第32話「別れと新たな地」

 テルンからはタワーの事やスキルの事を聞けずに去られてしまった。しかし、倒さないように調整する余裕なんて無かったし仕方なかった。



『タワーの構造改変を開始……』



――ガゴンッ


「いきなり何だ!?」


 ふと頭に直接語りかけてくるような声が聞こえたと思いきや、タワー全体が大きく揺れた。

 揺れはすぐ収まり、特に何も変化はない様に見えた。


「今のは何だったんだ?」



「はっ! そんなことよりも……! 葵! 百合! 大丈夫か!?」


「うぅ、何とか……私も百合ちゃんも何とも無いよ。少し気を失っていただけ。あれ!? ヘルンは? どうなったの?」


「倒したよ。けどタワーの事については何も聞けなかった……」


「ううん、蓮が無事ならそれでいいよ! ありがとっ!」


「お兄ちゃん? なんで泣いてるの?」


「え? 何でだろう。暁人さん達を殺したテルンを倒して嬉しいはずなのに何故か涙が止まらないんだ。間違ってなかったはずなのに……」


 テルンは悪。ここにいる皆がそう思っていたが、蓮だけは何故か複雑な心境だった。

 他の管理者と会えば涙の理由が分かるのだろうかと思い蓮は涙を拭った。


「よし、一旦街へ戻ろう。前の階層で待ってる優里さんも一度街へ連れて帰らなきゃいけないし」


「そうだね!」


 19階層へ戻ると優里が不安そうな表情で祈っていた。


「蓮さん!! 大丈夫でしたか!? あいつは……?」


「なんとか倒しました。けど暁人さん達は……」


「そうですか……いえ、ありがとうございます! 無念は晴らせました。それよりも蓮さん達が無事で良かったです」


 蓮達5人は少しの休憩を挟み、十分に動けるようになってから下へと向かいタワーを戻って行った。


 ゼルムの街へと着いた一向は疲れが相当溜まっていたのか、それぞれのギルドホームへ戻ると倒れるように眠りについた。



 翌朝、他の誰よりも早く起きた蓮は昨日のテルンからの最後の言葉が気になりスキル画面を開いた。


「これは……」


 スキル一覧には『重力制御』という文字が書かれていた。テルンが最後に受け渡したと言っていたのは自分のスキルだった。


 他の人達を殺めたスキルを使うのは抵抗があるが今後皆を守るためには必要なスキルだと思い、複雑な気持ちではあったがテルンに感謝した。


 そしてスキルを複合したMIXミックスについて。これについても可能性がありそうだから他の組み合わせでも試さないと……


 MIXについてスキルの組み合わせについてのヒントが記載されていないかスキル画面を見てみたが、『特定対象のスキルを複数組み合わせる事が可能』としか書かれていなかった。


――ドンドンッ


「おはよーっ! お兄ちゃん起きてるー?」


 勢いよくドアをノックして百合が声を掛けてきた。そそくさと準備を済ませて俺達は街へ出かけることにした。


「今日はタワー21階層へ向かう為の準備をしよう」


「分かった! でも21階層まで上がると毎回街に戻るの大変だね」


「確かにな。転送装置みたいなのあればいいのにな!」


「蓮はまたすぐゲーム脳になるんだから」


 昨日の事を忘れるかの様に4人は談笑しながらエルムの鍛冶屋に向かった。装備の調整もそうだが、メインは前回メンテナンスしてもらった時に武器のレベルアップについて聞いていたのでそれをおこなってもらう為だった。


「エルムさんいますか?」


「はい! いますよー! 今日はどういった用件で?」


 武器のレベルアップについて話したらこころよく引き受けてくれた。素材については20階層までの溜め込んでいた素材でどうにかなりそうだ。


「それじゃ1時間もしたら完成しますのでそれまで時間を潰してて下さい!」


 蓮達はこの時間を使ってタワー連合のホームへ挨拶しに行った。


 ホーム前へ着くと以前は迎えの暁人さんがいたが今はもういない。グッと込み上げる気持ちを抑えてホームの入り口へ入った。


「あ、蓮さん! それにみなさんも! 今日はどうされたんですか?」


「優里さんこんにちは! 21階層に行く為の準備の途中で少し時間が空いたので挨拶に来ました」


「そうでしたか! 私達は人数もかなり減ってしまって体制も崩れてしまったので立ち直してから向かいます! 必ず行きますのでまた会いましょう!」


 優里さんも立て直しのためか忙しくしていそうだったので長くは語らず次会う約束をするとホームをを後にした。


 あとは最低限の食料だけ用意して完了だ。日持ちする様な保存食を買い出しに行き、ストレージに詰め込むと準備は全て終わった。


「よし、あとは武器を受け取るだけだな」



 少し早いが鍛冶屋に戻ると相変わらずの手際の良さで既に武器のレベルアップは完了していた。


「あ、お早いお戻りで! 武器は全てご用意しましたよ! あとティリア様の武器も素材がかなり余ったので新しく作っちゃいました!」


 ティリアは初期武器を作っていたので非常にありがたかった。

 4人は並べられた武器を手に取り能力値を確認する。


蓮:白剣[零]→白剣[壱]

葵:氷華→氷凛華

百合:ヒドゥンボウ→影黒弓

ティリア:フォースロッド


 ティリア以外は武器の効果は変わらずに能力値がそれぞれ1.7倍程強化されていた。


 ティリアの武器は能力補正は極小だったがロッドを振った際に火、水、雷の属性の魔法弾がランダムで発射されるものだった。威力は低めだが牽制にはなる。


「ありがとう! 十分すぎるよ!」


「私の武器まで作ってくださりありがとうございます! これなら蓮さん達のサポートが少しは出来そうです」


 蓮達は武器のレベルアップも終わり、全ての準備を終えるとホームへと帰った。


「みんな今日は色々と歩かせちゃってごめん。でもこれで21階層へ行く準備が整ったから今日は休んで明日にでも早速向かいたいと思う」


「うん! 上の階層がどうなってるか不安だけど行くしかないもんね!」


「そうだね! お兄ちゃん、葵さん、ティリアさん! 頑張ろうね!」


「私も全力で皆さんをサポートします!」


 4人は不安とワクワクの中眠りについた。



 まだ外が明るくなる前。

 

 上階への扉の前に4人は立っていた。


「それじゃ、21階層目指して登ろう! タワー道中はなるべく敵との戦闘は避けながら進もう」


「了解!」


 三人は声を揃えて返事をした。


◇◇


 登り始めてから2日目に20階層、ヘルンと戦った場所まで到達した。モンスターとの戦闘を避けたおかげで大きなダメージも受けず持ち込んだ道具も消耗せずにここまで来れた。


「よし、上に上がるか。どんな敵がいるかも分からないから上がったらなるべく固まりながら周囲を警戒しつつ進もう」


 4人は階段を登り、扉を開けた……


 しかし、目の前に広がっていたのは想定外の光景だった……



「……え? これって!? お城!?」



 蓮達の少し離れた先には高くそびえ立つ大きな城が立っており、その周りには城下町の様な煉瓦れんが造りの家が立ち並んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る