とある辺境伯家の長男 ~剣と魔法の異世界に転生した努力したことがない男の奮闘記 「ちょっ、うちの家族が優秀すぎるんだが」~

海堂金太郎

プロローグ

第1話 とある男


 誰もが一度は通ったことのあるごく一般的な住宅街。すでに日は沈み、夜のとばりが落ちている。


 仕事に疲れながらも職業柄なのかそれを感じさせないほど背筋を伸ばし帰路につく壮年のサラリーマン。

 ノルマを達成しないと帰れないブラックな会社に勤めている営業担当であろう比較的若い男。

 そのような苦労人に面と向かって喧嘩を売りつけているとしか思えないほど楽し気に、かつ大声で談笑している学生達。


 ―――どこにでもあるような夜の住宅街の一場面。


 それを見て「あぁ何の苦労も知らない若者たちも社会という荒波に揉まれ、やがて大人になっていくんだなぁ……」と考えている変人が一人。


 その変人は比較的体が大きいとはいえ、どこにでもいそうな風貌をしていた。

 背負っているリュックはパンパンに膨れており、首には汗を拭くためかタオルがかかっていた。そして、片肩にかかったボールが入っているであろう袋によって体育会系感がさらに増している。そんな恰好をしていた。


(今日の練習もマジでつらかった~。フットワークの後にいきなりダッシュはないでしょ!しかも10本!‥‥‥っていうか進学校なのにここまで練習つらいの意味わからん…)


 男は届くはずのない抗議を学校からの帰り道ずっと脳内で唱えている。


 しかし考えるだけで実際に行動へと移さないのは、ハードな練習が必要と理解しているからなのか。それともただ目上の人間に直接文句を言えない日本人特有のものなのかはわからない。


 だが、こんな男でも一応将来を期待されているエリート候補の一人である。

 男が在籍している高校の偏差値は70を超え、男自身も校内で特に努力もせず中の上、上の下あたりの成績を収めていた。


 ―――極めて微妙である。


 天才とは言えないが凡才でもない。ただ優秀なのは違いない。


 また部活動でも優秀な成績を収めていた。


 ―――万能型の人間である。


 そんな何不自由ない生活を送っていた万能型の変人は現状に物足りなさを覚えていた。

 刺激を欲していたとも言える。


 そんな時だった。

 居眠り運転のトラックがガードレールを超えて男に迫ってきたのは―――。


(あっ、死んだ…―――)


 ボンッ―――


 人間が一人宙に舞い、


 ドサッ、ドッ、ザザー―――


 硬いアスファルトの上を何度も跳ねる。



 皮肉にもこの瞬間が男の人生の中で一番の刺激だった―――。

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