第9話 襲来
じーーーーー・・・
場が静寂に包まれている。
この部屋には世話係の侍女を含め、5人いるはず。しかし、聞こえてくるのは窓の外にいるであろう小鳥の声のみ。
チュンチュンッ♪
(スズメかな?)
と考えている俺は今、見知らぬおじさんに高い高いされ、高いの状態で固定されたまま、じっと見つめられていた。
(なんだこの状況、誰か教えてくれ・・・)
時を少し戻そう
◇◇◇
あれから約4か月―――
俺ことアルテュールは今日で一歳になる。
(長かった、これで明日からの行動範囲が広がるだろう)
としみじみ思う。
―――なぜ明日からであるか。
というのも、誕生月を祝う宴が今日あるのだ。
この世界の誕生日は地球のものとは少し違っていて、月の中頃その月に生まれた者を一斉に祝うらしい。そして、ヴァンティエール家は父上、母上、リア姉そして俺を含む4人が今月―――つまり
(4人同じ月って結構な確率だよね、今月で父上は25歳 リア姉は6歳になるのかぁ、母上は教えてくれませんでした。)
少し前に立てるようになったとはいえ今まで俺は0歳だった。心配なのだろう、外は危ないからとほとんどの時間をこの部屋で過ごしてきた。
1歳になったら少しは・・・という希望的観測ではあるが行動範囲は広がるはずだ。広がらなくても広げてやる。―――
ちなみに収穫月の名前は<ヴァイツェン>というアルトアイゼン王国の主食の原料となる作物を収穫する時期からきている。教えてくれたのはもちろんわれらがかわいい侍女ハッツェンですっ。
その時に実物も見せてもらったが
(あ~、小麦ね。予想はできてたけど)
というのが、俺の正直な感想だ。
それが顔に出ていたらしく、俺を喜ばせるためにヴァイツェンを持ってきてくれたハッツェンは少し拗ねていた。
(かわいい・・・そしてツェン多いな・・・)
また、これでブロートと呼ばれる主食ができるらしい
(パンね・・・)
今度は顔に出していない自信があった俺だが、なんか雰囲気を感じとったブロートを持つハッツェンは少し拗ねていた
(ほんとにかわいいな。)
まあこんなことを思い出しながら、うきうきした気持ちを持ちつつも寝て、夜に控えるパーティーを待っていた。(なるべく長く起きれるようにアルテュールは寝だめをしています)
―――そんな時であった
バンッ!
突然、部屋の扉が勢いよく開けられ、すわ襲撃者か!と部屋にいた侍女たちは身構える。直後、それが勘違いであるとわかったのか元居た場所へと戻り、きれいな姿勢で控える。しかし、顔には畏怖と緊張の文字。
一方、びくっとなって飛び起きた俺だが、すぐ冷静になり音の大きさ的にリア姉でないことを把握する。その間に、扉をうるさく開けたであろう下手人はずんずんと部屋の中を進んでくる。
―――俺の方に
(なんか来てるっ、ハッツェン!)
頼れるハッツェンの方を見るが当のハッツェンは緊張しているため、こちらの視線に気づかない。
ズンズン
その間にもどんどん何かが近づいてくる
瞬間、俺の体が一気に上まで持ち上げられた。
(わキャー――!?)
一見、乱雑な持ち上げ方にも見えるが一方で、持ち上げられている側の俺はというとまるで宝物のように扱われているような。そんな、不思議な感覚を覚えていた。
慌ていた心が落ち着きを取り戻す。
(なぜだろう、とても安心する。)
事の下手人である見知らぬおじさんは俺の眼を見つめている。
じーーーーー・・・
そして今に至る
(なんだこの状況、誰か教えてくれ・・・)
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