第27話 青空教室
「よーし、お前ら、宿題はやってきたかぁ~?」
「「「「はーい!」」」」
「わからないところがあったやつはちゃんと言えよ~、恥ずかしがることはないからな」
俺は屋敷の敷地内にある一面が芝生の場所で教師みたいなことをやっている。青空教室のようなものだ。
土魔法で作った台の上で教師みたいな発言をしているが背はちっちゃいし声も4歳児のそれなので格好がつかない。
そんな俺にも素直に返事を返してくれている5名の子供たちは5か月前の一連の事件が起きた孤児院の子たちである。
――そう、孤児院事件からすでに5か月が経過していた。
あの日、すぐ母上の腕の中で寝てしまった俺は翌日、何故かとんでもなく顔色の悪い父上に「孤児院の子供たちを屋敷で雇えるようにしてください」とお願いした。
「まあいいだろう」とすぐに了承をもらえたので肩透かしを食らった気分だったが・・・。
その後はとんとん拍子に話が進んでいった。
父上以外にはいつも通りの母上が養子を欲しがっているうちヴァンティエール家の使用人の夫婦を集め、孤児院の子供たちとの顔合わせの場を設けた。
そこで気が合いそうな子を使用人は里親として探し子供の方も良さそうだなと思った家で暮らしてみるといった新生活の場所探しを行った。
基本昼は子供たちで集まって勉強したり遊んだりをし、夜はそれぞれの里親が住んでいる部屋に帰る。
ヴァンティエール家の使用人のほとんどが敷地内の別棟に住んでいるということもあり、各自家に帰ると言っても隣同士が里親夫婦の部屋であったり、離れていたとしても5分、10分くらいの距離にあるので、子供たちも不安がらずに済んでいる。
そして今は昼であり、俺が教えている算術の授業の時間だ。
算術の授業の他に体育、国語、社会、魔法学、体術、武術、エテェネル語などがあって結構ちゃんとしている。考えたの俺だけど・・・。
体育はアルノー、国語(文字の読み書き)・社会(この世界の常識など)はハッツェン、魔法学はブレンとイゾルダ、体術・武術は近衛騎士団の非番の団員が、エテェネル語は母上が教えてくれている。
エテェネル語とはこの世界にある唯一無二の大陸と呼ばれる超大陸テラに存在する国家間の外交用語だ。一般市民は知らない者が多いが、地位が高い人間ならば必須となってくる言語。
地球で言う英語みたいなやつだ。
「アルさまー、わかんなーい!」
一人の水色の髪をした女の子が元気いっぱいに質問してくる。
この子はルイーサといって俺と同じく4歳だ。初めて同い年の子と会った気がする。
「ね、ねぇさんはずかしぃよ・・・」
今ボソッとつぶやいた女の子はルーリーと言ってルイーサと双子で妹の方だ。
同じ髪色をした姉ルイーサの服の端を握り、もじもじしている。
この子も4歳。同い年が二人―――実に素晴らしい。
この二人は同じ中年夫婦の里親の家で生活しており姉ルイーサは快活な性格で運動は得意だが勉強が苦手。と言っても好きではないだけで地頭は悪くないと思う。
妹ルーリーは恥ずかしがり屋で運動は苦手だが勉強が得意で孤児院組ではラヨスの次に頭がいい。
見事なまでにあべこべの双子だがとても仲が良くいつも二人でいる。
ちなみに二人ともそれぞれ系統は違うがかわいい(ここマジで重要!)
「おれがおしえてやろーか~?」
「デール、しゃべってないで、問題解きなさいよ!」
「うっせ、ぶす!」
「ブスって言った方がブスなんだからね!」
低レベルな言い争いを繰り広げているのがデールとメリア。
ルイーサをからかったのがデールでそれに対して叱ったのがメリアだ。
デールはオレンジ色の髪の毛をしたお調子者の5歳。しかし、こいつ実は何でもそつなくこなす万能型。俺と被っている気がする、解せん。
メリアはザ・委員長みたいな赤髪の子で6歳。口調もしっかりしている通り勉強はできるし、運動もできる。いつもデールを叱っているがなんだかんだ言ってこの二人結構仲がいい。幼馴染のやり取りを見ているみたいだ。
俺にはいないのに。羨ましい。
「・・・」
そして騒がしい中、黙々と数字の書き取りをしている男の子が一人。
この子は最年少の3歳でイーヴォという。
とにかく寡黙だ。持ち前の黒髪もあってかミステリアスな雰囲気が漂っている。
しかし、わかっていることもある。この子には戦闘の才がある。
体術の授業で教師役をしている近衛騎士団の団員達もべた褒めしていた。
ただそれはイーヴォの動きではなく第六感に由来する。
模擬戦を見学している時に「・・・くうきがへん」と彼が言った数瞬後、騎士たちが動き出したということがある。
後からそれがイーヴォの天性のものによる「予測」だと騎士たちが知り大興奮。
そういうことだ。全く持って意味が分からない。
一人一人の特徴を思い出していると、
「ねぇ、アルさまー、ここわかんないっていてるんだけどー、ぶー」
というかわいい非難の声が聞こえてきた。
「あぁ、すまんすまん。すっかり忘れてた。えっとねー、ルイーサ、九九覚えてる?
それ使えば簡単に解けるはずなんだけど―――」
俺が彼女に出した宿題は九九の2の段と5の段を覚え、紙に書くこと。出来るかできないか分からないのでイーヴォ以外の子たちに出したらみんなできていた。
九九は言葉遊びだ。算数でも何でもない。
前から思っていたことなのだが何であれを小2でやるんだろう。幼稚園や保育園で言葉遊びとして覚えさせればいいのに。勉強だと思うからでるようにならないのだ。
「あ、あーくくね、そうそう、くく、くく、(ねぇ、ルーリーくくって何だっけ)」
「(え?ねぇさんおぼえてないの?それしゅくだいだよぉ)」
(あぁ、そりゃできねぇな。知らないことを書けるわけがない。ルイーサのことはルーリーに任せるか)
「ルーリー、ルイーサに九九教えてあげて。」
「ひゃ、ひゃいっ、わかりましたアルさま。ほらねぇさんいくよ?」
「ありがとうルーリ~」
「宿題忘れはルイーザの場合、体育の授業中勉強だっけ。うん、ルイーザ次の体育―――なしね♪」
「そんな~」
(努力したんなら別にいいけど、九九自体知らなかったしな~、結構前から根気強く教えてたんだけど)
できないような宿題を出したわけじゃない。地頭の良さも違うし、なんだったら年も違う。
全員が全員同じ宿題じゃない。今回九九の宿題を出したのはルイーサとデールだけだ。
その後、いつも通りに授業を進め、そろそろかな?と思ったタイミングで丁度と鐘がなった。
授業終了の合図だ。
この鐘はセレクトゥの中門の領兵騎士団の詰め所が鳴らしているもので1時間おきに朝6時から夜の18時まで鳴っている。
今のは正午の鐘。
「アルさま、ありがとうございました。やったーめしだぜっ!」
俺に挨拶をした後、デールが手持ち黒板を鞄にしまい、家臣・使用人専用の食堂の方へ走っていく。
ここにも随分と慣れたようだ。初めはどうなるかと思っていたが、思いのほかうまくいっている。
他のみんなも俺に挨拶をし終えた後デールに続いて走っていった。
「あいよ~、お疲れさまー」
適当に挨拶を返す俺のもとに3人の子供が近づいてくる。
「お疲れ、アル様。」
「お疲れ様です、アル様」
「お疲れ様っ、アル様!」
はじめからグンター、ラヨス、ルウの順だ。
このように俺は孤児院組からアル様と呼ばれている。
アルテゥール様は堅苦しいし、同年代に若はちょっと、な。
俺はアルが良かったけど貴族的にはアウトだということで、間を取りアル様になった。
そんな3人は先ほどまで近衛騎士団の団員による体術の授業を受けていたためか頬をリンゴ色に染めている。
俺?俺は別の時に近衛騎士団団長様とか父上相手に個人レッスンだよ。
めっちゃきついからね?頬だけでなく体中がケチャップ色に染まりそうなほどだ。
どうやら、3人は食堂に行く途中らしい。ちょこちょこっと雑談をしてからじゃあまた、と言って俺は一人ヴァンティエール家専用の食堂に行く。
寂しいなぁ、、、
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