第36話「ゼリオラ大森林」

 城の自室へ戻った蓮は倒れ込む様にベッドにダイブした。無理も無い。

 結局、半日をスキル練習に費やした為、それなりに体力を消費したからだ。


 思い返せばリバースヒールを使っていればと思ったが、毎回毎回あれで回復していたら精神がすり減っていくんじゃ無いかと思い使用は控えた。


――2日後


 大森林へ向けて蓮達は出発した。

 今回はダルカンにあくまで交渉の為に行くのだが、大森林でモンスターに囲まれるリスクも考慮してアデル、アサギリ、葵、そして俺の4人で大森林へ続く扉へ向かう事にした。


 百合とティリアには城で待っているように伝えたが、百合は最後の最後まで一緒に行くと叫び散らかしていた。


 最後はティリアに諭された様で大人しくなっていたが……


「大森林に入る前に確認だが、ここからはモンスターがいるんだよな?」


「はい、大森林のエリアは円形上に広がっており上の階層へ続く扉までの間はモンスターがかなりの数出ます。主にウルフ系の敵ですね」


「王女様は此処に来た事は?」


「前にダルカンに行った時と合わせて10回程かな。そ・れ・と! 私の事はアデルでいいです。この名前気に入ってるの!」


「……分かった。それじゃアデル。俺と葵、そしてアサギリで守りながら進むので離れないでくださいね」


「分かった!」


 アデルは名前で呼んでもらえたのが嬉しかったのかこれまで見せなかった笑顔をして満足そうだ。


「それじゃ、行きましょう!」


――ギィィィィーッ


 扉を開けて一向は森に入った。



 大森林の3分の1程を進んだ所でこれまでのウルフとは違う種類のモンスターの群れに遭遇した。


「これは!?」


「ブラックウルフですね。基本的にウルフとは異なり3体以上の群れをなして出現します。ウルフの上位種ですが蓮さんなら問題ないでしょう」


 蓮は白剣を鞘に戻すと周囲の状況を確認した。


 (敵は4体か……四方を取り囲まれたらアデルを守りながらだと戦いづらくなるよな……あれ試してみるか)


「3人は少し下がっていて下さい!」


「分かった! これぐらいで良いか?」


「オーケー! それぐらいなら少し熱さを感じるだけだ!」


 蓮以外は後ろに下がり、技の効果範囲外に出たのを確認するとスキルを唱えた。


「やるか――炎毒陣!」


 右手をブラックウルフ達の方へ伸ばしてスキルを唱えると瞬時に熱風が巻き起こり、紫と橙色の竜巻が発生した。


 スキルを出した蓮の位置でも距離は離れているが熱波が押し寄せてかなり熱さを感じる。


 ブラックウルフ達は何が起きているかも分からず、竜巻の攻撃を受け、体は燃え上がっていた。


『――グゥァーーーンッ!』


 ウルフは腹の底から苦しむ様な雄叫びにも似た声を発して消滅していった。


「なんですか……今のは?」


 アサギリ含めて3人はキョトンとした顔でオレを見ていた。複合スキルの事はまだ話してないし、試したのも今が初めてだったから無理も無い。


「ああ、スキルを組み合わせてたら強化されたんだよ!」


 半笑いの顔でサラッと口にすると3人から総ツッコミが入った。


「蓮!! 先に言っておいてよ! 下がりはしたけど普通に熱かったんだからー!」


 3人からの言葉に反省した俺はペコペコと頭を下げた。


 (やっぱりこれは実戦で皆がいる場所で使うもんじゃ無いな……絶対ウルフ達オーバーキルしてたし)


「と、とにかく蓮さんが強いのは分かりました。護衛としては頼もしい限りです! 先へ進みましょうか」


 暫く進むと森の中心近くに集落跡の様な廃墟が出てきた。


「ん? ここは……?」


「あ、まだ言ってなかったですね。このゼリオラ大森林は昔モンスターと人が共存する街があったんです」


「モンスターと共存!? そんな事が可能なのか? 信じられない……」


 アデルからの話によると、かなり昔ここには人語を話す事ができたエルフ族が人間との架け橋になり街を築いたらしい。


 しかし、それをよく思わないモンスターと人間との間でいざこざがあり、その後、人間とモンスターは数年に渡り争いを続けた結果、街の消滅へと向かったのだそうだ。


 その際にエルフ族は両族の間に入り何とか収めようとはしたが、巻き込まれ絶滅へと追い込まれた。


「……そんな事があったんですか。でも今でもエルフがいるのなら会ってみたいです!」


 葵が口にした言葉に一同は頷いた。


 エルフと言えどモンスターに変わりはないのだが、話を聞いてると、きっと友好的な関係が築けるんじゃないかと思えたからだ。



 森に入ってから3時間ほどが経過していた為、4人は大きくそびえ立つ大木の下で休憩を取ることにした。


「結構歩いたなー! あとどれくらいで着くんですか?」


「今が3分の2程進んだので何事もなければあと2時間かからず着くはずですよ!」


「……あと2時間。長いですね……」


 葵はイラっとした表情でアサギリに視線を移した。アサギリは視線に耐えれなくなり目を逸らした。


「ま、まあ、幸いここは周りの監視もしやすくモンスターも居なそうなのでゆっくり休んでから行きましょう! ね?」


 アデル、ナイスだっ!


 葵の機嫌が確実に悪くなっていたのでアデルの言葉は葵をぎょした。さすが王女様の言葉だ……


「……そうですね。十分休んでから行きましょうか!」


 (ふぅ、なんとか収まった。これまでも長い時間移動した時は機嫌悪くなってたんだよな……ああなると手がつけれん)


 装備の手入れや休息を取っていると葵が何かを見つけた様に大きな声を上げた。


「あれ!! 誰か襲われてる!」


 今いる場所から少し離れた木の隙間から1人の女性がウルフに襲われているのが確認できた。


「おい、行くぞ!」

「うん!」


 その場に駆けつけるとそこには信じられない光景があった。


 襲われている女性は人間の様な見た目をしているが、1点だけ大きく異なる点があった。


 (耳が尖っている……まさかエルフ?)


「蓮! とりあえず今は助けよう! 怪我もしてるみたいだよ!」


「そうだな! 分かった!」


 (さっきみたいに炎毒陣使えば手っ取り早いんだけどあの女性も巻き込んでしまいそうだな……)


「あ、蓮! ちょっと試したい事があるんだけど炎陣出してもらって良い? 出したら下がっていて欲しいの」


「……? 良いけど何するつもりなんだ?」


 何か企んでいる表情でニヤニヤしている。


 (あー、変な事考えてる時の葵だ……)


「早く早く!!」


 蓮は催促されると葵の前に炎陣を出して蓮は陣の外に飛び出た。


「これでいいのかー?」


「オッケー! それじゃ見ててねー!」


「葵流――炎舞もどき!――かすみ!」


 (なんだそれ……?)


 葵が出した霞は斬撃を3発まで放つ技だが、炎陣の炎を通ることによって蓮の炎舞の様な炎の斬撃になって敵へ向かっていった。


 それぞれ1発ずつ敵に命中すると3体のブラックウルフは必死に地面に体をこすり火を消そうとしているがその炎は消えない。

 暫くすると炎を上げたまま消滅していった。


「成功ーっ!! 見た見た?」


「ああ、見たよ。俺の出した炎を纏わせた攻撃か……まるで炎舞みたいだった!」


 (けど技名長かったな……毎回あれ言うのか……? 言ったら怒るだろうから黙っておこう)


 でしょー!と言わんばかりのドヤ顔でこちらを見ている。


 ――しかし、他の人のスキル効果を利用するのは考えた事なかったな。他者のスキルとの複合……想像の域を出ないが試す価値はありそうだ。


「はっ、そういえばさっきの女性!……命に別状は無さそうだけど怪我が酷いな。ひとまずこれを」


 蓮は持ってきたハイポーションを女性へと飲ませると傷はみるみる癒えた。


「うっ、あ、私は……? はっ! 人間!?」


「気が付きましたか! 良かった! 俺は蓮って言います。あなたは……?」


「貴方が私を助けてくれたのですか。ありがとうございます! 私は……エルフのアイネットと申します。アイネで結構です」


「エルフ!?」


 葵が大きな声を上げたが他の皆も驚いていた。エルフは絶滅したものだと思っていたので無理も無い。

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