第92話 好敵手が必要だ
「アル様、俺稽古したいんですけど……」
「まぁまぁ、グンター君。そう焦りなさんな。君はまだ若いんだ、そう焦んなくてもいいんじゃないか?」
「若様がそれ言います?」
「マリエル……今は突っ込むとこじゃない…」
「そうですか」
「そうなんです…」
グンターとリア姉の稽古と言っていいかわからないしごきを止めた翌日。
算術の授業の時間を潰して、俺、マリエル、グンター、ラヨスの4人は『フェアカウフ商店』というところに向かっていた。
理由は簡単。グンターの悩みを解決するため。
非常に情けない話であるが、俺がグンターの悩みに気が付く、否。ラヨスによって気づかされるだいぶ前にリア姉はグンターが悩んでいることに気づいていたらしい。
しかし、俺の部下であるグンターにお節介を焼いていいものか。また、俺が気づいていないことを自分が教えてしまっていいのか。そのことによって俺自身の成長を阻害してしまうのではないかと心配して昨日までは静観を決め込んでいた。
だが俺は気が付かなかった。
でも夢中でオルデンとの稽古を楽しんでいる俺を見て邪魔してはいけないとも思った。
それでもグンターの力にはなりたかった。本当にリア姉は優しい。
近衛騎士よりもリーチや実力が近い自分を相手にすることでグンターの中の何かが変わるのではないか―――。
そう思い、葛藤の末、リア姉は自分で稽古を付けるという結論に至ったらしい。
結果がどうであれ、リア姉は俺とグンターのために動いたのだ。
オルデンとの稽古中の俺のどこに楽しそうな部分があったのか疑問ではあるが、全くもって不甲斐ない限りだ。
自分の視野の狭さ、頼り甲斐のなさに落ち込んだが、今はそんなことしている場合じゃない、解決策を考えよう。
そう思い、浮かんだ解決策が『グンターと実力が拮抗している子をゲットして、一緒に成長させちゃおう』というものだった。
その作戦内容は非常にシンプルなもの。
グンターは少しずつではあるものの剣術の技量は上がっている。でも本人は全くもって変わっていないと誤解していた。
それはなぜか―――。
相手が悪かったのだ。
近衛騎士に麒麟児リア姉。
紛うことなき天才たち。
近衛騎士に関して言えば実力だけでなくリーチまでもが違う。
普段のグンターであればそれを理解したうえで稽古に臨むことが出来るのだが、タイミングが悪かった。
周りの子供たちが急成長していたのだ。
王都組は新しいものと出会い、触れることによって。
スレクトゥ組は家族がいない分頑張ったことによってそれぞれ変わってしまった。
ではどうすればいいか―――。
自分と同じように成長していく、謂わば鏡のような存在。
俺はそう考えた。
今のグンターに足りないのはまさしくそれだ。
別名『そんな存在をスカウトして部下にしちゃおう』作戦ともいえる。
この作戦によってグンターの悩みが解決する確証はないが、何もしないよりかはましだろう。ただ、そんな都合のいい
だからラヨスに聞いた。
そんな奴知らない?って。
そしたら居た。
その
『フェアカウフ商店』といえば、俺たちが王都に行っている間、ラヨス達が実地研修を行った場所であると記憶している。
今はその『フェアカウフ商店』に向かう道中、馬車の中。
「(なぁ、ラヨス。ホントにそいつは…えぇっと、ルイスだっけ?…才能は確かなのか?)」
「(ええ、少なくとも僕にはグンターと並ぶものが確かにあると感じました。実際に少しだけではありますが空き時間で手合わせもしたので大丈夫だと思います)」
「(手合わせしたのか…勝てた?)」
「(…最初だけは。一週間くらいで抜かれました。ルウは二週間です)」
「(……なんかごめん)」
「(謝らないでください)」
(ラヨスは一週間で、ルウは二週間とな……)
確かに丁度いいかもしれない。
ただ、少しグンターよりも才能があるのか?見ないと分からないな。
「ラヨス、何をこそこそと話しているんだ?」
「グンターがこの前、ハッツェンさんの方を見て赤くなっていたことを話したんだよ」
「おいっ、それ言うなよ!…アル様違うんです!これはっ、そのぉ…」
(ほう、成長の悩みに恋の悩みと…随分と悩みが多いな……)
必死に弁明するグンターをジト目で見る。
が、すぐに窓の外に視線を向けた。
(俺がどうこうすることではないな…)
それに恋の行方がどうであれ、今のグンターにプラスの作用をもたらすのであれば構わん。
アル様をお守りするため、もっと鍛えないといけません、と言って今は練兵所にいるであろうハッツェンを思い浮かべながら焚きつける。
「まぁ、頑張れグンター」
「へ?…あ、はいっ、頑張ります!」
一瞬間抜けになったグンターの表情が一転し、やる気に満ち溢れた顔つきに変わった。
こいつにライバル必要なくね?と思いながら窓の外の風景が公認商業区のものになったことを確認した俺は、さて、身だしなみを整えてもらうかと身体の方向を変える。
するとそこにはどこか呆れたような表情をするマリエルがいた。
「なんだよ…マリエル」
「若様は人が悪いですね?」
「オルデンにも言われたよ。そっちの方が戦場には向いているらしい」
「一人の紳士としてはどうかと思いますが?」
「子供に紳士を求めるなよ」
「そうですね」
「そうだよ」
(マリエルはハッツェンと違って誤魔化しが効かないなぁ…)
それから少しして、俺たちを乗せた馬車は『フェアカウフ商会』に到着した。
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