第17話「薬師ティリア」
「そんなこと言うなってー! 俺らのギルドに入ってくれればいいからよ!」
「やめて下さい! 入りません! そもそも何で私なんですか!?」
「リーダーがお前のスキルに興味持ったからだよ!」
「私の…? なんであなた達が知ってるんです!?」
「そんなんどーでもいいだろーが!」
蓮達は店を出るとすぐにさっきの女性の方へと駆け付けた。
「何やってるんだ? どう見ても嫌がってるし無理矢理だよな? それ」
「あ? 誰だお前? 関係ないだろ!」
蓮はやれやれという表情で剣を抜いた。
「おい、俺達全員相手にするってのか?」
「いや、しないよ」
そう言って蓮は白剣に属性付与(火)を改変して近くにあった樽を切り上げて男達の方目掛けて吹き飛ばした。
樽は炎を上げて男達の前で壊れ、火の粉が舞った。
「なっ! あっつ! てめー何しやがる!」
「そこの人こっちへ! 逃げるぞ!」
「は、はいっ!」
絡まれていた女性と共に街の中を不規則に移動して自分達の宿屋まで帰ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ。ここまで来れば大丈夫だろ」
「あの、ありがとうございました!」
「なんか絡まれてるみたいだったけど何があったの?」
「昨日から会うたびにしつこくギルドに入れって言われてたんです。無視してたら今日は強引に……」
「あ、そういえば自己紹介まだでしたね! 私は早瀬ティリアって言います」
「目が青いね! 外人さん?」
百合が不思議そうに聞いた。
「ハーフです。母が日本人で父がアメリカなんです。この外見からかどうしても目立ってしまい…」
ティリアの言う通り、すらっと伸びた長い髪は金色で目は澄んだ青色をしていた。
「そーなんだ! すごい綺麗!」
「そういえば話戻すんだけど、早瀬さんのスキルについてさっきの男達が何か言ってたよね?」
「あ、はい。私のスキルって戦闘向きではないので普段使わないんですけどあの人達スキルの事も知ってるみたいでした」
「昔ネットで相手の情報を探るスキルがあるって書いてあった気がするから、それで調べられたのかもな」
実際に相手の情報を探るスキルは実在する。
かなり希少で1年ほど前の段階でもネットに出ている情報では数件存在が報告されているぐらいだ。
「ちなみに、早瀬さんのスキルって戦闘向きじゃないって言ってたけど……あ、別に言いたくなければ言わなくていいんだけど少し気になってね」
「大丈夫ですよ。私のスキルは【薬学】です。けど、スキルを使うにはモンスターの材料やタワーにある素材が必要なので中々使えなくて」
「薬学だって!?」
蓮が驚いたのは無理もない。他のスキルの比じゃないくらい珍しいからだ。
薬学のスキルは必要素材を集める条件はあるもののタワー内で使える回復アイテムが作れる唯一のスキルだからである。
「はい。けど、戦闘に不向きで素材もそもそも集めれないので中々使えてません」
(なるほど。さっきの奴らが狙っていた理由はこれか。薬学スキルのホルダーがいればタワー内でのほとんどの傷は治せるもんな)
「早瀬さん? もし良ければ私達と行動しないかな? このまま解散したらまたさっきの人達に絡まれるかもしれないし」
葵は心配そうな表情で優しく語りかけた。
「ありがたいです……けど、あなた達にはメリットが無いので申し訳ないです」
「んー、それじゃこれはどうかな? 俺たちは落ち着くまであなたを守る。そして一緒に素材を集めて作った回復アイテムを少し分けてもらうってのは?」
「そんな事で良いんですか? むしろありがたいです。私一人ではモンスターを倒すことも難しいので」
「やったぁ! それじゃ宜しくね! 早瀬さん!」
百合も葵も女性の仲間が出来たのが嬉しかったのか大いに喜んだ。
「こちらこそ宜しくお願いします! あとティリアで良いですよ!」
「分かったよ! それじゃ暫くの間宜しくな! ティリア!」
◇◇
一時的に仲間となったティリアを含めた四人は11階層へ続く扉の近くで当面の目的について話し合っていた。
「まずはレベル上げも兼ねてティリアのスキルで必要な材料を集めようかなと思うんだけど…」
「うん! 私は賛成だよ! 上の階層行くためにもレベル上げはどのみちやらないとだし」
「私も! ティリアさんの助けになるなら大賛成だよ!」
ティリアの持つスキルで現状作成できるアイテムはポーションと毒消し。
ポーションは軽度の負傷を即時的に回復させる効果があり、毒消しは字の如く毒状態を回復するものだ。
街でもアイテムを売っている道具屋は無かったので尚更、薬学スキルは貴重な存在となった。
「まずは何を集めれば良いかな?」
ティリアは自身のスキル画面を確認した。そこには作成アイテムと必要な素材が記載されていた。
-----------------------------------------------------
《初級ポーション》
・対象の傷を僅かに回復する(即時)
[必要素材]
・ゴブリンの爪×3
・オークの血液×3
・光り輝く苔×1
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「えと、ゴブリンの爪とオークの血液が3つ、それと光り輝く苔が1ついりますね」
「なるほど。ゴブリンのドロップはこれまでも見たことがあるけど他は無いなぁ」
三人はひとまず11階層で目当ての素材を探す事にした。
「お、あれはゴブリンだな! ティリアは一旦下がってて。ここは俺が!」
蓮はゴブリンを見つけるとすぐに戦闘の準備をした。
白剣を取り出してスキルを唱え改変でATK +とAGI +を即座に武器に付与した。
付与すると同時に敵の真横を駆け抜けると横腹、クビに攻撃を入れた。
ゴブリンは攻撃を受けると数秒何をされたか分からない様な表情で固まり、そのまま黒い霧となり消え去った。
「ふぅ、ゴブリン程度なら楽勝だな!」
ゴブリンを倒すとドロップアイテムの表示が出ると共にもう一つウィンドウが表示された。
《ゴブリンの爪を取得》
《ドロップアイテムが一定数に達しましたのでアイテムストレージ機能が解放されます》
「ん? アイテムストレージ機能?」
ステータス画面端にアイテムという項目が増えていた。押してみるとそこには先程、ドロップしたアイテム名が記載されていた。
こんな機能ここに来るまでは聞いたこともなかった。
こんなものがあればとっくの昔に噂になっていただろうから恐らく、ここに来て追加された機能だろう。
蓮は何故タワーに閉じ込められてから俺たち人間に便利な仕組みが次々と出てくるのか不思議に思っていた。
が、ありがたい事でもあるので今は深く考えない事にした。
……
…
「ふむ、このストレージ機能だけど上限は分からないがアイテムとタワー内でドロップしたお金を自動的にアイテムストレージと言われる領域に入れてくれるらしいぞ。出し入れも自由みたいだ!」
そう言って蓮はゴブリンの爪と銅貨を嬉しそうな表情で出し入れしている。
また、蓮、葵、百合は同時にこの機能が解放された事から推測ではあるが11階層以上でドロップしたアイテムやお金の数が一定数越えれば解放されるのだろう。
現にティリアはまだ機能が使えるようになっていない。
「これは上手く使えればかなり便利だな! これまでみたいにリュックに入れなくてもいいし!」
「そうだね! お兄ちゃんのリュックずっとパンパンだったもんね!」
「ああ、あれはキツかった。この調子で他の素材も集めていこうか!」
「「はーい!!」」
「お願いしますっ!」
三人は残りのオークの素材と光り輝く苔を求めて奥へと進んで行った。
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