黎明 ―はじまりのパーティ―

第2話 こんにちは異世界


 ―――とても穏やかな気分でいることができた。

 状況は何一つもわかっちゃいないのに、ここは安全だと本能が教えてくれる。


 しかし、突然その平穏は終わりを告げる―――。


 堰を切って溢れ出す何かに頭から流されていく中、俺は混濁する脳内で叫ぶ。


(いやだっ!まだここにいたいっ!)


 必死に体と思われるものを動かす。しかし、願い虚しく体はどんどん流される。心なしか頭が締め付けられる感覚、そして息苦しさが同時に襲い掛かる。


(もうだめだ…―――)


 そう思った瞬間、とてつもない解放感を感じた。

 しかし、一向に息苦しさは解消されない。


(あ、そうか。息ができていないんだ…)


 口を開けた途端、無意識に声とも言えない音が出る。


「オンギャー!アー、アー、オンギャー――――!」


 ひとしきり泣いた?俺はまどろみの中に落ちていく。


 意識を手放す寸前、ここ数時間職務を放棄していた耳がようやく復帰し、わずかながらも音をとらえた。


「―――――!」

「――――――――――!」


 ガチャッ


「――――――!?」

「―――――――――――!」

「――――――――!」

「―――――――――?」


「アル―――ル――。」

「ア―――テュ―――――――――♪」


(何言ってんのかわからん―――日本語でしゃべってくれ・・・)


 最後の方は辛うじてだが単語らしい言語を聞き取れた、意味は全く分からない。

 けれども雰囲気は何となく感じ取れた。


(―――悪くないな…。)


 誰かに抱えられながら、俺は今度こそ完全に意識を手放した。





 王国歴572年、アルトアイゼン王国北西ヴァンティエール辺境伯領領都スレクトゥの領主の館の一室。大勢に見守られながら、アルテュールという少年がその産声を上げた。

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