第3話「スキル【カスタマイズ】」

 次第に意識がはっきりしてくると俺はタワーの扉の前に横になっていた。


「うっ、ここは? 気を失っていたのか?」


「あっ、良かったっ! やっと気付いた!」


 葵は心配そうにこちらに目を向けている。蓮はゴブリンへの最後の攻撃をした瞬間気を失ってしまったのである。


「はっ、あそこにいた子達は!? それに何でこんなとこに俺はいるんだ?」


「あの子達は命に別状はないけど怪我が酷かったからすぐ病院へ運んでもらったよ! ここへは運良く通りがかったホルダーの人に手伝ってもらって運んだの」


「それなら良かった。あの子達が無事で」


 安堵あんどすると急に疲れからか眠気と身体全体に倦怠感けんたいかんが襲って来た。


「今日はもう帰った方がいいね。色々と聞きたいことがあるからまた落ち着いたら連絡して!」


「そうだな。また連絡するよ」


 蓮と葵はそう約束すると家へと帰っていった。


◆◆◆


--翌朝


 朝起きると蓮はすぐに昨日のことを思い出し、思考を巡らせていた。


 何故スキルが使えたのか。


 何故ゴブリンを一撃で倒せたのか。


 何故レベルが上がってもステータスは上がらなかったのか。


「んー、スキルは多分レベルが上がって使えるようになったんだよな? それまではいくら試しても発動しなかったし」


「そしてゴブリンをあんなにも余裕で倒せたのはきっとスキルのおかげだよな」


「まあまずは色々と試してみますか! ステータス変化無しってのはまだレベル2だし気にしないでおくか!」


 そうして蓮は早速スキルについて試すため、家中の物を集めてきた。とはいえ、一人暮らしの家にある物なんて限られている。


 包丁、歯ブラシ、ボール、洋服など様々なものがベッドへ並ぶ。


 あの時、システムメッセージの最後に『次回よりショートコマンド実行可能』という言葉が気になり、再度スキル画面を開いた。


------------------------------------------------------

【名前】

一ノ瀬 蓮

【レベル】

L v.2

【ステータス】

 ATK(力)  1     VIT(体力)  1

 DEF(防御) 1     INT(知力) 1

 SDEF(スキル防御) 1  AGI(素早さ) 1


【習得スキル】

 カスタマイズLv.1

 ‐特定の対象(自身の所有する無機物)に対して

  1つまで構造改変を実行可能

〔構造改変リスト〕

 ・ATK+

 ・DEF+

 ・属性付与(火)

※ショートコマンド例:

 カスタマイズ[改変]ATK+を〜へ!

------------------------------------------------------


 そこには以前は無かった記載が増えていて、ショートコマンドも丁寧に記載されていた。


「なるほど。とりあえずこの包丁で試してみるか」


「カスタマイズ[改変]"ATK+"を"包丁"へ!」


 するとあの時と同じように紫色したサークルが現れ一瞬で消えた。


「これで良いのか? でも特に何も変わっていない気が……」


 ふとステータス画面を開くと驚愕した。


「ん? このATKの数値はなんだ?」


 そこにはあり得ない数値が表示されていた。


 【ATK(力)  101】


 ATKが丁度100上昇していた。大体1Lv上がると約2上昇すると聞いたことがあるので50Lv分のレベルアップとイコールということになる。


「それでゴブリンも1撃だったのか。てことはDEF+も…」


 蓮の読み通りDEFも丁度100上がっていた。正直これだけでもこのスキルがチートスキルだと分かる。


「あとは、この属性付与ってやつだけだな」


「カスタマイズ[改変]"属性付与(火)"を"ボール"へ!」


 赤色のサークルが現れ、そして消えた。どうやら改変内容によってはエフェクトは変わるようだ。


 ステータス系の改変なら紫、属性付与なら赤といった具合だろうか。


 そしてそのボールを手に取るが見た目の変化もなければ熱くなっているわけでもない。


 (……これは何か発動条件がいるのか?)


 そう思い、ボールをベッドへ軽く投げ戻した。するとベッドに当たった瞬間その部分から火が上がったのだ。


「うわっ!!」


 びっくりするのと同時に俺はすぐさま風呂桶に水をみに行き、そしてそれをベッドに向けて一気にかけた。


「危なかった! 危うく火事になるところだったぞ。けど、大体分かった。衝撃を与える、もしくは何かに接触すると発動ってのが条件で間違いなさそうだな」


 一通りの検証が終わったところで葵との約束を思い出しスマホを手に取り電話をかけた。


「……あ、もしもし、昨日のことで少し話したいんだけど今から会えないか?」


「今からね! 分かったよ! 準備したら蓮の家行けば良いかな?」


「ありがと。それじゃー待ってるから」


 そう言って電話を切った。



ピンポーン。


 チャイムが鳴ると俺は玄関へ向かい扉を開けた。

 

「お邪魔しまーす! それで昨日のあれはなんだったの!?」


「いきなりだな!」


 部屋に入るなり昨日の事について問い掛けてきた。それもそのはずだ。


 葵にはスキルや能力の事も話しているので昨日のゴブリンを俺が1人で倒した事に疑問しかなかった。


 そこから蓮は葵にスキルの事、そして何故急に昨日使えるようになったのか1から説明した。


「なるほどね。大体は分かったよ! つまり簡単に言うと強くなったんだねっ!」

 

「まあそーゆーことになるの……かな?」


「それでこれからどーするの? タワーを攻略して上層の情報を機関に渡せば賞金も貰えるみたいだよ?」


 葵の言う通りタワー攻略については俺も頭をよぎった。なにせ今稼いでいるバイト代が目じゃないほど高いお金をもらえるからだ。


「そーだなー。とりあえずこんなスキルを使えるようになったんだし、タワー下層あたりでレベルを上げようかな」


「そかそか! なら私も行くね!」


「……え? 葵も来るのか?」


「私だってスキル持ってるし一緒に行くよ! なんか蓮1人で行かせるのも危なっかしいし! 前だって意識失ったじゃん」


 (確かに葵が来てくれるのは心強いが)


 葵のスキルの事ももちろん知っている。持っているスキルは[剣戟けんげき]。


 刀剣類(片手武器のみ)装備時に能力値が上がるスキルだ。剣道をやってた影響なのか納得のスキルだった。


「まあ下層くらいなら多分大丈夫か。けど危なくなったらすぐ逃げる事! それが一緒に行く条件だ」


「分かりましたー! それじゃー早速準備したらタワーへ行くぞーっ!」


「今日はまだ少し試したい事があるから明日朝集合な」


「なら明日ねー!」


 こうして蓮と葵は翌日タワーへ向かう事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る