第20話「ギルドクエスト」

 ギルド登録所に着くと昨日は気づかなかったが端の方で賑わいを見せている一角があった。


 近づいてみるとそこには依頼を受ける為のクエストカウンターがあった。カウンターには受付嬢の女性が二人せっせと受付をこなしている。


 そしてカウンター横の掲示板には更に人が群がっていた。この掲示板で依頼を確認してカウンターで受ける仕組みの様だ。


 依頼は街の住人から出されているものもあればホルダーが依頼したものもある。


 ホルダーからの依頼はどちらかといえば武器の交換や、レベル上げの依頼などが多い。


 蓮達も早速依頼を確認していると掲示板の端の方に明らかに誰も受けないだろうと思われる報酬の依頼が張り出されていた。


「なんだこれ? 報酬は……《街の住民からの感謝》?」


 達成難易度はEからSまである内の一番下であるEとなっていた。


 通常ならこの手の依頼はチュートリアル的な物で受ける人もいないが、蓮は不思議に思いこの依頼を受けることにした。


「結局あの依頼受けることにしちゃったけど本当に良かったの?」


「ああ、初めての依頼で難易度はEだったし試すには丁度いいかなと思ってね。それに街の人達から感謝されるのは悪い事じゃないだろ?」


 蓮はクエストを受領して早速、依頼主の人に会いに行くことにした。貼られていた依頼書によると依頼主は街の鍛冶屋にいるエルムという人だ。



「ここが鍛冶屋か。街も広いからこんな所に鍛冶屋があるなんて知らなかったな。それにしても本当にここに人がいるのか?」


 目の前の鍛冶屋は相当びれており、看板もボロボロで人が住んでるとは思えない。


 他にもゼルムの街には鍛冶屋がいくつかあり、ボロボロになった武器を修復したり、タワー内でドロップする素材から装備も作成してくれる場所である。


「どうも。依頼を受けて来ました」


『はーい! 今行きます!』


 奥から出て来たのは想像していたのとは違う華奢な女の子だった。オレンジ色に輝く髪はゴムで留められポニーテールを揺らしながら走ってきた。


『――依頼受けて頂きありがとうございます。私はここで鍛冶屋をやっているエルムと言います』


 (この子もNPCじゃない気がするな。自分の意思を持ってそうだ……)


『あの……』


「あ、すいません! それで、依頼というのは?」


『はい、装備作成に使う為の鉄石を5つほど取って来て頂きたいんです』


『けど、お礼は何も出来なくて』


 依頼内容通り報酬は特別何も無い様である。


「大丈夫ですよ! それでは集め終わったらまた来ますね」


 蓮達は依頼内容をエルムから聞くと鍛冶屋を出た。


「蓮、鉄石なら8階層でも確か落ちてるはずだからそっちに行ってみない? 11階層だと人も多そうだし」


「そうだな! そっちのほうがリスクも低いし今日は8階層に行ってみようか」


 タワー8階層へやって来るのは1週間ぶりくらいになる。ここに来るまで10階層も通って来たが亡骸はもう亡くなっていた。


 タワー内で死亡した場合、1日程はそのままの状態で放置されるがその後、タワーの壁面や床面に吸収される形で亡骸なきがらは消滅する。


 8層に着くなりコボルトやゴブリンがかなりの数沸いていた。タワーが封鎖された影響で1階層から登って来るホルダーが居なくなった事が影響しているのだろう。


「まずは辺りのモンスターを倒してから探索しよう!」


 蓮達は周りの敵をものの5分ほどで片付けた。ティリア以外はレベルも40を超えており、この階層の敵には苦戦しなくなっていた。


 暫くフロア内を探索すると鉄石を指定された倍の数回収して8階層を後にした。


 幸運にも帰る道中、8階層と9階層で宝箱がある部屋を2つ見つけて葵と百合が使えそうな武器が入っていた。これまでの武器もかなり消耗していたので新調出来たのは大きな成果だった。


「8階層なら余裕だったね! 武器も使えそうなのゲット出来たし! でもこれって刀だよね?私が使っていいの?」


「葵のAGIの高さならきっと相性いいはずだよ! それに剣道やってたからかそっちの方が似合ってるよ!」


 葵はこれまでのサバイバルナイフから氷華という刀に切り替えた。8階層の宝箱から出た事もありレアリティは白剣の少し下ぐらいだった。


《氷華》

 ・対象への初撃に動きを鈍らせる効果を確率で付与

 ・ATK+32、AGI +10


「百合はどうだ?」


「私は元々弓使ってたからしっくりだよ! けど少し重いかな」


 百合は低階層でドロップしたウッドボウをずっと使っていたが、威力の低さが目立っていたのでこのタイミングで新しい弓に変えれて戦力が大幅に向上した。


《ヒドゥンボウ》

 ・相手に認識されていない状態での攻撃は必中となりダメージが1.5倍

 ・ATK+28、AGI +5


 こうして話しながら歩いていると依頼主であるエルムがいる鍛冶屋に到着した。


「戻りました! 鉄石10個集めて来ましたよ」


『そんなに多くですか! ありがとうございます! これでツルハシが作れます。あ、少し待っててもらえますか?』


……


『お待たせしました! これ余った素材でブレスレットを作ったので皆さん1つずつ良ければ!』


 ブレスレットを確認するとDEFが2上がる効果が付いていた。防御力が上がる装備品は持っていなかったので有り難く頂戴した。


 そして突然ウィンドウが表示されるとそこには《街の住民からの感謝》を取得の文字が書かれていた。


 そもそも効果が何なのか謎だし街の住民から感謝される様な事したか?と頭ハテナだらけではあったが無理矢理自分を納得させた。


『あ、この依頼とは別なんですが、良ければもう一つお願いを聞いて頂けないでしょうか?』


 (やっぱり来たか……! この手のクエストは連携クエストに発展するんだよな!)


「大丈夫ですよ! 聞かせて下さい」


 蓮はどこか誇らしげな表情で話を聞いた。とはいえこの知識もただゲームやってたから知ってただけなのだが。


 葵達にもこの事は事前に続きのクエストがあるかもしれないと伝えておいたので特に驚く事もなくエルムの話に耳を傾けた。


『ありがとうございます。お願いというのは先ほど作ったツルハシを上の階層、恐らく12か13階層にいる父に届けて頂けませんか? デュラムと言います』


【連携クエスト発生】

・クエスト達成難易度:D→A

・クエスト内容:デュラムへのツルハシ納品

・成功報酬:

  -ユニーク装備一式作成レシピ

  -カスタマイズスキルの強化(A)


「……?」


 全員がなんだこれと思うようなクエスト内容が表示された。

 

 まずクエスト達成難易度だがこれは多分とある条件を満たすとDから Aに変わる事を指しているんだが……上がりすぎだろと心の中で突っ込んだ。


 出来る事ならリスクを負わずにクリアしたいのでDでクリアしたい。……のだが、気になるのは成功報酬だ。


 ユニーク装備一式の作成はこれからの事も考えると喉から手が出る程欲しい。この報酬で難易度Dなのも引っかかるが……。


 あとは最後のカスタマイズスキルの強化だ。これは(A)となっているので難易度Aクリアで貰えるんだろうけど、何故俺のスキル限定なのか謎だ。


 確かに最近はレベルが上がってもスキルレベルは上がらない状態が暫く続いていたので気にはなる。


「うーん、なんか怪しさ満点の内容だけど皆どうしようか?」


「お兄ちゃんどーせ受けるつもりなんでしょ?」

「確かに怪しいけど蓮に合わせるよ!」

「私は皆さんが良ければお手伝いしますよ」


 三人とも蓮の考えを見抜いているかの様な反応だった。


「ありがとう! それじゃ、エルムさん俺たちに任せて下さい」


 蓮はエルムからツルハシを受け取り、ひとまず12階層を目指すことにした。12階層からはもちろん初見なのでリスクも高い。


 ティリアは自身を守るすべとぼしいので今回は街に待機してもらうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る