第16話「3大ギルド」
まだ街に光が差し始めたばかりの朝早くに表の方からコソコソと話し声が聞こえてきた。
「ん? なんだ?」
普通なら寝ていて聞こえない程の声なのだが、この時は昨日の事を考えていて中々寝付けていなかった。
「なんかギルド勧誘で優秀なスキルを持っている奴らばかり集めようとしてるみたいだぞ……」
「ああ、まだここに来て3日目だってのに何でそんなギルドにこだわってんだろーな?」
「大規模なギルドを作っておけば権力を持てるとか言ってたな。税金とか取り出したりしてな!」
「さすがにそんな事しねーだろ! ここに国でも作る気かよ」
話を聞いた蓮の表情は険しかった。
もし、あいつらが言っていた様にギルドの持つ権力が大きくなっていった場合、大きく2つ最悪な事態に発展する。
1つ目は、お金を巻き上げる仕組みもしくはルールが作られる事。これに関しては言うことを聞かなければいいというわけでも無い。理由は2つ目に関係する。
2つ目だが、純粋に強いもしくは便利なスキルを持つホルダーの独占。こちらが一番最悪だ。
例えば3つのギルドが出来たとして規模も同じと仮定したら後は抱えているホルダーの強さで序列は決まる。
そして一番強いと認められたギルドが自分勝手な事を始めたら恐らく、ここの秩序は崩壊する。
ホルダー同士の殺し合いなんて事が起きる可能性だってあるし、そうなればタワー頂上を目指す事が難しくなるだろう。
「ギルドは出来れば手を出したくないんだが一旦、現状どうなってるかぐらい調べた方が良さそうだな……」
この日はまだみんなの疲れが取れていないようだったので休息日とした。戦闘は禁止で街の自由行動のみと決めた。
蓮は街に出てギルドについて探ってみた。
どうやらギルドは今時点で特に大きいものは3つあるらしい。想定していた良くないパターンになり始めていた。
ギルド名は【タワー連合】【イーリス】【フィアーズ】。この3つだ。
3つのギルド共に人数は100人程。残りの大半はまだギルドに入っていなかったり、少数でギルドを作ったりしているようだ。
聞いた感じ、タワー連合はフィアーズギルドに対抗して作られたギルドだそうだ。フィアーズが悪だとしたらタワー連合は善という認識を皆持ち始めている。
そのフィアーズギルドは今朝言っていたスキル重視で人を次々と確保していて既に黒い噂も立っている。
最後にイーリスだが、こちらは謎だ。ギルドからの勧誘が殆どない。現状は中立の立場といったところだと思う。
「ギルドの構成は分かったけど、そもそもメリットってあるのか?」
「フィアーズみたいな権力を振りかざして弾圧するってゆーのもメリットっちゃーメリットなんだろうけど……」
「ひとまずギルド登録所に行ってみるか」
ギルド登録所に着くと葵と百合がいた。
「あれ? なんで葵と百合が?」
「あ、お兄ちゃんも来たんだ!」
「私達は街をブラブラしてたらやたらとギルド勧誘を受けて少し気になってね」
「そーなのか。俺もちょっとギルドについて調べててさ」
既にギルドカウンターの女性と話をしていた葵達からギルドについての説明を聞いた。
まずギルドの設立は四人集まった状態でギルド登録所に訪れれば設立は出来る。但し、その際に銅貨で1000枚が必要となる。
一番恩恵が大きいと感じたのがギルドホームの購入権利。ギルドを設立すると街にある空き家をギルドメンバーの拠点として持つことができる。
場所や大きさによって費用は異なり3大ギルド程の人数を持っているギルドホームだと金貨3枚、銅貨にして3000枚は必要みたいだ。
それからギルドに所属していれば同じギルドに所属している他のホルダーが倒したモンスターの経験値を極小ながら分配される。
「なるほどなー。とにかくギルドには入った方が良さそうってのは分かったよ」
「そーだねー! どこかのギルド勧誘受けて三人で入ってみる?」
「んー、いや、少し考えさせてもらっていいか?」
(きっとみんなの事を考えたらどこかに入るのが手っ取り早いんだけどな……)
「うん。分かったよ! 人数があと一人いれば自分達でもギルド設立出来るのにねー!」
「そうだな。けど今更仲間になってくれる奴がいるかが問題だな」
蓮達は説明を一通り受けるとひとまずギルド登録所を後にした。
ギルドを出たところで数人の男達が言い争っていた。
「おい! そいつは俺たちが先に声掛けたんだぞ!」
「あ? 前からそいつには俺達フィアーズギルドが勧誘してたんだよ! なあ? そーだろ?」
「え? あ、……はい」
「ちっ、フィアーズギルドの奴らだったのか。行こうぜ」
三人の男達は言い合っていた奴らがフィアーズギルドだと分かるとそそくさと諦めていった。
フィアーズギルドの連中も勧誘していた男性を連れてすぐに去って行ってしまった。
今見たような強引な勧誘をしているギルドがフィアーズギルド。有能なスキルを持つホルダーをひたすら集めているところだ。
「あの人、何か入りたくて入ってる感じしなかったね」
「そうだな。多分、脅されたりして強引に入るように仕向けられたんだろ」
「え、そんなのって……」
「まあ俺達にどうこうできるって訳でもないからあまり関わらないようにしよう」
蓮が先程ギルドに入る事を保留にしていたのはこれも関係していた。
大きなギルドに入ると言うことはメリットもあるが他のギルドから標的にされる可能性も高いからである。
「あ、そういえばお腹空いてきてないか? 少し気分変えようぜ」
「そういえばお昼くらいだね! 時計はないから正確な時間は分かんないけど」
この街に来てからもちろん時計はないので、周りの明るさと腹時計から時間を予測している。
「街の端を歩いた時に軽食が食べれそうな店があったから行ってみないか?」
「「賛成!!」」
5分ほど歩くと店へ到着した。店の名前は【ライム亭】と書いてある。
中を見ていると女性のホルダーが数人いるだけでそれ程賑わっている様子はなかった。
『いらっしゃいませ! 空いてる席にお座り下さい!』
蓮達は席に着くとメニューを開いた。
NPCばかりではなく意思を持った人もいるので、こういったお店は街の所々にあるみたいだ。
けど、相変わらず食材をどういったルートで仕入れているか分からない。
『注文はお決まりでしょうか?』
「それじゃ俺はこのお店おすすめランチで!」
「んー、私もそれにしようかな!」
「私も!」
暫く待つとテーブルいっぱいのサンドウィッチとスープの様なものが出てきた。
「おお、普通にサンドウィッチだ!」
「……美味しい!」
三人はここへ来てからの話やこれからの事について話をしながら食事を楽しんだ。
食事も食べ終わりそろそろ出ようかと席を立った時に、ふと窓の外から女性が一人、男達三人に連れられて道へ入っていくのが見えた。
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