第30話「20階層到達」
――フィアーズとの戦いが終わって1週間後
蓮達は20階層に向けての準備を急ぎで整えている。というのもタワー連合は少し前に20階層に出発した為だ。
あれだけボロボロにやられて、もう次の戦いに挑めるのは大規模ギルドならではだなと感心している。
「――あとは装備のチェックだけしたらいつでもいけるよ!」
「よし! それじゃーエルムさんのところに行ってメンテナンスしてもらったら出発するか!」
早速、エルムさんがいる鍛冶屋に向かった。
◇
「エルムさん! 来ました!」
「いらっしゃいませ! 装備のメンテナンスですよね! それでは装備を机に置いて下さい! すぐ済ませます」
蓮達4人は消耗した装備を机に置いてメンテナンスが終わるまで街を少し歩くことにした。
「ふぅ、この1週間休養したおかげで体は回復したなー! 次はこの街にいつ戻って来れるかも分かんないから街の探索でもしようぜ!」
「そうだね! 次帰ってくるのはとりあえず20階層をクリアしてからだもんね」
「なんか色んな店増えたね! ホルダーの人が店を開いたりしてるんだな」
蓮達のようにモンスターを倒してお金を稼ぐ人もいれば戦闘スキル乏しい人達は自分達のスキルを使って店を開いていた。
その中の1つに『占いの館ポポ』という店があった。
「みんな! 占いだって! やってみようよ!」
「予知能力系のスキルホルダーがやってる店か? でも予知能力スキルって当たる確率1%も無いとか言われてたぞ?」
「お兄ちゃんはいつもそうやって現実的な話ばっかする! とりあえず入ろうよ!」
妹の押しに負けて渋々入ることになった。
「ここは占いの館です! 1人50銅貨ですが占いますか?」
(高過ぎるだろっ! 当たるかもわかんないってのに……)
「お願いします!」
(はぁ、即決かよ……)
皆それぞれ恋愛のことやらこれからの事を占ってもらったがどれもこれも信憑性にかけるフワフワした事を並べられていた。
「では最後に貴方ですね」
「……んー、いくつもの光が合わさって貴方の周りにいる人達が止まって見えます」
「ん? なんだそれ。 それでどうなるんですか?」
「以上です!」
(ほらやっぱりー! フワフワどころの騒ぎじゃ無い。意味がわかんないぞそれ)
(いや、待てよ。1つだけ周りが止まった経験があるが……まさか……)
「ありがとうございましたー!」
店から出ると蓮はげんなりしながら女性陣のキャッキャしている話を聞いていた。
どうやら恋愛の話をして盛り上がっているようだが俺は今の30分程でモンスター何体分のお金が無くなったんだと猛烈な勢いで計算していた。
それから昼食を取って、時間もそれなりに経ったので鍛冶屋に戻った。
鍛冶屋に入ると目の前の机には見違えたようにピカピカな装備が並んでいた。
「あ、みなさん! 今丁度終わったところです! そういえば防具に効果が付与されていましたよ。 状態異常耐性みたいですね」
前回の戦闘経験を元に付与されたのかなと思い装備を受け取った。
蓮に至っては魔改造で付けた状態異常耐性も合わさって全ての異常を無効にする様になっていた。
「ありがとう! それじゃ、上の階層へ行ってくるから戻ったらまたメンテナンスお願いするよ」
「はい! 気をつけて行ってきて下さいね! 待ってます」
エルムへ別れを告げると四人は20階層目指してタワーを登り始めた。
◇
――タワー16階層
タワーに入ってから2日目。
15層からは他のホルダーとあまり会わなくなって自分達だけでモンスターを相手する事が増えてきていた。
「上からフライングバッドが攻撃してくるぞ! ダイブだ!」
「分かった! はっ! てやぁ!」
少し大きなコウモリのモンスターは数匹で束になって攻撃を仕掛けてくる。上空からのダイブ攻撃は避けながら反撃出来るのだが、超音波による遠隔攻撃に苦戦していた。
超音波をくらうと一定時間方向感覚が狂って視界がグルングルンするのだ。
「きゃっ!」
百合は矢を放つ瞬間を狙われて超音波をくらってしまった。
「ティリア! 頼む!」
「はい! シンクロ!」
ティリアのスキルで混乱状態になった百合の状態異常を敵へ移していく。
蓮は超音波が状態異常耐性のおかげで一切効かないが、葵と百合にとってはティリアのこのスキルが頼りだ。
「ありがとう! ティリアさん! ――集の矢!エリアレイン」
百合の範囲攻撃が残りの敵にヒットして全て消滅した。
「百合。今なんかエリアレインの威力高くなかったか?」
「エリアレインで放つ前に集の矢のスキルを入れたからかな? 合わせて使えないかなーと思ったら成功したね!」
「2種類のスキルを同時掛けしてスキル自体の威力が上がったって事か」
スキルの組み合わせでスキルが強化される仕組みなら俺のスキルも色々と組み合わせたら更に強化されるかもしれないな。
「とりあえずこの辺りのモンスターは減らしたから17階層上がる前にレストエリアで休憩を取ってから進もうか」
「そうだね! あ、前に街で寄ったライム亭って覚えてる? そこでサンドウィッチをテイクアウトしてきたのです!」
「おおおお!」
葵の一言に3人は大いに盛り上がった。なんせ昨日は保存食の様な食事を取っただけでまともな食事にありつけるのは1日ぶりだったから。
レストエリアに入るとどこから出てきたのか、むしろどこにあったんだと思える大きな布を葵は取り出して地面に広げた。
「さあ! 食べよ食べよ!」
「いただきまーす!」
◇◇
――19階層
「ふぅ、いきなり敵も強くなって来たけどこれぐらいなら何とかなるな」
「そうだね!」
「あとは20階層に続く扉を探すだけなんだけど、中々見当たらないね」
「あ! 誰か倒れてる!」
「あれは!? 優里さんっ!!!」
優里に駆け寄ると倒れていた体を起こしてすぐにハイポーションを飲ませた。
ハイポーションは18階層でティリアのスキルが上がって作れる様になった回復アイテムだ。ポーションの3倍の回復力、回復速度が備わっている。
「うっ、これは…………ありがとうございます。かなり楽になりました」
「何があったんですか? 他のギルドの人達は!?」
「……恐らく全滅です。この先の扉から20階層に行けたのですが、前に蓮さんから言われていたヘルンという奴が部屋にいました」
「そいつが『これは試練だ。弱き者はここで死ぬのが定め』と言って……一瞬でした」
「私は何故か分からないが、ただ1人逃がされました」
「そんな……暁人さんもですかっ!!?」
「はい……すいません。私1人では守れませんでした」
「……分かりました。優里さんは近くのレストエリアで休んでて下さい。あいつは俺が!」
「ティリアすまないが優里さんをレストエリアで介抱してやっててくれ。もし落ち着いて余裕があればこっちに合流してほしい」
「はい! 優里さん行きましょう」
「蓮さん、すいません……頼みました」
守れなかった後悔からなのか優里の目には大粒の涙が溢れ出ていた。
それを見た蓮はヘルンに対する怒りで理性を抑えるのに必死だった。
(暁人さん……生きててくれ……)
20階層への階段を蓮、葵、百合の3人は駆け足で上がって行った。
階段を上がり扉を開いた先には見覚えのある黒いフードを被った奴が立っていた。
『やあ! 待っていたよ! いい顔してるじゃないか! 怒りと恐怖が入り混じった表情だ! 最高だよ!』
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