第18話 再戦 蓮心とカルロス
雄たけびを上げカルロスに向かって走る。
魔法剣を振り上げ一気に振り下ろす。
魔法剣と剣がぶつかり合い、手に来る衝撃が両手を襲った。
耳が痛くなる高音が鳴り響く。
『スキル発動:連続切り使用しますか? YES/NO』
YES。
つば競り合いをする魔法剣が赤色に輝き始め、そのまま魔法を発動する。
魔法剣を一旦引き、剣を振る為のスペースを作りそこから五連撃の連続攻撃をする。
今までとは比べ物にならないぐらい成長していた。その証拠に身体が今まで以上にスムーズに動きカルロスを追い詰める。防御されたが魔法剣の五連撃によってカルロスのHPゲージが一割程減った。
「あの時とは違う……この剣はユリアのじゃない……」
予想していた動きと違ったらしくカルロスが一旦距離を取り態勢を立て直す。こちらも一度深呼吸をして落ち着く。今までだったら魔法剣をただ振り攻撃するだけだったが今は違う。しっかりと重心移動をして剣に自身の体重を乗せて攻撃する事が出来ていた。これが魔法によるアシストと昨日の勉強の成果だとするならばやって良かったと思った。
だが、それは悲しいことにカルロスを本気にさせる材料にもなった。
今までとは顔つきが変わり真剣な表情をしてこちらを見ていた。
「本気で来るのか」
「心底ムカつくがお前は強い。よくこの短時間で成長したと思う。だからこそ俺も実力を少しずつ出していくとしよう。何処まで俺に付いて来られるかな」
ゆっくりとした口調でカルロスが語り掛けてきた。
それはお前を殺すと言う宣言にも聞こえた。だけど、不思議な事にその言葉を聞いても落ち着いていた。この世界で沢山お世話になったユリアが近くで見てくれているそう思うととても心強かった。
カルロスの突撃に合わせてタイミングを見て素早く振り下ろされる一撃をバックステップと一緒に身体を捻る事で躱す。そのまま反撃に移る。魔法剣を刺すように突き刺し、カルロスの重心を崩してから魔法剣を使って攻撃していく。魔法剣と剣が何度も何度も火花と音を鳴らしぶつかり合う。時にはカルロスの一撃を躱しそのまま防御に精一杯になるが何とか隙を見て反撃していく。やはり、カルロスの方が一枚上手だった。だけど、実力差は殆どなかった。あるのは経験則があるかないかと言う一点だった。
カルロスの連撃にとうとう防御が間に合わなくなってくる。カルロスの連撃は一見でたらめに見えてそうじゃなかった。一撃一撃が計算されこちらの態勢を崩していく物だった。
『スキル発動:連続切り使用しますか? YES/NO』
YES。
連撃には連撃。攻撃には攻撃で対抗する。こちらは一撃でもダメージをまともに喰らえばそれだけで命に関わる。MPゲージを気にして魔法を出し惜しみするだけの余裕など最初からない。魔法剣が再び赤く輝きカルロスの剣と空中で五回ぶつかり合う。そして最後の一撃で強引にカルロスの剣と一緒に身体を吹き飛ばす。カルロスを見ると、空中で態勢を立て直し地面に着地していたので追撃しようと思ったがここは止めておく。
「これでも手数が足りないのか」
カルロスはMPゲージを使わない通常連続攻撃に対し、こちらはMPゲージを使う連続攻撃と通常連続攻撃で手数が何とか互角だった。一見、互角に見えるがそうじゃなかった。カルロスをよく見るとまだ余力がありそうだった。
「手数?……違うだろ。お前はずっと俺の剣筋を見ているんじゃないか?」
急に静かになった二人の世界に低い声が聞こえた。
「何でそう思う?」
こいつこちらの狙いに気づいたのか。
「今の攻防お前は俺の攻撃に対して身を護る為に魔法を使い連続攻撃をした。反撃にしては違和感があった。つまり、俺の剣筋から次に来る攻撃を予測したんじゃないか?」
「そうだ。俺にはお前と違ってこの世界での経験則が圧倒的に少ない。ならそれを補う為にどうするかを考えた時、答えは一つしかなかった」
「意図的な未来予知。それも偶然ではなく合理的な物か」
意図してない事はないが、カルロスの性格と動きからある程度なら動きが予測できる。後はそこに同じタイミングで攻撃をしていただけだ。なので偶然ではないにしろ完璧な未来予知ではない。その為、中々攻撃に移れずにいた。今出来るのは時折確信できるカルロスの動きに正確に対処する事だけである。
「否定はしない」
「種が分かれば怖くはない。次は今までよりもっと速いぞ。覚悟しろ」
カルロスの動きが速くなる。そして剣筋が読めても剣の動きが速く攻撃に移れなかった。今まで受けていた剣よりも一撃が軽い事から攻撃力ではなく速度を重視しているように思えた。上、横、正面から来る剣を落ち着いて対処していく。
「おら、どうした? その程度なのか? 初めのように攻めて来い雑魚が!」
カルロスが挑発してきたが無視する。
しばらくするとカルロスの動きに目と体が慣れてくる。命懸けと言う事もあり人の生存本能が目を覚ました、そんな感じだった。ここから反撃をしていく。こちらも攻撃力よりも速度を重視して攻撃する。攻撃と防御が激しく変わる。身体の重心に気を配りいつでもカルロスから距離を取れるように深追いはしないように気を付ける。必ず来るであろう最大の機会(チャンス)をひたすら待ち続ければいい。だから今は辛くても慌てない事が一番大切だと自分自身に言い聞かせる。
その時、カルロスの剣が青色に輝く。
これは本で読んだ七連の花の構え。
こちらもすぐに魔法で対抗する。
『スキル発動:一閃を使用しますか? YES/NO』
YES。
こちらには七連撃に対抗するスキルはない。ここは少々賭ける事にする。
カルロスに向かって全力で突撃する。そして、魔法剣に全体重を乗せて攻撃する。狙いはカルロスではなくカルロスが持っている剣だ。カルロスの動きをよく見て最初の一撃が来るであろう場所に全力で魔法剣を振るう。すると、予想が当たり二本の剣が衝突する。そのまま魔法剣の一撃がカルロスの剣によって強引に薙ぎ払われる。そのまま態勢を崩され後方に転がる。そこにカルロスの追撃が来る。
これで残りは六連。
『スキル発動:連続切り使用しますか? YES/NO』
YES。
すぐに態勢を立て直しながら魔法を発動する。MPゲージが更に減ったが今はどうでも良かった。先ほどと同じカルロスの動きをよく見て剣が来るであろう場所に魔法剣を使い相殺していく。魔法剣と剣が火花を一回、二回、三回、四回、五回と散らす。魔法剣が魔法の効力を失い、輝きを失い元の姿に戻る。しかしカルロスの剣はまだ青色に輝いており残り一撃を放つまで効力を失う事はない。
間に合うか怪しいが、魔法発動が比較的に速い物を選択する。
『スキル発動:縦切りを使用しますか? YES/NO』
YES。
魔法剣が赤色に輝きそのままカルロスを目掛けて振り下ろされる。咄嗟の事にカルロスの攻撃対象が魔法剣に変わってくれたおかげで命が助かった。そのまま魔法剣と剣がぶつかる。そのまま反動に耐えられず吹き飛ばされる。ここで終わりだったら良かったのだがカルロスが大きくジャンプしこちらに剣を向け飛んで来る。慌てて立ち上がり後方にジャンプして躱す。
合計で半分近くのMPゲージを使う事で何とか助かった。
「まさか七連の花をあんなやり方で防ぐとはな」
その目は蓮心だけを真っ直ぐと見ていた。
「褒めてくれて……いるのか……」
HPゲージは減っていなかったが体力は別だった。いつもより心臓の鼓動が早く、口で息をしていた。対してカルロスはまだ余裕と言った感じだった。これは少々身体能力の差でもハンデを抱えていたと認識を改めなければいけないみたいだ。
「まぁな。息があがってるみたいだがまだやるか?」
状況的に自分が有利だと判断したのかカルロスが微笑む。
「あぁ」
ここで逃げるぐらいなら最初からこの場にいない。
横目でマリアとユリアを見ると、二人が寄り添いあいながらこちらを見ていた。その顔は二人共心配している表情だった。情けない。あれだけ大層な事を言っておきながら二人にまだ心配を掛けていた自分に喝を入れる。
乱れた呼吸を戻す為に一度大きく深呼吸をする。
「バカは死なないと治らないらしいな」
「そうかもな」
「それで、今の防御でMPゲージをの半分を使ったお前に何が出来る?」
カルロスが剣を片手に少しずつ歩み寄って来る。
ここは、落ち着いて相手の出方を見る事にする。
集中しろ。
必ず来るチャンスまで今は耐えろ。
絶対に相手のペースに飲まれるな。
こちらはこちらの持ちゆる武器(頭脳)で勝負しろ。
絶対に相手の土俵(剣)だけで勝負するな。
お前なら出来る。マリアやユリアの為にも今は耐えろ。
そして勝て!
明日のたわわのために!
自身を強く鼓舞する。
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