争いで大半を失ってしまいました。しかし、生き延びた数十人でこの森の奥地でひっそりと身を潜め暮らしていたのです」
「そうだったんですね。それでさっきのは……?」
「森へ食料を調達する際にウルフの群れと遭遇してしまい襲われていました。森のモンスター達はエルフに対して友好的では無いのです。人間側についた奴らだと思われてるみたいで……」
蓮はアイネの話を聞いて何とかしてやれないかと思ったがエルフもモンスターだという考えが頭をよぎりその先の言葉を口に出せなかった。
沈黙が続くと葵が突然切り出した。
「アイネさん。ウルフにはアイネさんと話せる人……ではなくてモンスターはいるんですか? 話を聞いてもらえればまた共存する道もあるんじゃ無いかと思うんですけど」
「何度か試みてはみたんですが、この森を現在束ねているウルフ達はこちらの話を聞こうとせず今も人間に、そしてエルフにも強い復讐心を持っています。ルドガーというウルフが率いています」
「……それでは私達から説得するのはどうですか? 人間も全て悪い存在では無い事を話せば伝わるはずです」
(おいおい、なんか話がどんどん進んでないか?)
「お、おい、葵! 俺達の目的はダルカンに王女を連れて……」
「素晴らしい! 是非説得しに行きましょう!」
おや? アデルさん……?
「蓮さん、蓮さん。王女はこういう話に弱いのです。誰かの為ならすぐ動いてしまう癖がありまして……」
アサギリが小さな声で俺に耳打ちしてきた。
「そう……なんですか。でもまあ王女自らが言うのなら仕方ないですね……俺達で説得するのでそのウルフがいる場所へ連れて行ってくれませんか?」
「分かりました。一度収穫した果実を里へ置きにい行きたいのでひとまず着いてきて頂いて良いですか?」
「はい!」
(エルフの里か……どんな所だろう)
◇
上へ続く扉からかなり離れた所に到着するとアイネは足を止めた。
(ん? ここか? 大木が2本並んでるだけで里なんて無いぞ?)
「少し待っていて下さいね」
アイネはそう言うと両手を前へ出して呪文の様なものを唱えた。
「《二つの
唱え終えると大木の間の空間が歪んで道が現れた。
(これは? スキルみたいなもので幻影を見せてたのか? 道が急に現れたぞ)
「こちらです。行きましょう」
蓮達が大木の間を通り終えると歪んだ空間が戻ってゆく。
木で囲まれた道を進んでいくと光が差し込んできた。眩しさで閉じた目を開けると……目の前にはいくつかの家が立ち並んだ集落が広がっていた。
「これがエルフの里……」
「こんなところがあったなんて知りませんでした!」
アデルも里の存在は一切知らず、大森林にこんな場所があった事に驚きを隠せない様子だった。
「タイガーウルフに会うのはひとまず里のリーダーに会ってからでも良いですか? 色々と説明もしておきたいので」
「分かりました」
里に入ると建物は8つ程建っており、里の中には小さな子供のエルフが走り回っていた。
(まだ幼いな。ここで産まれたのか?)
所々から敵意の様な視線を感じるが……
「あの、なんか色んな人から見られてる様な気がするんですが……」
「人間と会うのは久しぶりの人ばかりですからね。それにこの里に人間が来る事なんてありませんでしたから警戒しているのだと思います」
「あ、ここです」
話しながら里の奥まで歩くと他より少し大きな建物に着いた。
「お姉さま入ります」
「アイネか。いいぞ。入れ」
建物の中へ入るとそこには金色の長い髪に綺麗な
緑色の目が特徴のエルフが凛と立っていた。服装は布の面積が割と少なかった為、目のやり場に困った。
「なっ!? 人間が何故ここにいる! アイネどう言う事だ!?」
腰に掛けた鞘から細長いレイピアを取り出すと蓮に向かって構えた。
「ち、違うんです! この人達は私がウルフの群れに襲われているところを助けて頂いたのです!」
「なに? それは本当か?」
「はい! いつものように果実だけ取ってすぐに帰ろうとしたらいつもはいない所にウルフがいて……」
「そうだったのか……すまなかった! 妹の命を守ってくれた方々に刃を向けてしまった事を許して欲しい」
アイネが説明してくれたお陰で何とか場は収まった。
「名乗るのが遅れたが私はルーナ。この里のリーダーをしている者だ。そこにいるアイネの姉でもある」
姉妹とはいえ、顔は似ていなかったので全然気が付かなかった。スタイルの良さだけは似ていたが……変な事言うとまた葵に冷たい目をされるからやめておこう。
「それでお姉ちゃん。この人達がウルフ達へ昔の様な生活が出来ないか説得をしてくれるんですって!」
「ウルフを説得? こちらとしても今の状況を考えれば説得してくれるに越した事はないが、かなり難しいと思うぞ。あいつらは戦闘狂でまともに話なんて……ただウルフの長なら話は聞いてくれるかもしれない」
(うん? 戦闘狂? 聞いてない話ですね……一度考え直した方が……)
「大丈夫です! きっと一生懸命話せば伝わるはずです!!」
「ちょ……あ……」
(あーあ、葵のこのスイッチが入るともう止まらないな……)
「それじゃ、ルーナさんウルフのリーダーの所に連れていってもらえますか? ひとまず話してみます」
「本当ですか!? ありがとうございます! それでは案内はアイネに任せますのでお願いします」
「もし上手くいったらきっと他のエルフ達も喜んでくれると思います!」
(他のエルフ達!? ルーナさんやアイネさんみたいなエルフが更にたくさん……)
蓮は一人勝手にやる気を出した。
話を終えると蓮達はアイネに案内されて更に森の奥へ行く事にした。
◇◇
「もう少しで着きます! 確かこの大木を抜けたあたりに洞窟があってそこを住処としていたはずです」
大木を抜けると開けた所に出て確かに大きな洞窟の入り口が見えた。そして洞窟の入り口には門番の様に構えている二足歩行のウルフが2体いた。
(モンスターが立ってる? それに装備もつけてる!?)
「アイネさん! あれは?」
「洞窟を守る門番ですね。リーダーの配下にはダークウルフから進化を遂げて二足歩行となった者もいると聞いております。そしてその者達は人間の言葉も話せるはずです」
蓮も葵も目の前の事が信じられなかった。モンスターといえばよく分からない声で単純に襲いかかってくる者だと思い込んでいたからだ。
まして人間の言葉も話せるなどタワーの外に出れたとして誰に話しても信じてはくれないだろう。
蓮は入り口に近寄るとウルフ達がこちらを見てすぐに戦闘態勢を取ってきた。
(まあそうなりますよねー)
『おい! エルフに人間だと? 何の用だ』
「リーダーに話があって来ました。そこを通して頂けないでしょうか?」
『話だと? くっ、はっはっは! お前らなんかと話すわけ無いだろ! 昔俺達にした事を忘れたのか!』
『ここで食い殺されたくなければさっさと去れ!』
「お願いします! 貴方達が過去にどんな事をされたのか全て知ってはいませんが全ての人が同じじゃないの!」
葵は必死に訴えかけたがウルフ達は聞く耳を持たない。むしろ戯言を聞くのにイライラしてきて今にも襲って来そうだ。
(話すことさえ出来ないのか……)
その時、洞窟の奥から耳に響く低い声が聞こえてきた。
『――なんだ? 騒がしいな。何かあったのか?』
ウルフ達は2人とも声が聞こえると下を向きさっきまでの威勢はどこにいったのかというぐらい静かになった。
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