第2話「スキル発動」

 2人は話に夢中で横を見ながら歩いていた。


「わっ!」


 自分でも驚くような声を上げると共に腹部に軽い衝撃がはしった。


 自分も横を見ながら歩いていたのが悪かったのだが、咄嗟とっさに何が起きたか分からなかった。


 気が付いた時には何かにぶつかっていたのだ。


「ーーた、助けてください!」


 いきなりの事に頭の中の整理がつかない状況で聞こえてきたのは更に頭の中を混乱させる一言であった。


 一度落ち着いて目線を少し下に向けると、そこには着ている服はボロボロで、よく見ると痛々しい生傷があちらこちらにある中学生くらいの女の子がこちらを見ていた。


「落ち着いて! 何があったのか説明してくれる?」


 混乱している俺を尻目に葵は優しい口調で話しかけた。


 女の子も少し落ち着きを取り戻したのか、一呼吸置いて口を開いた。


「肝試し感覚でタワーに友達と一緒に入ったんだけど、その友達がモンスターに襲われて、私だけ助けを呼ぶために逃がしてくれたんです。男の子たちはスキル持ってるから俺らに任せれば大丈夫って言って……」


「なっ、遊び半分であそこに入ったのか!?」


 俺はつい声を荒げてしまった。未熟な者が入るのは本当に危険ということを知っているからである。


 タワーは入り口が無数にも存在しており、その全てを管理する事が困難である。


 それ故、機関から雇われているスキルホルダー以外にも勝手にタワーに入るやからが後を絶たないのである。


 連日の報道ではタワーへ入った者の悲痛なニュースが流れている。命ある状態で脱出できれば御の字だが、命を失ってしまうケースもまれにある。


「ごめんなさい。入口だけ見たら帰るつもりだったんだけど、モンスターを少し見てからでも見つからなければ大丈夫って言うから」


「けどタワーから脱出するための帰還用アイテムがあるって聞いたけどそれは持ってなかったのか!?」


「確かレベルが足りてなくてまだ使えないって言ってました」


「……分かった。私が行くから入った入口まで連れて行って」


「おい、助けに行くつもりなのか!?」


「機関へ報告してたらこの子の友達がどうなるか分からない」


「けど俺たちだけで行ってもどうにもならないだろ。むしろ俺たちまで危険に晒される可能性だってある!」


 蓮の言うことはもっともである。蓮の能力、スキルはとても戦闘向きとは思えないのだ。


 そう言って眼前に出した手を右へスライドすると自身のステータスウィンドウが表示された。

------------------------------------------------------

【名前】

一ノ瀬 蓮

【レベル】

L v.1

【ステータス】

 ATK(力)  1     VIT(体力)  1

 DEF(防御) 1     INT(知力) 1

 SDEF(スキル防御) 1  AGI(素早さ) 1


【習得スキル】

 カスタマイズLv.0

 ‐特定の対象をカスタマイズする

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 やはり何度見てもステータスは最低値、そして戦闘向きとは到底思えないスキルの記載は変わらない。


 何故カスタマイズというスキルを与えられたかというのは、恐らく小さい頃から機械ばかりいじっていたのが要因だろう。


 スキル発現した際に自分のスキルが気になり、スキルの情報がまとめられているサイトを見たこともある。


 そこでカスタマイズというスキルについて調べたが、一切出てこない為、どう言った内容のものか調べることも出来なかった。


 そうしてウィンドウを見ているとすぐ、葵が口を開いた。


「タワーには入った事ないしモンスターと戦った事もないけど今すぐ行かなきゃ友達が死んじゃうかもしれないんだよ!」


「くっ……そ、もうどうにでもなれだ! 案内してくれ!」


「あ、ありがとうございます! こっち! この道を真っすぐ行った先にある入口です!」


 蓮と葵は少女と共に暗い道の奥へと全速力で走っていった。



 10分程走っただろうか、タワーの入口前に俺達は立っていた。


 そこは周りに人気は無く管理されているような雰囲気も無い。入口は高さ3メートル程の鉄の扉で塞がれている。


 そのまま上へと視線を伸ばすとコンクリートのような質感でそびえ立つタワーが見える。


 上の方はもやのせいなのか視界がぼやけてはっきりとは見えない。


「雄二ー! 春馬ー!」


 扉の中にいるであろう友人に向けた女の子が叫んだ言葉は聞こえる訳もなく虚しく周りに響いた。


「ここだな。……入るぞ。モンスターに出くわさないでくれよ」


 重い扉を両手で力いっぱい押すと扉は『ギギィー』と鈍い音を立てて開いた。


 恐る恐る中へ入るとそこは土の壁のようなもので囲われた迷路のような構造になっていた。


 高さは5メートル程だろうか。よく見ると壁が発光しており、タワー内は思ったより明るかった。


 モンスターに怯えながらも少し進むと奥の方で叫び声の様な声が聞こえた。蓮達は足早に声のする方へ駆けつけた。

 

 ひらけた空間に入ると、目の前に広がっていたのは悲惨な光景だった。男の子が2人ひどい怪我で横たわっているのだ。


 そして目を奥の方へ移すとモンスターらしき怪物が2体いる。確かあれはゴブリン。片手に持った棍棒こんぼうが特徴のモンスターだ。


 1体のゴブリンは男の子達と戦ったせいなのか、かなりの傷を負っている。


 蓮は2人の元へ駆け寄った。


 息はしているようだったが、まともに歩けない2人を背負ってこの場を脱するのは到底無理である。


 その時、傷を負っている1体のゴブリンがこちら目掛けて襲いかかってきた。


「蓮! 逃げてっ!!」


 (けど、ここで逃げたら確実に2人は…)


 俺は咄嗟に倒れている男の子の腰からナイフを取り、ゴブリン目掛けてナイフを勢いよく振りかざした。


 自分の能力じゃ普通のナイフで攻撃しても大して意味は無いと分かってはいたが、あの状況に置かれたら誰だって抵抗はすると思う。


「はぁぁぁぁぁっ!」


 蓮の声と共にナイフはゴブリンの腹あたりに浅い傷を付けた。


 (やっぱりただのナイフじゃステータスも低い俺の攻撃は通用しないか…)


 そう心の中で死を覚悟した瞬間……


『グ、グガガガガッ……』


 苦しむ声と共にゴブリンは黒い煙となり蓮の目の前から消え去っていった。


「え? 倒せたのか……? なんで?」


 どうやら先程のゴブリンは既に瀕死の状態までダメージを入れてくれていたおかげで最後の一撃がこんな俺の攻撃でも倒せたらしい。


 それと同時に蓮の目の前にオレンジ色のスクリーンで〈レベルアップ〉の文字が表示された。


-------------------------------------------------------

〈レベルアップ Lv.1→Lv.2〉

 ・ステータスポイント変化無し 

 ・スキルレベルアップ【カスタマイズLv.0】→【カスタマイズLv.1】

-------------------------------------------------------


「これは……今のゴブリンを倒したからレベルが上がったのか?」


 と、内容について確認しようとしていたが、目の前にはもう1体のゴブリンもこちら目掛けて走ってきているのが見えたため、レベルアップに喜ぶ暇もなく次の相手をせざる得なかった。


 しかし、さっきみたいに運よく倒せるなんてもう無いだろう。


 そう考えていた時……


 目の前のゴブリンの強烈な一撃を腹へ受けてしまい、同時に後方へ吹き飛ばされた。


「ぐっ、げほっげほっ……」


 (痛い、痛すぎる)


 痛みと共に意識が遠のいてゆきそうになる。


 蓮は霞んでいく意識の中で先程のレベルアップの時に表示されたスキルレベルアップの事が頭をよぎる。


 (何でもいいからこの状況を変えてくれ……)


「スキル……カスタマイズ」


 すると周りから色が消えた。


『……ジッ、ジジッ』

『[カスタマイズ]スキル発動を確認』

『今回は初回発動のため、ナビゲーションと共に周りの時間を止めております』

『まずカスタマイズ対象を決めて下さい』


 何故スキルが発動したのかは分からなかったが、先程のレベルアップの影響なのだろうか。


 確認したいことは山ほどあったが、淡々と進んでいくこのシステムメッセージに付いていくので精一杯だった。


「発動したのか……? よく分からないが対象を決めればいいんだな? それじゃ、このナイフで」


『対象を【ナイフ】に設定します』

『次に対象の構造を改変します』

『改変内容を次から選択下さい』


 ≪カスタマイズLv.1改変内容【ナイフ】≫

 ・ATK+

 ・DEF+

 ・属性付与(火)


「なんだこれ? 改……変? とりあえずATK+で」


『承知。ナイフの構造を解析して新たにATK+の要素を組み込み改変しました』


 ナイフに視線を移すと、ナイフの周りを紫色したサークルの様なものが一瞬現れてすぐ消えた。


『次回よりショートコマンドにて実行可能』



 そう告げると急に周りの時間は動き出し、目の前にはまたもやゴブリンが俺を襲おうとしている光景が広がった。


 半信半疑ではあったが、スキルで対象としたナイフをゴブリンへ振り抜いた。

 


「はぁぁぁぁぁぁっ!!」



 ナイフがゴブリンの腹に触れた瞬間、黒い煙となって消え去った。


「一撃? しかも軽くかすっただけだった気が……」


 何故ただのナイフであそこまでの威力が出たのかは謎だったが、結果として目の前のゴブリンを倒した事は紛れもない事実である。



 そして、ゴブリンを倒した瞬間、体から力が抜けてそのまま意識を失った……

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