第15話「管理者ヘルン」
――翌朝
10階層と11階層の間にある街ゼルムの宿屋からこの日は始まった。
「ふぁぁぁ、こんな状況だってのに我ながらよく寝れたな」
……ぐぅぅぅぅっ!
お腹から大きな音が鳴り響いた。
「腹減ったな。そーいえば昨日から何も食べてなかったもんな。そういえばここって食事どうすればいいんだ!?」
蓮は支度を済ませるとひとまず葵達の部屋に行った。
「おーい、起きてるかー?」
「……」
(あれ?もう下に降りてったのか?)
蓮は宿屋2階の宿泊部屋が並ぶ階から1つ降りた。
「あ、お兄ちゃん! やっと起きた! 何回声かけても返事なかったんだよ!」
「見てこれ! 宿の人が用意してくれたの! 今日は特別タダだって!!」
そこにはとても朝から食べる量じゃない量のご飯が並んでいた。
パン、肉、チーズ、サラダ……普通に美味そうだ。とりあえずご飯にはありつけそうで安心した。
何の肉かは気にしたらダメな気がしてひたすらがっついた。丸一日食べていなかったのであれだけの量並んでいた食事も8割は減っている。
「ふぅ。食べた食べた!」
「あー、美味しかったぁ!」
「それにしてもタワーの中でこんな美味しい食事食べれるなんて思ってもみなかったね」
「そうだな! ご飯どうしようかと思ってたから本当に助かったよ」
蓮達は食事を済ませると宿を出た。
街へ出てみると街の中は昨日到着したホルダーと街の住人で賑やかになっていた。
ホルダーの人々はこの環境を楽しんでる人、暗い表情で歩いている人など様々いる。
「それじゃ、とりあえずはタワーの11層に行こうか。これまでと違ってエスプカードが使えないから慎重に行こう」
「そうだね。でも上の階層にはどーやって行くんだろ?」
「ああ、それなら昨日街の外を回った時に1つだけ扉の色が違ったところがあったから恐らくそれなんじゃないかなと」
三人は早速扉に向かった。
「ここだね」
「お兄ちゃんもついでに葵さんも、無事に戻って来ようね」
「そうだな。百合も葵も無理だけはしないでくれ」
「ついでには余計だけどね! 頑張ろうね!」
蓮は扉に手を掛けてグッと押し込んだ。
――タワー11階層
「中の構造自体はこれまでと変わらないな」
「うん、あっ! 向こうにオークがいる!」
オークはこちらに気付くと叫び声と共に武器を構え襲ってきた。
「ここは私たちに任せて! 百合ちゃん援護よろしく!」
「はいっ!」
「剣戟…
葵は敵とまだ五メートル程距離があったが勢いよくナイフを3度、目の前に向かって斬りつけた。
目を
『ぐぁぁぁぁ!』
「弓撃!――集の矢!」
百合が矢筒から3本の矢を弓にセットして打ち出した。
赤く光った矢はオークの首元に命中してそのままオークは消滅していった。
「――!? 葵も百合もその技どうしたんだ?」
「成長してるのは蓮だけじゃないよ!」
「そーだよー! 私達だって戦えますー!」
オークなら二人だけでも余裕で討伐できるくらいだった。
スキルは30レベル上がった時に新たに使える様になったらしい。
葵の[霞]は斬撃を飛ばす攻撃の様だったが、威力が少し落ちてしまうらしい。それでもオーク程度なら十分にダメージが出てそうだった。
百合が使った[集の矢]は矢を3本セットすることによって矢が合体し、通常攻撃の3倍の威力になり貫通力も上がる攻撃みたいだ。
そしてモンスターを倒した場所には銅貨が数枚落ちていた。
「これがここでのお金になるのか。10階層まではこんなの落としたの見たことなかったな」
「宿屋は1泊三人で泊まると60枚銅貨がいるんだよね」
「今は〜えと……12枚落ちたから後4体くらいは最低倒さなきゃだね!」
そこから1時間ほど敵を倒し続けて150枚程の銅貨が集まった。敵1体が落とす枚数もマチマチで5枚しか落ちなかった時もあった。
ノルマは達成したので今日は早々に街へ戻ることにした。
蓮は気付いていたが明るく振る舞おうとしている葵と百合の疲れがかなり溜まっていたのだ。
ピンチになったらすぐ退却できるこれまでとは精神的疲労が明らかに違うためだろう。
そして街へ続く扉が見えた時だった。
目の前の空間が歪み黒いマントとフードに覆われた何者かが突如現れた。明らかに味方ではない。
隠してる様だが敵意が滲み出ている。
「っ!? なんだ!?」
蓮達はすぐに武器を取り戦闘態勢を取った。
『やあ、君があのスキルを得た人間かい?』
「あのスキルってカスタマイズスキルの事か?なんでお前がそんな事知ってる!?」
『まあまあ、武器を納めなよ。今日はただどんな奴か見に来ただけさ』
『あ、名乗ってなかったね。僕はタワー管理者の一人、ヘルンさ』
「そのヘルンが俺たちに何か用か?」
蓮は普通に話している様に見えるがそこから進もうと思っても足が前に出せない。
(なんだ…?あいつを意識すると前に進みたくないと思ってしまう)
「管理者ってなんだ!? 何のために俺たちを閉じ込めた!?」
『んー、質問が多いねぇ。とりあえず僕が言えるのは君はまだ弱い。そんなに粋がっても逆に弱さが際立つだけだよ?』
『まずはもっと強くなってスキルの使い方を学びな。そして20階層まで来たら質問に答えてあげるよ。フフッ』
「おい!!!」
そう言ってヘルンは目の前から姿を消した。
「お兄ちゃん、何あいつ!? 身体が動くのを拒んでた様な感覚だった」
「私も…」
「管理者って言ってたよな。村長の話が本当ならあいつをいつかは倒さなきゃいけないみたいだ」
管理者が何人いるのかも分からないが何人かいるうちの恐らく一人なのは間違いないだろう。
蓮は最後にヘルンが言っていた『スキルの使い方を学べ』という言葉が気になっていた。
使い方を熟知しているとは言えないが、これでもカスタマイズというスキルでいくつもピンチを乗り越えてきた自負があったからだ。
蓮達の足取りは重かったが、街へ戻ると前回と同じ宿屋の方へと向かった。
街の雰囲気は昨日から特に変わってはいないが、昨日に比べて四人以上のパーティーで街を歩いている集団が増えていた。
そして少し開けた広場では「ギルドメンバー募集」という言葉もあちらこちらから聞こえていた。
蓮は昔やっていたゲームでもギルドに加入はせず縛られずに遊びたい派だったので、今回のギルド募集の言葉にはこの時は気にも留めなかった。
「あ、二人は疲れてると思うから宿屋に戻っていてくれ! 俺は少し村長に聞きたいことがあるから聞いてくる!」
「ごめんね。今日はお言葉に甘えて休ませてもらうね。」
「ありがと! お兄ちゃんも早く戻ってきてね!」
蓮はその足で村長のところへ向かった。5分ほど歩くと村長がいる一際大きな家に着いた。
「質問があるんだ」
『ここはタワーの最初の街。ワシらもいつここに来たのかは記憶にないのじゃ。答えれる事は答えるが何かあるかの?』
(あ、この言葉は毎回言ってくるのか…てことはこの人もNPCなのか?)
「あの、管理者って何人いるんだ?そして一体何者なんだ?」
『管理者は三人いると伝えられておる。何者かまでは分からんがタワー頂上にいる者の命令でタワーに入ってくる人間を試しているそうじゃ』
「あんな奴らがまだ二人も…そして管理者を束ねてる奴もいるって事か……。分かった。ありがとう」
まだ聞かなきゃ行けない事はあったが考えが纏まっていなかったので整理してから聞くことにした。
蓮は村長の家を後にすると、これからの事、自分のスキルの事、色々な考えを巡らせながら宿屋の部屋へと入っていった。
「んー、まだ知らない事が多すぎるな……」
(けど一番マズいのは……知ってなきゃいけないのに知れてないことが恐らくあるって事だ……)
翌日、蓮はその一部分を垣間見ることになる。
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