2章〜現実との乖離〜

第14話「始まりの街ゼルム」

第14話「始まりの街ゼルム」

「これって街だよな?」


「うん……そうだね。でもなんでこんな所に?」


「お兄ちゃん見て! 空がある!」


 上の方を見上げると確かに薄い青色をした空の様なものが見える。太陽はないが天井が発光してるからかかなり明るい。


 そして最上部には数字で452と書かれており、少し見ていると523へ数が増えた。


「これは一体?」


「おい!人がいるぞ!!」


 少し離れたところで自分たち以外の人を発見したと声があったので声のする方へ向かって走った。


 人が集まっているところへ出ると俺達の格好とはまた違った雰囲気の女性が立っていた。


「おい! これは一体なんなんだ!?」


『ようこそ。ここは始まりの街ゼルムです。』


「なんでこんなところに街があるんだ?」


『ようこそ。ここは始まりの街ゼルムです』



 (この反応って、まるでゲームのNPCじゃないか)



 これ以上の情報はここで得られないと思い蓮達三人は街を探索する事とした。


 街の全体像は分からないがかなり広いことは間違いない。ここから見えるだけでも建物は相当数建っているからだ。


「とりあえず街の外側を一周回ってみよう」


 少し歩くと街は円形になっており、街の更に外には複数の恐らく下の階層に続く扉があることに気付いた。


 (俺たちが入ってきたのとは別の扉……だよな?)


 すると前方に人影が見えた。


 格好からして同じホルダーのようだ。


「おーい!」


 こちらに気付いた数名が話しかけてきた。どうやら今見かけた集団はついさっきここに着いたらしく、現状がまだ理解できていないようだ。


「あの! ここはどこなんですか!? タワーから出られないって言われて!」


「すいません。僕らもさっきここに来たばかりで分からないんです」


 話をしているとこの人達は自分達より西の方にあるタワーから来たらしい。方言が混じっている人もいた。


 この人達のすぐ後ろには少し開いた扉がありそこからもう数人出てきた。


 さっきいくつか扉があったのは各地域のタワー10階層に繋がる扉だと察した。


 10階層のボスとの戦いの事とこの場の状況について話を交わした。

 この場はひとまず情報収集をしなければ分からないことが多すぎたのでお互いに街を探索するという事で解散した。


――30分後


「疲れたぁー!!」


「お兄ちゃん、ちょっと休憩しよ」


「そうだな。けど街中調べたおかげで大体掴めてきたな」


 まず分かったのはここにも人がいること。

 そして人々は街の入り口で会ったようなNPCの様な存在の人と意思を持った人がいる事がわかった。


 意思を持っている人に話を聞いたが俺達が来る事は事前に言い伝えがあったそうだ。


 しかし、言い伝えがあったとはいえ街の人達は急に現れた大勢の人間を前に怯えている者もいた。



 他に街の内部も調べたが、街にある建物は食事もとれる宿屋が十数軒、あとは鍛冶屋や食事を取れそうなお店、そしてギルド登録所と呼ばれるものがあった。


 ギルド登録所は四人以上でギルドと呼ばれる一種のチームを組めるところみたいだ。


 ギルドを組むと経験値やモンスターからのアイテム分配の仕組みをギルド内メンバーの中で設定できる。


 そして気になったのは空き家の様な家が大量にあった事だが、そこは近くにいたNPCに聞くとギルド用のホームらしく、一定のお金を払うと購入出来るらしい。


 お金はもちろんタワーになんて持ち込んでいる人がいないと思うので、どうやって購入するのか謎だったがどうやら独自の通貨がありモンスターを倒すと落とすらしい。


 ご都合主義だとは思ったが情報が得られたのはありがたい。


 調べて分かった事はおおよそこれくらいでなる。


 そして一番謎だった事『なぜタワーの中に街があるのか』だが、これはRPGゲームでいう村長的な存在の人が話してくれた。


『ここはタワーの最初の街。ワシらもいつここに来たのかは記憶にないのじゃ。答えれる事は答えるが何かあるかの?』


「ならここを出るためにはどうしたらいい?」


 蓮がそう尋ねると村長は口を開いた。


『詳しくは分からんがタワーの頂上に行けば何か答えに辿り着けるかも知れぬ。しかし頂上にいくまでには凶悪なモンスターやタワーを管理するものがいるからすんなり行けるとは思えんのぉ』


「管理者? とりあえず上に向かうしかないって事だよな。ありがとう! 助かったよ」


 蓮達は聞いた情報を整理していると葵と百合が首を傾げながら上を見ていた。


「うーん……? 最初よりかなり数字が増えてる気が?」


「1600って数字で止まっちゃったね」


 蓮は初め数字のカウントが上がったタイミングでそれが何を指すのか予想は付いていた。


「多分あれはこのタワーに閉じ込められている人の数じゃないか?」


「なるほど…でもなんであんなのが?」


「それは俺も分からないな」


  

 三人は分からない事もまだ多い中、更に街を歩くと見知った顔の奴と出会でくわした。


「――あ」

 

 そこにいたのは俺をゴミステータス呼ばわりした挙句、タワーでモンスターシュートを仕掛けてきた五十嵐だった。


 蓮達が入ったタワーにはいなかったので他のタワーから入ったのだろう。


「なんで一ノ瀬、お前なんかがここにいるんだよ」

 

「別に五十嵐には関係ないだろ。それにちゃんとボスも倒してここに来たんだ」


「はあ? どーせお前みたいな奴誰かの後ろでコソコソしてただけだろ? 腰抜けはずっとこの街でじっとしてろよ!」


 (五十嵐、こんな状況だってのに何も変わってねーな……)


 五十嵐は他の連中と街の奥へ消えいった。


「今のって誰?」


「あいつは五十嵐って言って私達と同じ大学の奴だよ。こんなとこまで来てこの状況でなんで悪態つけるのかな?」


 葵は少し怒っているかの様に口調強めで食い気味に言葉を発した。


「まあとりあえずそれは置いといてこれからどーするか決めなきゃな」


「来た時より若干暗くなってきてるからここにも昼と夜の概念はあると思う。それで夜を過ごせる場所を確保ってのがまず当面の目的かなって思うけどどーかな?」


「そーだね! もう色んなことありすぎて疲れちゃったから休みたいっ!」


 蓮達はお金は持っていなかったがひとまず宿屋へ向かった。


『いらっしゃい! 泊まりかい?』


 愛想良く話しかけてきたのは宿屋の店主と思われる女性だった。


「あ、はい。三人なんですけど。けどお金持ってなくて……」


『あんた達初めて見る顔だね。今日はお金はいらないよ。次からは一人銅貨20枚だからね』


「ありがとうございます!」


 部屋は空気を読んでくれたのか二部屋用意してくれていた。


 三人は蓮の部屋に集まって明日以降の事を話していた。


「今日はこれから暗くなって周りがどうなるかも分からないから宿屋で過ごそう」


「それで明日以降なんだけど…まずは上の階層がどうなっているか探索しつつモンスターを倒してお金を稼ぎたいと思う」


「タワー頂上を一刻も早く目指したいけど、まずはここでの基盤を安定させないとな」


「分かった! それじゃ今日は休もうか。百合ちゃん部屋戻ろう! 蓮もまた明日ね」


「お兄ちゃん、また明日ね」



 この日はまだ外も明るかったが、ベッドに倒れ込むとそのまますぐに眠りについた。

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