幼少 ―友達を求めて―

第18話 領都をゆく


 3歳の誕生月に買ってもらった椅子と机に座ったアルテュールはとんでもないことに気がついていた―――。


「友達が、いないっ…!」


 そう友達がいないのである、同世代の友達がとにかくいない。

 毎年開かれる北方連盟にはあれから毎年参加しているが、俺より年下の者は見たことがない。

 少し上の者などもいるが、そいつらは辺境伯嫡男という肩書に群がるものばかりで基本的にゴマすりとかヨイショしかしない。


 そんな奴と一緒にいて楽しいと思うか?

 こういう時だけは、中身が大人なことが恨めしい。子供ならまだ喜べるというのに・・・。

 しかも、そういうやつらの大半は俺が助けて欲しいような状況に陥ると手の平を返すと相場が決まっている。貴族の世界なのでそれを非難する気はない。


 しかし、友達ゼロはまずい。


 俺の心が泣いている、友達をつくろう―――!!


(よし、そうと決まれば即行動だ)


「ハッツェン。外行くよ!」

「畏まりました、御屋形様に外出許可をもらいに行きましょう」


 初めて会った時から4年が経ち、15歳となったハッツェンは俺の専属侍女となり、いつも俺のそばにいる。たおやかな黒髪ショートボブ、顔つきはあの頃と比べて女性らしくなり、聡明そうな美少女となっていた。

 実際に聡明でもある。もともと地頭がいいのはわかっていたが、俺が勉強している最中もずっとそばにいたためか、磨きがかかっている。

 もちろんハッツェンの希望を聞いてからにするが、将来俺の秘書的存在になってくれたらなぁ、なんて思ったりしている。


 そんな彼女と一緒に外出許可を取るべく、父上のところまで歩いてゆく。


 トン、トン


「アルテュールです」

「入れ」


 ガチャッ


 ドアを開けた俺は前置きを置かずに、ド直球で用件を伝える。


「失礼します、父上。友達をつくるため市街地まで行きたいのですが、よろしいでしょうか。」


 少しの沈黙。

 父上は目元を覆い、ハァとため息をついてから口を開く。


「・・・わかった、ただしハッツェンも一緒に連れていけ。気を付けるのだぞ」


 可哀そうなものを見る眼で許可を出す父上


(気持ちが先走って、そのまんま言ってしまった・・・。そんな目で見ないでくれ)


 心にダメージを負いながらも何とか自分の部屋に戻るとすぐにハッツェンが着替えさせてくれる。楽ちん楽ちん♪


 先ほど父上が外出の条件に出していたハッツェン同行にもちゃんとした意味がある。

 何を隠そうこのハッツェン、めっちゃ強いのだ。うちの領兵を5人相手しても普通に勝つ。


 何でそんなに強いのか前に聞いたとき「アル様を傍でお守りしたいからです」と言ってた。


(なにそれ、超かわいい。完璧美少女メイドキタ―――!!)


 なんて気持ち悪いことを考えていたら、すべての準備が整っていた。ダメ人間になりそうです。


 友達作りのための外出なので格好は二人とも平民の格好、二人ともちょっと美形すぎるがそれはもうしょうがない。

 そう、俺イケメンなのだ!あの親にしてこの子ありって感じ。感謝しています父上、母上。


 玄間を出て10分くらい庭を歩き、家の門をくぐりながら門兵に挨拶をする。


「行ってらっしゃいませ若」

「おつかれさ~ん」


 広がった視界、最初目に入ったのは閑静な高級住宅街だ。道は整備されゴミ一つ落ちていない。目的地に向かいながら、領都スレクトゥの情報を頭の中で整理する。


 ヴァンティエール辺境伯領領都スレクトゥは内側から第1城門、第2城門、第3城門の3枚の壁に囲まれた城塞都市となっており外側には畑が広がっている。

(ウォール〇-ナ、〇-ゼ、〇リアみたいになってるって言えばわかるかな?わからんか)


 第1城門(内門)の内側はヴァンティエール辺境伯の屋敷、つまり俺ん家があり、第2城門(中門)の内側の内部分が金持ちが住む上級区、外部分が一般的な庶民が住む中級区および公認商業区となっている。

 ここにはセレクトゥの住民証明がないと入れないし、うちヴァンティエール家の許可がないと商売ができない。


 そして、第3城門(外門)の内側は自由区と呼ばれている。

 そこは身分証明ができる者であればだれでも入ることができるし、住むことだってできる。住民税を払わなくても住めるというのはとてつもないメリットだし、外壁にまで守られているので、移住希望者が後を絶たない。

 そして、ここには冒険者ギルドや傭兵ギルド、商業ギルドなど国境にとらわれない団体が軒を連ねている。


 しかしこれでは、中門内の中級以上の市民が納得しないのでは?と思うかもしれないが、そんなことはない。


 結論から言おう、中門内の街は超絶綺麗で超絶治安がいいのだ。


 その理由としては、奴隷制がこの世界に存在するということとせっかく高い金払って中門内に住んでいるのに、犯罪をして追放されるなんて馬鹿々々しいからというのが挙げられる。


 この世界、結構簡単に奴隷落ちする。

 アルトアイゼン王国内各領では王国法に触れない程度の私刑が使われており、軽犯罪でも犯罪奴隷に落ちる可能性が高い。それ以外にも口減らしや借金で首が回らなくなり奴隷に落ちるものが多くいる。


 そしてスレクトゥの住民税は他貴族の領と比べ、ちと高い。

 流石に王都アイゼンベルクの中位区以上ということはないが、十分高いうちに入るだろう。その代わり、上で言ったように街中が綺麗で、夜に女子供が一人で出歩いても何の問題にもならないほど治安がよく、昼は賑やか夜静かで住みやすい。

 実際に出歩けば、24時間体制で巡回している領兵に補導され、家まで送られるが…


 そんな当家自慢の上級区、中級区、公認商業区を素通りしながら考える。


 俺は貴族だから友達選び=将来の腹心選びとも言える。これは仕方のないことだ。また、家族と一緒に何度も街を見て回ったため中門より内側で育った奴は俺の顔を知っている。

 全員が全員そういうやつではないと思うが、中門内の人間は基本機嫌を取りに来るのだ。

 今欲しい友人はそう言う腰巾着たちではない。将来家臣になるかもしれないのだ、どうせなら面白いやつを選んだ方がいい。


 そこで思考を打ち切り、胸ときめかせて門一つ外、自由区に足を踏み入れる。


(友達何人出来るかな―――?)



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



    ヴァンティエール屋敷

――――――――― ―――――――――内門

        上級区

      中級区・公認商業区

――――――――― ―――――――――中門

        自由区

――――――――― ―――――――――外門


         外



――……壁

― ―……門

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る