第21話 マリアの正体


 結婚式会場を出て行く蓮心の背中を二人はただ見ていた。止める事もなくお礼の言葉を掛ける事もなくただ黙って見ていた。ユリアに限っては蓮心と視線が合わないようにしていた。助けて貰っておきながら申し訳ないかもしれないが今の蓮心はユリアには怖かった。蓮心もカルロスと同じく人を殺すことに躊躇いがなかった。もしかしたら合ったのかもしれないがユリアから見た蓮心はあの時カルロスの首を意図的に狙い跳ねたように見えた。仲間だと思っていた者が人を殺したその事実に深いショックを受けていた。

 表情はまだ引きずっていたがここでマリアの口が動く。


「ユリア? 蓮心何処に行ったの?」


「さぁ?」


 そもそも何処かに行くにしても蓮心はこの世界に来てまだ日が浅く何処に何があるかすらほとんど知らないはずである。そう考えると結婚式会場を出て何処に向かったのかを予想したくても予想のしようがなかった。


「このままお別れなんてないよね?」


 ユリアがマリアの顔を見ると蓮心が出ていった扉を見つめていた。


「さぁ? でもそれでもいい気がする」


「えっ?」


「逆にマリアは一緒にいたいの?」


「いたいよ」


 ユリアの想像していた答えとは違う答えが返ってくる。


「何で一緒にいたいと思うの?」


「逆にユリアがこのまま蓮心と離れてもいいと思ってる理由を教えて?」


 マリアが扉からユリアの目を見る。

 元気こそはなかったがただユリアの目を静かに見ていた。


「蓮心もカルロスと同じで人を殺す事に躊躇いがなかったから」


「違うよ。蓮心はそんな事ないよ! 私も蓮心がいる間はそう思ってしまった。だけどここを出ていく時の蓮心の顔を見て違うってわかった! 蓮心の性格からして多分だけど私の為にそうしたんだと思う。そうしなければ多分カルロスには勝てなかった。ううん、多分そうしなければ蓮心が死んでいたと思う!」


 マリアが立ち上がる。

 ユリアには何故そこまでしてマリアが蓮心を守ろうとするのかがよく分からなかった。


「どうしてそう思うの?」


「私と蓮心は前いた世界でずっと一緒にいたからだよ! それに本当に蓮心がカルロスと同じなら私はこの時点で蓮心と結婚していたと思う。女神の婚約者ともなればこの世界ではかなり名が高い。そしてランクに関係なくある程度の立場も与えられる」


「確かにそうかも知れない。だけどそう思わせる事が蓮心の作戦かもしれない」


 マリアの言っている事は全てが正しく聞こえた。だけど、蓮心の頭がいい事は大聖堂の中で分かっていた。EX(エクストラ)固有スキルの一つである模倣がそれを証明していた。そんな蓮心ならマリアを手の中で転がす事も可能だと思ってしまった。過去に仲間を殺され臆病になったユリアの心は頭では分かっているはずなのにどうしても過去のカルロスと蓮心が重なってしまった。


「本気でそう思うなら蓮心を殺していいよ。出来る?」


 マリアの声はとても静かでゆっくりだったがユリアの心を動かすには十分すぎる破壊力も秘めていた。その言葉を聞いた瞬間言葉を失った。マリアの言葉が引き金となり、まるで走馬灯のように蓮心との記憶が蘇ってきた。蓮心にはマリアの生前の話しを敢えてしなかった。それはマリアが望んだからだ。教えれば蓮心の重荷になるからとマリアが言っていた。だけど、マリアについて何も知らないはずの蓮心はマリアを助ける為に身体に鞭を打って頑張っていた。何も知らない女の子一人の為に普通そこまで出来るかと言われれば一体何人が首を縦に振れるだろうか。きっと多くの者は首を横に振るだろう。それでも蓮心は元居た世界に戻りたいと言う自身の願いよりもマリアの助けを優先した。そして、最後は自身の命すら危険に晒し戦った。そんな人間が本当にカルロスと同じ悪人だと言うのか。落ち着いて冷静に考えて見ればそんなはずはなかった。何より、蓮心はずっと一緒にいたいと言ったユリアの言葉に対しても自身の都合に誰かを巻き込みたくないと言っていた。その癖、人の都合には巻き込まれておきながら文句は言っても最後まで放り出さないお人好しだった。そんな蓮心を一瞬でも疑った自分に後悔した。


「ううん。出来ない。だって、蓮心は良い奴で私の大切な人(仲間)だから」


「ほらユリアも立って。蓮心を追いかけよ?」


「うん」


 ユリアが立ち上がるとマリアが手を掴んで走り出す。

 マリアに引っ張られる形でユリアが走っていると、遠くに蓮心の背中が僅かに見えた。


「ちょっと、マリアどうするの?」


「どうって?」


「このままじゃ蓮心の背中が見えなくなっちゃう」


 ユリアが指を指すと蓮心が曲がり角を曲がろうとしていた。


「そりゃ、決まってるじゃない。この世界には魔法があるのよ」


 マリアが満面の笑みで答える。


「あはは……」


 ユリアが苦笑いする。

 マリアのMPゲージが一気に八割減少する。


『スキル発動:空間魔法を発動しますか? YES/NO』


「YES!」


 元気のいいマリアの声が響く。

 そして、二人は無気力で歩く蓮心の前に移動する。


「待って! 私達仲間でしょ。一人で行かないで」


 マリアが静止を呼びかける。


「違う」


 蓮心はマリアの言葉を否定し、そのまま二人の間を抜けていく。


「なら何で私と結婚しなかったの?」


「ただの気分」


 マリアの質問に歩いていた足を止め、作り笑顔で蓮心が答える。


「嘘! お兄ちゃんの顔を見ればそれぐらい嘘だってことぐらい分かる。ずっと大好きだったお兄ちゃんの嘘ぐらい今の私にも分かる!」


 マリアが蓮心に歩みよる。

 蓮心は驚いていた。


「お兄ちゃんは彩聖(あやせ)の事忘れたの? 小さい頃、彩聖はお兄ちゃんのお嫁さんになるって言った約束忘れたの?」


 本人達しか知らない事を口にするマリアに蓮心だけでなく近くで聞いていたユリアまでが驚いていた。薄々気づいてはいたがマリアが兄である蓮心を今でも心から愛していた事に改めて驚いてしまった。マリアは元居た世界で死んだときにこの世界に転生者として第二の生を受けた。その時に転生させてくれた者に年齢を兄と同じ年にして欲しいのと自分が困った時には兄を異世界から呼びたいと願った。すると、その願いが叶った。


「何でマリアが妹の名前を……」


「だ・か・ら・私が彩聖だから。何よ、ユリアにはいい顔してた癖に妹の私には何もないの? やっぱり女は胸って言いたいわけ?」


 蓮心が頷き、事情を察する。

 流石、頭の回転が速く理解力があるなとユリアは感心する。

 それにしても状況を理解するのが早すぎる気もするが。


「うん。そうだね」


 蓮心が即答する。


「お兄ちゃん? 今度こそ隕石の下敷きになって死にたいの?」


 マリアが残ったMPゲージを使い上空に隕石を出現させる。

 たった二割のMP。

 それでも女神のマリアが引き起こす現象は蓮心のとはレベルが違う。


「いえ。まだ死にたくありません」


「とりあえずお兄ちゃんは私だけの物。って事でまずは恋人になって?」


 MPゲージがないこの状況で蓮心に選択肢等あるわけがない。

 ユリアは蓮心を見て可哀想だなと心の中で同情する。

 蓮心が隕石とマリアを交互に何度も見ていた。

 近くで見ていたユリアですらマリアの笑みがとても怖かった。


「ゆ、ゆりあ……ヘルプ……」


「…………ゴメン。私まだ死にたくないから」


「……こ、恋人の件……よ、喜んでお受けいたしますのでどうか隕石を納めては頂けないでしょうか彩聖様」


 実の妹に言うセリフではない言葉を聞いてしまったユリアは思わずため息を吐いてしまう。

 蓮心と言う人間はとことんマリアに対して甘すぎると思ってしまった。


「うん。なら近いうちに結婚しようね?」


「あっ、うん……そうだね……」


 この世界でも兄妹婚は流石に出来ない気がするが……。

 あれ……元居た世界でも国や地方によっては出来た所もあった気がした……だって同性婚ですらそう言った物を認めている国や地域だってある。何より一夫多妻制や一夫一妻制等国や地域で異なる……つまりはそうゆう事だと蓮心の頭が一つの解を導き出す。


『これは……何とかしなければ……マズイかもしれない』


 蓮心が困った顔でユリアを見ると満面の笑みで、


「私を巻き込まないで。私達仲間でしょ」


 と、言われた。


「蓮心大好き♪」


 そう言ってマリアが蓮心の腕に抱きつく。

 蓮心は懐かしい感覚に嬉しくもどうしていいか分からずにいたがとりあえず今は妹と再開出来た事を喜ぶことにした。何より妹が笑顔になった事に嬉しさを覚えた。

 マリアが救われ、誤解もなくなったので三人でアリエルの待つ宿に戻る事にした。


 どうせならユリアに抱き着かれて、そのたわわの弾力を腕で思う存分に味わいたかった……なんて言ったらマリアブチ切れるよな……。

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流れ星に軽い気持ちで願ったら異世界ならぬゲームの世界でレプリカの恋が始まった 光影 @Mitukage

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