第29話「VSフィアーズギルド-終幕-」

「優里さん、暁人あきとさん! あいつに炎陣を出させないような隙を作れませんか!? 一瞬でもいいんです!」


「隙と言ってもあいつは遠隔から炎舞による攻撃でこっちに寄っても来ないですからね……かなり難しそうです」


「蓮さん、炎陣を出した時にあいつ一瞬だけ硬直している気がしたんですがそこを狙えませんかね!?」


 確かに蓮も先程の攻撃の際に炎陣発動の後にコンマ何秒ではあるが動きが不自然に止まったのを確認していた。


 しかし、瞬身で炎陣の内側に入る際にまた炎を喰らってしまい、流転を使っていたら硬直は解除されてしまう。


 (影移動で移動するにしても炎のせいで足元の影が目視出来ないんだよな……あいつの頭の上に影でも出来れば別なんだが……)


「……! 優里さん、そのシールドって好きな場所に出せませんか? さっき暁人さんを守ったみたいに」


「ああ、出来るが……距離が伸びれば出しておける時間も短くなるぞ」


「なら俺の合図であいつの頭上にピンポイントでシールドを横向きで出して下さい。一瞬で大丈夫です!」


「分かった! 何するか分からんが合図をくれ!」


 蓮はコンバートを使い暁人のステータスを自身に移すと焔目掛けて先程と同様に攻撃を仕掛ける為に走った。


『おいおい、また同じかよ! 効かねーって!』


「やってみなくちゃ分かんないだろ!」


えん……』


「今だっ!優里さん!」

「シールド!」


『……じん!』


 焔が炎陣を出すのと同時に焔の頭上にシールドが現れた。シールドの真下、焔の頭には影が落ちた。


「――影移動」


 影移動で瞬時に焔の頭上に現れると蓮は両手で持った白剣を焔の右肩に突き刺した。


『ぐふっ、がっ』


 攻撃を受けた焔は一体何が起きたという表情で戸惑っていた。


 蓮はここで仕留めないとチャンスはもう無いと悟り、続け様に攻撃を仕掛けた。


「瞬身! 硬質化!」


ここで全て吐き出す覚悟でこれまで繰り出してきた瞬身よりも遥かに早い速度で敵の体に攻撃を入れ続けていく。


「はぁっ! たぁっ! りゃっ!」


 優里と暁人もただ立ち尽くすしかなかった。


 焔はあまりの速度に炎陣を出すどころか剣を構える事すら出来ていない。


『や、やめてくれっ!』


「そうやって命乞いしてきた人を何人殺した……これでお終いだ……」


 大きく振りかぶった一撃が入ると焔はその場でバタンッと倒れた。


「――や、やったんですか?……蓮さん! 凄かったです!」


 焔はその場で命を落とした。しかし、焔率いるギルドが奪ってきた命はこんなものでは無かったので自業自得と言わざるを得ない。


「何とか……なりましたね……」


 蓮は瞬身を出した硬直とは関係なくコンバートを使いながらの攻撃に耐えれなかった体が悲鳴を上げていた。

 それ程までに凄まじかったのだ。


 蓮は暁人に背負われながら焔の元に寄ると、もう生きていない事を確認するや、トレースでスキル《炎神》を取得した。


 (これは大事に使わせてもらうよ)


「蓮さん、その体で無理を言ってしまいますが、他のエリアを確認してから街へ戻りたいと思います」


「分かりました。俺もここに連れてこられた街の女性の安否が気になるので行きましょう。きっと他のエリアに囚われているはずなので……」


 そう言うと、蓮達は残りの3ヶ所のレストエリアに向かい戦況を確認した。


 とは言え、蓮達が行く頃にはどこのエリアも戦いは終わっており、捕らえられていた人達も全て解放されていた。


 最後に確認したエリアにはエルムさんもいて、大きな怪我もなく無事であった。


 蓮の疲労も酷かったので街へ戻って落ち着いたら顔を出す約束をエルムさんとして、その場はタワー連合の人に連れられ街へ戻ることにした。


「他のエリアも大丈夫そうで良かったです。完勝とは程遠かったですが、これ以上被害が拡大する事もないでしょう。私達も街へ戻りましょうか」


「そうですね。俺ももうヘトヘトです。それに先に戻ったギルドの仲間達が気になりますし」



 タワー連合を含む34のギルドで挑んだフィアーズギルド討伐戦はお互い数十人の死者を出す形で終わった……


 その後、ギルドマスターを失ったフィアーズは統率が取れず、そのまま自然消滅していった。

 改心して他のギルドに入り直す人や俺達を憎んでる奴と様々だ。


 シュトルはと言うと、街へ連れ帰る途中にタワー連合の人達を振り切ってそのまま消えていったらしい。その後の足取りは分かっていないようだ。


◇◇


「ただいま。戻っ……」


 葵と百合、そしてティリアは言葉を言い終えるより先に『蓮! 大丈夫!?』と声をかけてきた。


「心配かけて悪かったな。とりあえずポーションあるか? 手持ちが無くなっちゃって」


 そう言うと三人はすかさずポーションを取り出して3本の瓶が口に突っ込まれた。


「ふぁりがふぉー(ありがとう)」


 少し休むと3人と別れてから何が起こったのか説明をした。相手のギルドマスターと戦った事や何人の人が亡くなったとか色々だ。


 1時間以上話したところでドアがノックされた。


「はーい!」


 扉を開けるとそこにはエルムとデュラムの姿があった。


「あ、急にすいません! 皆さんにお礼が言いたくて私達から来てしまいました」


 二人はタワー連合の人に蓮達の場所を聞いて尋ねたようだった。


「皆さん本当に今回はありがとうございました! 蓮さんが相手のリーダーを倒して頂いたおかげで助かったと聞きましたので……」


「いえ、今回エルムさんが捕まったのも俺達にユニーク装備を作って頂いたのが少なからず原因だと思いますので。こちらこそ迷惑かけてしまってすいません」


「気にしないで下さい! 蓮さん達に装備を作ったことは少しも後悔していません!」


「ありがとう! でもエルムさんが無事でよかったよ!」


 少し話をしてから二人とは一旦別れて、後日装備のメンテナンスの為に鍛冶屋に行く約束をした。


 その日は4人とも疲労が酷く、まだ外は暗くなり始めたばかりだったが自室に戻り眠りについた。



――翌朝


 タワー連合の人が7thのホームに来た。何やらマスターが話があるから来て欲しいとの事だった。


 4人でと言われたので準備するとタワー連合のホームへ向かった。


 ホームの入り口へ着くと見た顔の人が待っていてくれていた。


「暁人さん!」


「蓮さん! わざわざ来て頂いてすいません。早速ですが、中でマスターが待っておりますので」


 蓮は暁人に案内されマスターの優里がいる部屋へ入れられた。


「蓮さん! 今回は来て頂いてありがとうございます!」

「大丈夫ですよ! それで……お話っていうのは?」


「あ、すいません。話というのはタワー攻略についてなんです。管理者の存在はご存知ですか?」


「はい。村長からも聞きましたし、20階層の管理者には以前に一度会いました」


「――え!? 管理者と会ってるんですか?」


「はい。と言っても二言三言言葉を交わしたぐらいですけど……名前はヘルンと言うらしいです。戦いはしませんでしたが焔の何倍も威圧感がありました」


「なるほど。話はまさにそのへルンを倒す話に直結するかもしれません。20階層に向けて数日の間にここを出発しようかと思ってるんです」


 優里はこの2週間ほど何の進展もないままの状況を危惧して、そろそろ上を目指さなければと考えていたらしい。


 確かにホルダーの中では精神的にもひどく疲弊した人が増えていると聞いていたのでその判断は間違っていないだろう。


「内容は分かりました。それで俺達に話というのはそれを伝える為だけなんですか?」


「いえ、ここからが本題なのですが、私達タワー連合に加入して頂けないでしょうか? 不自由はさせないと約束します」


 蓮達は少し考える時間を貰い四人で話し合った。

タワー連合なら、この人物ならと思ったが、もともと大所帯のギルドに入るのは避けていたので丁寧に説明して誘いを断った。


「それでは俺達はそろそろ失礼します」


「蓮さん! ギルドは違ってもいつでも頼って下さい!」


「はい! ありがとうございます!」


 蓮達は優里との話しが終わるとホームへ戻り、早速次の行動に移そうとしていた。



「――それじゃ次は20階層だな。管理者ヘルン……あいつに会いに行こう」

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