第18話「材料調達」

――11階層


 オーク討伐を始めて21体目……


「はぁっ! たぁっ! 百合頼んだっ!」


 蓮がオークの攻撃を弾いたタイミングで百合の放った矢がオークの顔面に2本突き刺さった。


 オークは消滅したがドロップの表示は出ない。


「はぁ、また何も無しか…ゴブリンに比べて出なすぎだろ!」


 蓮がうなだれながら叫んでいた。


 それもそのはずだ。オークを倒し始めて5体ほどでオークの血液は二つ集まったのだが、残り一つがまあ出ない。


 体力的にもキツくなってきた為、そろそろ出て欲しいと四人とも思っている。


「あ、オーク来ました!」


「万が一、硬直した後にモンスター来たら援護頼む」


 蓮は葵達にそう言い残すと以前黒崎からトレースしたスキルを使った。瞬身スキル自体の硬直は何度か試したが確実に起きてしまうことが分かった。


 しかし、瞬身後の動作を前もって頭でイメージしながら次の行動を実行すると体力の消費をほぼゼロで発動出来ることが分かった。


「瞬身!」


 (1撃目で敵真横から胴体に攻撃を入れ、2撃目に背後から首元に攻撃…)


「たぁっ!」


 敵の横に瞬間的に移動して攻撃を繰り出すとすぐさま次の行動に移る。


「瞬身! はあぁっ!」


 初撃を受けたオークが反撃しようとするとそこには蓮の姿はなく、気付いた時には背後からの一撃で首元に大きな傷が付いていた。


『ぐぁぁぁっっ!』


 叫び声と共にオークは消滅した。


 《オークの血液を取得》


「おっ! 三つ目ゲット!!」


 ついにオークの血液を三つドロップした。これでゴブリンの爪二つと合わせて残りは光り輝く苔が一つあれば揃う。


「あとは光り輝く苔か。っても名前からしてタワー内に生えてるんだよな?……多分」


「すいません。ポーションを作るのは初めてなのでこの素材がどこで取れるかまで分かってないんです」


「とりあえず11階層の壁を調べてみようか」


 蓮達は四人で壁面に注目しながらそれらしきアイテムをひたすら探した。


 だが、30分ほど辺りを探索したが一向に見つからない。見つけたものといえばポーションの材料ではない素材ばかりだ。


 この時点では薬学スキルのレベルが低く他のアイテムは作れない為、取得した素材は何に使うか分からない状態だった。


「んー、それらしいものは無いな。他の素材はたくさんゲットしたから一応ストレージに入れておこうか」


「ねえ! お兄ちゃん! あっちに小部屋があるけどまた宝箱あるんじゃないかな!」


 以前も同様の小部屋から部屋中央に置かれている宝箱を発見したこともあり、期待して部屋へ向かった。


 部屋に入るとそこは案外大きな部屋で、本来あるはずの宝箱はそこには無かった。


 四人は何かあるはずだと部屋中をくまなく探したが特に怪しいものも見つからなかった。


「ハズレかぁー。何も無いなんて事もあるんだな」


 そして落胆しながら部屋を出ようとした時、後ろからガガガッと岩が崩れそうな音がした。


 咄嗟に後ろへ振り向くと全身を岩で覆われた大きなトカゲのようなモンスターが岩の中から出てきていた。


「……! なんだあいつ!?」


「そういえば前にネットで見た事がある気がする! 小部屋におびき寄せたホルダー達を狙ってくるレアモンスターがいるって!」


「私も聞いた事がある! 確か名前は岩竜フェイル! 固有スキルも持ってたはずだよ!」


 出現する事が他のモンスターと比べて珍しいレアモンスターはモンスター毎に特別なスキルを持っている事が多い。


 この岩竜フェイルも固有スキル《硬質化》を持っている。


「もう少し早めに言ってくれぇ! うわっと!」


 敵は壁面から出てくるや否や蓮目掛けて岩でゴツゴツとした腕をこちらへ向けて振り上げ攻撃してきた。


「ん? あいつの背中にあるのって…!」


「あ! お兄ちゃん! あのモンスターの背中に光ってる苔が付いてる!」


 (やっぱりそうか。はぁ、こいつ倒さなきゃいけないのかよ)


 「カスタマイズ[改変]ATK+、AGI +を白剣[零]へ!」


 蓮は敵の前足目掛けて剣を横に振り抜いた。


――ガギィィィィィン


 小部屋内には不快な金属音が鳴り響いた。


「いってぇぇぇぇ、なんだあいつの体!? 刃が全く入らないぞ!」


 蓮の振り抜いた剣は相手の頑丈な岩に覆われた体に弾かれてしまった。


 蓮が白剣を持つ手は衝撃で剣を落としそうだった。


「なら私の弓なら通るかも!」


 百合はスキルを使い強烈な一撃を敵へ撃ち込んだ。


「いっけぇぇぇ!」


――キィーーーーン


 矢は体に触れると弾かれてしまい。矢は虚しく消滅してしまった。


「あ、あれ?」


「…っておい! 全然だめじゃないか!」


「葵! 何とかならないか!?」


「蓮の攻撃が効かないなら私の攻撃はもっと効かないよー!」


 この岩竜フェイルだが基本的に物理攻撃はほぼ無効である。倒す手段としては魔法系のスキルが有効とされている。


 蓮達は倒す手段が見つからないまま相手の攻撃を剣でいなしながら突破方法を探っていた。


 その時、蓮の攻撃により敵が一瞬眠った。


 (……!なるほど。白剣の効果で一瞬ではあるが眠ったのか)


 相手が眠りについたタイミングで予期していなかったウィンドウが表示された。



 ≪トレース対象を検知≫



「え? 何で今これが?」


 蓮はトレースが死亡している対象についてしか発動出来ない認識でいたので驚きを隠せなかった。


 しかし、現状を打破できる何かを得られるかもしれないと思い、岩竜フェイルへ手を伸ばし叫んだ。


「カスタマイズ[トレース]!」


……


 ≪スキル「硬質化」をトレース(ストック2/8)≫

-----------------------------------------------------

【硬質化】

 ・選択した対象を一定時間、硬化状態にする

  ※選択可能対象は1つ

-----------------------------------------------------


 蓮はトレースにより岩竜フェイルのスキルをトレースした。


 (そういう事か。恐らくトレースは意識の無い状態

の相手に対して使用可能ということなんだ。けど確証を得るには何回か試さないと分からないな)


「みんな! 敵の注意を逸らすように援護だけ頼む! 攻撃は俺がする!」


 対象を白剣にする様に意識を向けてスキルを唱えた。


「――硬質化」


 すると右手に握る白剣の周りに灰色のオーラが纏った。


 見た目では、これで攻撃が効くようになっている変化をしたとは思えなかった。


 しかし、頼るものはこれしかなかったのでここで勝負を付けようと更に瞬身も発動して敵に攻撃を仕掛けた。


「瞬身」


「通ってくれよ!!」


 敵に攻撃が当たるとこれまでとは違い、相手の体を覆う岩が崩れていった。


 (効いてる!)


 蓮は覆われている岩が全て砕けるまで攻撃を繰り出した。


――程なくして岩竜フェイルを覆っていた岩が全て無くなり残っていたのはひと回りだけ小さくなったトカゲだった。


「はぁっ!」


 トドメの一撃が相手を両断すると他のモンスターより大きな黒い煙を立てて消滅していった。


 《光り輝く苔を取得》


「おお! ドロップしたぞ! これで最後の素材も取れたし街へ戻れるな!」


「そうだね! 今日はこの辺にして戻ろう! 疲れちゃった」


「でもお兄ちゃん最後の何だったの? いきなり攻撃通るようになってたし!」


 蓮はトレースについての仮説と岩竜から取得したスキルについて説明した。


「もし、その仮説が正しいなら蓮さんのスキルはストック上限の8つまで好きなスキルを組み合わせて使えるって事ですよね?」


「……そうなるね」


「蓮…それってチートだよね。かなーり」


「だよな。出来るだけこれは周りに悟られない方が良さそうだな」


 蓮達は色々と思う事もあったがひとまず来た道を引き返し街へ戻った。



 宿屋へ戻るととりあえずドロップした素材をティリアに全て渡した。


「これで大丈夫かな?」


「はい! ありがとうございます! 皆さんにばかり戦闘させてしまってすいません!」


「気にしないで下さい! 少しでも助けになればと思っただけですので」


 ティリアは三人に深く礼をして早速ポーション作成の準備に取り掛かった。


 ポーションの作成自体はスキルを唱えれば自動的に後は作成してくれる仕組みなので簡単である。


 しかし、百合はどこか不安そうな表情でこちらを見る。


「あのー、今更で大変申し訳ないんですが……」


「「「ん?」」」


 三人は頭にハテナが付いたような顔をして声を揃えた。


「実はこれまで1回しかスキル試した事ないんですけど、その時も失敗したんです……成功確率がそんなに高くなくて。それにポーションは初めてで」


「あ、なるほど。大丈夫! きっと成功しますよ! ダメならまた集めましょう!」


 薬学スキルで生成されるアイテムは成功確率40%程と聞かされた時は不安になったが、ティリアが余りに申し訳なさそうに話すので俺も不安にさせないように明るく話した。


「ありがとうございます! では始めます」


「生成【ポーション】」


 目の前から全ての素材が消えて丸い瓶が3つ現れた。中には透明な青い液体が入っている。


「せ、成功しました! やりましたー!!」


 ティリアは喜びのあまり俺に抱きついてきた。それを見ていた葵と百合は腫れ物を見る様な表情でこちらを見てきた。


「お兄ちゃん鼻の下伸びすぎ」


「蓮ってそう言う子が好みなんだ。へー」


 (視線が辛い)


「……とりあえず無事に成功して良かった!」


 蓮は優しくティリアの肩を持ち元の位置に押し戻した。


「あ、すいません! 私!」


「気にしないで! ポーション作成できて良かったな!」


「はい! それじゃ、これは皆さんで分けて下さい」


「え? 全部なんて貰えないよ! ティリアが作ったんだからさ」


 ティリアは少し悩んで口を開いた。


「それでは2本はお持ち下さい。私は1本もあれば大丈夫です」


 そう言うとグイッとポーションを前に出してきたので蓮達は断れず2本のポーションを受け取った。


「ありがとう! これは大事に使わせてもらうよ」


 ポーション作成も終えた四人は今後についての話をしていた。


「これからどうしようね」


「そうだな。俺たちは20階層に向かう為に準備を整えながら過ごしたいと思うんだけど。ティリアはどうする?」


「いつまでも皆さんに迷惑かけれないので私は一旦ここで昨日から泊まっていた宿屋へ戻ろうかと思います」


「分かった! けど何かあったらすぐに助けに行くから」


「ありがとうございます!」


 ティリアと解散して三人はもう遅かったので各々の部屋へと戻って行った。


 (んー、やっぱりギルドに入るのはリスクが大きいよな…てなるとやっぱり……)


 蓮はギルド登録所で話を聞いた時から心の中で考えていた事があり、その日もベッドに入ってから寝るまで考え込んでいた。

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