第34話「ルグルの王女アデル」

 ゲームの中からそのまま出てきたような王女の容姿に蓮は見惚れてしまった。


「何を黙っているのですか? それならば申し開きはないという事になりますが……」


「あ、すいません。あまりに綺麗で見惚れてしまっておりました」


「私が綺麗!? な、何を突然言ってるんですか!? そんな言葉では騙されないんですから!」


 王女の頬は薄ら赤くなりテンパっている。


 こんな状況にも関わらず女性陣からのシラーっとした目線が視線を交わさずとも感じ取れる。


 (違う! こんな時は褒めておく方が良いんだ! 分かってくれ!)


 蓮の思惑は皆に届くわけもなく、後で弁解しようと心に決めた。


 蓮は改めて話を進めた。


「下の階層から来たというのは事実です。今は何故か分かりませんが上がってきた扉は消えてしまいましたが……」


「ララ! この者達の言ってる事に偽りはないの?」


「アデル様。この者達の言っている事に嘘偽りはない様です」


 恐らく従者と見られる女性が水晶玉の様な物を見て答えている。


 (占いみたいなものか?)


「失礼ですが、そちらは?」


「この者はララと言って嘘偽りが無いかの判別が可能な天啓を持っています。それで貴方達の言葉の真偽を確かめたのです」


 (なるほど……多分天啓ってのは俺らで言うスキルみたいなものか。というよりこの国には形は違えどスキルホルダーがいるってことか)


「そういうことですか。それで真実だと分かったなら解放はされますかね?」


「嘘偽りがないのは分かりましたが、それであるなら実に興味深いです。もう少し話を聞かせてくれませんか?」


「王女! この者達を信じるのですか? 確かにララ殿の天啓は外れた事がありませんが……」


「アサギリですか。お前の心中も十分に分かります。しかし、敵意もない様なので話を聞こうかと思います」


「ぐっ……分かりました……」


「ではここだと広すぎるのであちらの部屋に来て頂けますか?」


 蓮達は王女のいた広間から横にある部屋へ案内された。


◇◇


「――ふむ、だいたいは分かりました。が、あまりに飛んだ話で一概には信じられませんね」


 蓮はタワーの外から入ってきて中に閉じ込められた事、始まりの街ゼルムでの出来事を事細かに説明した。


「信じられないのも無理はありません、実際に私達もタワーにこんな国があってそこで普通にしているなんて今でも信じられないのですから」


「ひとまず今日はもう遅いので客人として迎え入れます。この城で休んでいって下さい。ララ、部屋へ案内を」


「はい。それではこちらへ」


 ララという従者の案内でそれぞれの部屋へ案内された。案内を終えるとリリは何かあれば呼んでくださいと伝えて去っていった。


「ふぅ、とりあえず大ごとにはならなくて良かったな!」


「うん! でもまだよく分かんないことだらけだね。城の人達もなんかピリピリしてたし。私達の事だけじゃないみたい」


「そうですね。明日また王女様からお話を聞きましょう。それから今後どうするか決めた方が良さそうですね」


「それじゃ、今日の所はこんなに良い部屋も用意してくれたんだからゆっくり寝させてもらおう」


 蓮達はもう時間も遅かった為、すぐに眠りについた。



――翌朝


 目が覚めると久々に体の調子が良い。こんなにフカフカのベッドで寝たのは久々だったのでぐっすりと眠れた。


 準備をしているとドアの向こうから朝ごはんの準備が出来たとララさんが呼びに来てくれた。


 昨日の晩御飯も食べ損ねて空腹状態だった為、準備をすぐに済ませると食事が用意された部屋へ急いで向かった。


「あ、おはよう!」


 既に席にはみんな座っており、そこには王女アデルの姿もあった。


食事を食べていると王女から思い掛けない話をしてされた。


「皆さんに折り入ってお願いがあるのですが聞いて頂けますでしょうか?」


……?


 王女自らのお願いに4人は一瞬戸惑ったが、上の階層に行くヒントになるかもしれないと思いひとまず話を聞く事にした。


「まずはお話だけでも聞かせてもらえますか? どんな内容でしょうか?」


「ありがとうございます! 昨日の話を聞いている限り蓮様達はかなりの実力をお持ちであるかと思います。そこで上の国ダルカンへアサギリと共に私の護衛をして頂きたいのです」


「なっ、そんなこと聞いておりません!」


 後ろに控えていたアサギリが猛烈に反対してきた。その表情からは怒りの感情が全面に出ている。


「昨日話を聞いてから決めておりました。アサギリ、分かってはくれませんか? あなたの実力も十分に分かってはいるのですが敵対しているダルカンに行くからには何があるか分かりません」


「……わかりました。しかし、1つ条件があります。俺と手合わせして勝ったら認めましょう」


「それでアサギリの気が済むなら……蓮さん、勝手に進めてしまってすいません。どうでしょうか? お受けして頂けないでしょうか?」


 (アサギリさんと戦うのは正直気が進まないが、ダルカンって国の情報を得れるのは有難いな。タワー上層へ繋がる扉も確認しておきたいしな)


「分かりました。みんなも良いかな?」


 3人は蓮がそれで良いのならと快く承諾してくれた。


「蓮と言ったな? 30分後に城の中央にある鍛錬場で待っているから来い。アデル様も見届け人としてご足労頂けますでしょうか?」


「分かりました。それで蓮様が勝ったら貴方と一緒に私の護衛をして頂きます。アサギリが勝った場合は諦めましょう……」



「お兄ちゃん大丈夫?」


「ああ、アサギリがどんなスキルを持っているかも分からないけど全力で挑むよ。少しでも手を抜いたらダメな気がするんだ」


「蓮さん、怪我してもハイポーションどっさり準備してありますからね!」


 ティリアはただ純粋に心配してくれているだけなんだが、その笑顔が妙に怖かった……いや、嬉しいんだけどさ……


「蓮! 勝ってね!」


「おう!」


 (やるからには勝たなきゃな! 前回の戦いで得たスキル複合について試したい事もあるし良い機会だ)


 時間通りに鍛錬場へ着くとアサギリが待っていた。アサギリはこの国の兵士とは格好が異なり忍び装束のような格好をしている。


 両手で持っているのは刀でまさに忍者そのものといった感じだ。


 この国にはこんな文化もあるのかと思い、マジマジと見ているとアサギリが口を開いた。


「それじゃ始めるぞ」


 王女も見守る中、アサギリとの決闘?が始まった。


「カスタマイズ――[改変]白剣にAGI +とDEF +を付与」


 初めは様子見で白剣のみを片手に持ち、AGIとDEFの能力を上げた。相手の出方を伺うためだ。


「なんだ? その奇妙な呪文は……? 来ないならこっちから行くぞ!」


 蓮の速度程では無かったが一瞬で間合いを詰めて振り上げた刀を勢いよく振り下ろした。


――ギィーーン


 (中々早いな……けど!)


「――影移動」


 蓮は攻撃をいなすと同時にスキルを使いアサギリの背後に回り背中を狙って白剣を振った。

 攻撃は確実にアサギリの背中を斜めに切った筈だが、手応えがない。


 すると斬られたアサギリの姿がその場から消えて少し離れた場所に現れた。


「今のは危なかった。奇妙な技を使うな。」


 恐らく分身の類だろうが、それ以前に影移動のスピードに反応できた事に驚いた。普通なら今ので決まっていただろう。


 警戒したのか背後にも気を配り間合いを取ってきた今のアサギリに隙という隙は見当たらない。


 (厄介だな。ここらで試しとくか。複合スキル)

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