第17話 母上よ、あなたもか…

「国王陛下のお言葉である!


―――この場に駆けつけることができなかった立場であるわたしを許せ、我が愛しの娘アデリナよ、そして、未だ顔も知らぬ愛すべき孫たち、オレリア、そしてアルテュールよ。アイゼンベルクにて待つ、息災でな。わたしの孫たちの未来に幸あれ―――」


 そう長くない手紙を代読した後、勅使はすぐ父上たちに頭を下げた


「失礼致しました。ヴァンティエール辺境伯閣下、辺境伯夫人」


「よい、それが貴方の職務だ。労ねぎらいこそすれ、どうして責めることができようか」


「もう仕事は終わったのですよ、コーエン。顔を上げなさい」


 父上が労いの言葉をかけた後、優しく母上が語り掛ける。


 一方遠目で見ていた俺は現実に打ちのめされていた。


(父上は時に侯爵をも超える辺境伯家当主であり、北方連盟の盟主。じいちゃんは2メートル近くの巨人、しかも絶対に隠してることある。二つ名的なやつとか…。ばあちゃんはどのくらいすごいかわかんないけど元宮廷魔導士第1席、無茶苦茶強そう、てか絶対強い。そして母上よ、あなたもか・・・なぜ隠していた王女だということを・・・)


 そんな意味わからんほどハイスペックな血を引き継いだ男アルテュールこと俺氏。


(ヤバい、頑張らないと・・・)


 眩暈めまいがした俺はその場で倒れこみ、今度こそ意識を落とした。




 ◇◇◇




 それからは目まぐるしく日々が過ぎていき3年の月日が流れていた―――


 その間の出来事をまんで話そう。

 あの集会の翌日、目を覚ました俺は家族に囲まれていた。父上とじいちゃんには謝られ、その二人をばあちゃんが叱り、傍では母上とリア姉が泣いていた。

 まあ、昨日のあれは1歳児が参加すべきものではなかったし、ぶっ倒れるのも仕方ない。けど、大貴族の長男としての責務を果たす果たさない以前にこんなにも優しい家族のみんなには失望されたくないと心の底から思った。


 その気持ちを原動力に俺は前世でしてこなかった努力をした。

 ハッツェンから話を聞くだけでなく、一緒に家の図書館に行ってもらいこの世界のことを知ろうとした。

 

じいちゃんとも喋ったよ。

あまりにも俺のところにばかりいたので「おしごとしないの?」と聞いたところじいちゃんは「クレマンがいるからいいんじゃ」と言い、またばあちゃんに叱られ拗ねてシアンドギャルド要塞に戻っていった。ちなみに、めちゃくちゃ戦時中らしい。


(それでいいのか祖父よ・・・)


 ばあちゃんはというと、少しこちらに滞在してまた学園の方へ戻っていった。魔法について教えてもらえなかったがその代わりにブレンとイゾルダが半年後うちに仕官してきた。

 ブレンは馬鹿真面目なので俺の質問にすべて、懇切丁寧に教えてくれる。

イゾルダドジっ子?あいつ天才だから、俺が聞いても―――「こう、シュバって、ククッで、スコーンですっ」と答える。

 ちょっ何言ってんのかわかんないっす・・・。

 ちなみにリア姉は理解していた。うちの家族にはもう驚かない、そう誓った。


(お転婆とドジっ子が天才。もうそれ詐欺じゃねぇか)

 天才の生態とは未知である。

 その様子を見ていたブレンはより一層丁寧に教えてくれた。おお、友よ‥‥‥。


 1、2歳の間はそうやって過ごした――。


 そして、3歳になった時に父上からは貴族としての矜持と礼儀作法を、母上にはテーブルマナーとダンスを学びはじめた。

 7歳になると王国貴族の子供たちは王都に招かれる。なので5歳になると家庭教師がつくらしいのだが、不安でしかなかった俺は基礎部分だけでもいいからと頼み込み教えてもらったのだ。

 基礎部分はひと月で終わった。これにはさすがの両親でも驚いたらしくあの時は顔が驚愕の色に染まっていたなぁ。


(ふふっ、してやったり。これでも前世ではエリート街道を歩んでいたのだよ)


 そんな得意げになっていた俺の鼻っ柱をリア姉が優美な礼儀作法やダンスを見せつけることで叩き折ってくれた。

 そのリア姉も去年、王都での舞踏会に招かれていた。国王陛下おじいさまと皇后陛下おばあさまにも会ったらしく、超自慢された。そして7歳の時、舞踏会とは別に王都で適正の儀というものを受けるらしい。


(ファンタジーだな)


 聞いた時にはそう思ったが、俺の知っているものとは少し違うらしい。


 曰く、適正の儀とはその年に7歳になる人間の潜在能力を遺物アーティファクトによって可視化させ適性を見極めるのだとか。

 曰く、潜在能力値は10段階あり一番下が第1位階で一番上が第10位階である。また、そもそも才能がないものは表示されないのとのことでこの世界の庶民の平均は第3位階、貴族は第5位階らしい。へぇ~。

 曰く、潜在能力値とは絶対に届く能力値などではなく、血のにじむ努力の末に手に入れることのできる能力の限界値らしい。

 曰く、適正の儀は王国内の一定以上規模の都市で受けることが出来るのだが、それぞれで表示できる才の数が変化するらしい。王都が一番多いそうだ。

(以下略)


 とても細かくややこしい。ただ、人の適正を見極められることは良いことであると同時に、本人の可能性を狭めてしまうものだとも考えられる。


(今気にしても、仕方ないやつだな)


 ちなみに数か月前から家にはリア姉がいない。9歳から入ることのできる王都のお嬢様学校に行ったためだ。

 少し静かになった屋敷を見て、寂しさを覚えた。


(次会う時には、お互い立派になっているといいなぁ)


 そんなこんなで先月4歳になった俺は未来のために今日から本格的に屋敷の外で動き出す。


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