3章〜護るべき存在〜
第33話「交易都市ルグル」
「これはゼルムの街……じゃなさそうだな。他にも新しい街があったのか」
ゼルムの街よりは明らかに文明も発達した街が目の前には広がっていた。街の周囲は壁で囲われており、外からでは中の様子を細かく確認する事が出来ない。
「とりあえずモンスターはいなさそうだし、街の中に入ろうか」
「うん。ゼルムの街よりは賑やかそうだね。でもゼルムの街もそうだったけど何でこんな所に街があるんだろ?」
「分からないな。とにかく中に入って情報を集めよう」
街の入り口には城門があり、警備の人が立っていた。
「お前たち、ルグルの者ではないな。ダルカンから来たのか!?」
こいつらは何を言ってるんだ? 全く要領を得ない。
葵が前に出て兵士へ話しかけた。
「えと、兵士さん? 私達はタワーの下の階層にあるゼルムという街から来ました。良ければ中に入りたいのだけど……」
「ゼルム? 下の階層? 何を言ってるんだお前は? ハハッ」
「ここは昔から2つの都市とその間を挟む大森林の3階層分の地域しかない場所だぞ? 上への扉は存在するが、開いた事はこれまで一度も見ていない」
どうやら下の階層から上がってくる事があり得ないという話になっているらしい。そもそも3階層で成り立ってる? 上の階への扉は閉ざされている? 聞きたい事が山程ある。
「下から上がって来たのは本当なんです! 良ければこの街の事を一番詳しく知っている方とお話しさせて頂けませんか!?」
「今はダルカンの奴らでも通す事が出来ないのに下の階層から来たという得体の知れない者達を通すわけにはいかん。即刻立ち去れ!」
ダメだ。話が通じないしこれ以上話しても余計こじれるだけだ。
蓮達は一度引き返すと状況を整理した。
「どうする? 一度ゼルムに引き返す?」
「んー、そうだな。優里さんに相談するのと村長に聞いてみるのもいいかもしれないな……」
4人は入ってきた扉に向かった。しかしそこにあるはずの扉が消えていた。
「え? 確かにこの辺りから来たはずじゃ……?」
「消えてる!」
(戻れないのか……もしくは条件を満たすまでは上へも下へも行けないってところか)
「まずはやっぱりあの城下町に入るしか無さそうだな」
「でもどうやって? あの門番がいたら通してくれそうもないよ? ……倒しちゃう?」
テヘペロ顔で葵はこっちを見ているが冗談に聞こえてこない……何か百合もつられて同じ顔してるし……
「倒すのは余計中で動きにくくなるしやめた方が良いかと……」
ティリアのまともな意見で葵の舌は引っ込んだ。
(ティリアはまともで良かった……)
「古典的な方法だけど日が落ちたら外壁から登ろう。ゼルムの街でロープも買っておいたし。まさかこんな状況で使うとは思わなかったけどな」
◇
日がすっかり落ちて辺りは真っ暗になっていた。ここの仕組みもゼルムと同じ様だ。太陽や月が出ているわけではなく天井の光源で明るさが調整されている。
外壁の周りは蓮の手元で燃えている炎の灯り以外真っ暗闇だ。
「お兄ちゃんのそのスキル便利だね!」
「いや、うん、まあそうなんだけど使い道違うけどな……焔なんかすまない」
蓮はストレージからロープを取り出すと瞬身を使って外壁の上まで登った。外壁上までの距離は瞬身で移動できる目一杯の距離だ。
上へ登り30秒の硬直が解けると下へロープを下ろして3人を引き上げた。
「よし、あとは降りるだけだな。人も居なそうだしさっさと降りよう」
反対側へ下ろすとロープを伝って4人とも無事に街の外壁の内側に入り込む事に成功した。
暗い裏通りから街に出ると街の中はまだ明るく思った以上に人も出歩いていた。
「わぁ、ゼルムとは違ってここは凄い活気があるね! あ! 屋台みたいなお店が並んでる!」
「色んなお店がありますね!」
「まずは宿屋を……」
――ぐぅぅぅぅっ
「蓮のお腹は正直だね!」
葵達に笑われながらひとまず食事を取る事にした。言われてみればこの階層に来てから1度も食べ物を口に入れていなかった。
「あそこのお店なんてどうだ?」
『酒場ルエール』と看板が出ており、そこまで人も入っておらず、あまり目立ちたくなかった蓮達にとっては好都合だった。
「いらっしゃい! 好きな席に座りな」
「見ろよ! お酒があるぞ!」
蓮はお酒のメニューを見てテンションが上がっていた。無理もない、このタワーに入ってからゼルムでは酒が一切置いておらず一滴も飲めてなかったのだ。
「けど、ビールみたいなのは無さそうだな。どれも果実酒の類だ。大森林があるとか言ってたからそこで採れた果実がメインになってるんだな。ふむふむ」
酒が無いと生きていけない! というわけではないがやはりテンションは上がるものだ。
「注文は決まりましたか?」
「あ、それじゃー、このお任せ果実酒を4つと……」
「――警備の者です。見回りに来ました。ルグルの腕章を見せて頂きます」
「いつもご苦労様です。今日は2回目ですね。何かありましたか?」
突然入ってきた見回りの兵士が入ってきた。どうやら腕章を確認しにきたようだが、もちろん蓮達は持っていない。
(おい、何だ腕章って!? マズイな……)
「今日昼間に怪しい奴らが城門のところにやって来たらしいので警戒しているんですよ。ん……? 早くお前達も腕章を見せなさい」
「あのー、その、家に! 家に忘れてしまって!」
「腕章を? 4人ともか? 付けるのは義務化されているはずだぞ?……確か昼間の怪しい奴らも4人組だったはずだが……」
「ちょっと城の方まで来てくれるか? そこで話は聞かせてもらう」
ここで戦闘になれば周りの人にも迷惑が掛かるので蓮達は大人しく兵士に連れられて城へと向かう事にした。
◇
「この中で待っていろ! 準備が出来たらまた呼ぶからな。大人しくしてろよ」
「もお、お兄ちゃんがあの店にするからー! どうすんのー!?」
いや、ご飯を食べたいと言ったのはお前達だろ……と思いながらも女性3人からの鋭い視線で謝るしかなかった。
「ま、まあ素直に話そう。ちゃんと説明すれば分かってくれるはずだ」
――30分後
「おい、お前達! アデル様が話を聞きたいそうだ。こっちへ来い」
(アデル? この国のお偉いさんか? 村長みたいな話しやすいおっちゃんだと良いなぁ)
蓮達は暫く歩くと大きな扉の前に立たされた。
「失礼の無いようにな。――それにしても何で王女がこんな奴らに会うんだ……」
「王女!?」
蓮は考える時間も与えられぬまま、王女とやらが待つ部屋に通された。
「貴方達が下から上がってきたという者達ですか? なぜそんな嘘をつくのです? 真実を話して頂けませんか?」
綺麗な言葉の割にいきなり高圧的だなと思い顔を上げるとそこには金髪で凛とした表情の表情の女性が美しいドレスに身を包みこちらを鋭い眼差しで見ていた。
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