第25話 事後処理

 全身をハッツェンが優しく包んでくれている。


 (超気持ちいい、なんも言えね~)


 先ほどまで寝ていたためか目がしょぼしょぼする。そんな目を擦りながら、ふと横を見ると窓の外にはセレクトゥの風景がゆっくりと流れていた。


 ―――今俺は馬車に乗せられ家まで送られている。


(何してたんだっけ?)


 ポヤポヤする頭の中で思い出そうとする。




 ◇◇◇




 黒歴史の一つになるであろう大号泣の後。


 心配のあまり泣いてしまったハッツェンを慰めながらも俺は父上が進めている事後処理についていった。もちろんハッツェンにライドオンした状態でだ。


 結構口から出まかせを言った俺だが、その内容は可能性としては十分にあり得ることだったし無視できないものもあった。

 例えば、アマネセルの間者のことや騎士団内にいるかもしれない内通者とかね。

 さらなる証拠や情報を求めて、父上とヴァンティエール近衛騎士団――

(あぁ、ヴァンティエール近衛騎士団ってのはアルノーが所属している領兵騎士団とはまた別の集団で言っちゃえば、領兵騎士団の完全な上位互換だ。団員全員が領兵騎士団の隊長クラス、もしくはそれ以上の力を持っている。領兵騎士団を信用できない今そんな化け物集団近衛騎士団が調査するしかなくなってしまったのだ)

が孤児院内を調査した結果地下へと続く隠し階段を見つけ、階段の先にあった部屋では孤児院で働いていた女性たちが縄で縛られているのが発見された。


 彼女たちの目は虚ろで何を映しているのか分からない。何も映していないのかもしれない。

髪や衣服なども乱れており、ほぼ着ていないと言っていいだろう。

ここで何が行われていたのかは容易に想像できた。

 すぐさまハッツェンに目隠しされて「見てはいけません」と言われたよ。


 その他にも闇魔法の魔力残滓やドロウガの花の匂いが残っておりアマネセルの間者がここにいたことを示唆していた。


 魔力残滓とはその名の通り、魔法が使用された際に残る微量な魔力のカスのようなもので、専用の魔道具を使えば使用された魔法の属性までわかる。

 先ほど俺がザイテの命をもって証明した通りアマネセルの間者らしきものたちは闇魔法の使い手だったことからこの魔力残滓も十分な証拠になるだろう。

 また、ドロウガの花とはアマネセル国内で流通している麻薬の名前だ。

 後遺症は個人差があるものの比較的軽い他、ストレス軽減や安眠補助のような効果があり、敵国の諜報活動で感じるであろうストレスや常に付き纏う死の気配を紛らわせるにはうってつけの代物だ。

 アマネセルでは結構簡単に手に入る麻薬だが、アルトアイゼン王国ではドロウガの花の栽培や販売、使用を法律で固く禁じている。麻薬取締官も存在しているほどだ。


 そんなドロウガの花の匂いがかすかに感じられたというのだ。確定証拠とはいかないまでも判断の材料にはなり得る。

(ちなみに何でドロウガの花の匂いが分かったのかは知らん。アマネセルに接している辺境伯家だから麻取みたいな人も近衛騎士団内にいるのかもしれない。)


 そして、騎士団の内通問題に関してだがすぐに解明された。

 先ほど俺がしていた父上への言い訳を途中でぶった切った馬鹿に詰問したらあっさりとゲロったからだ。

 近衛騎士団の団員が「正直に言ったらお前だけは助けてやる」といった見え透いた古典的な嘘を投げかけたら、そりゃもうあっさりと色んな事をゲロったらしい。他の内通仲間やアマネセルとの関与、見返りまで何もかもだ。馬鹿である。


(アマネセルのネズミ間者さんや、口封じする相手間違ってませんかね?)


 魔力残滓を残したり、ドロウガの花の匂いを残したりとかなり雑な仕事だ。ここまでくるとほかの何者かがアマネセルの仕業に見せかけようとしているとさえ思ってしまうのだがそれで得をする者はあいにく心当たりがない。父上もないと言っていた。


 そんなこんなやっているうちに夜は更け、お子ちゃまは寝るような時間になっていた。事後処理もあらかた終わっているようなので安心していたら、いつの間にか寝てしまったらしく気が付いたら馬車の中というわけだ。


(今日はいろいろあり過ぎて疲れてしまった・・・。でもまだやることあるんだよなぁ)


 具体的に言えばグンター、ラヨス、ルウとその他の小さな子供たち、孤児院組の今後のことについてだ。

 このままだと彼、彼女らはどうなるのだろうか。

 アマネセルの関係者でないことは事後処理の途中で確認を行っていたであろう近衛騎士団の一人が父上に報告していたのでいきなり、殺処分といったことにはならないだろう。


 まずは一安心だ。


 そして欲も出てきた。


 結論を正直かつ直接的に言うと俺はあいつらが欲しい。


 理由としてはラヨスは言わずもがなだが、自らが囮になり傷だらけになりながらも仲間たちを守っていたグンターという少年もラヨスの話からかなり優秀であると感じたし、何者にも臆することないある意味で怖いもの知らずのルウも俺にはないものを持っていたからだ。彼女がいなければ、路地裏でならず者5人を倒した後すぐに俺は帰っていただろう。

 また、小さい子供たちもできれば欲しい。

 まだ何ものにも染まっていない子供たち。この世界の常識もほとんど知らないだろう。そんな子供たちにこの世界と地球の知識をハイブリッドさせた高度な教育を受けてもらったらどうなるのだろう。

 常識にとらわれずに柔軟な発想ができる人材が欲しい。身勝手なことを思っているのは承知の上だ。しかしそうでもしないと、俺はこの先、生き抜いていける気がしない。


 ヴァンティエール辺境伯家の長男とはそれほどにハードな境遇である。

 俺は平凡ではない前世でエリート街道を歩んできたこともあってか、優秀な方だとさえ思ってしまう。

 しかし、それでは足りない。今世の家族と比べれば俺は平凡といっても差し支えないだろうし、それ以下かもしれない。

 それでも俺は家族に失望されたくないという理由から身の丈に合わない願いだが、辺境伯家を発展させていきたいとも思っている。だから、それを補う優秀な人材が必要になるのだ。


(駄目だと言われるかもだけど、明日父上に相談してみよう)


 そんなことを思いながら再度襲来してきた睡魔に身を任せ、意識を手放した。

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