第19話 このままじゃ救われない者


「それにしても攻撃魔法に対して防御魔法ではなく攻撃魔法で防ぐとは……何処でそんな知識と力を手に入れた?」


「何処でか……力は大聖堂だよ。後は発想の問題だ。防御が出来ない俺がお前と戦うにはどうしたらいいか考えた結果だ」


 そう防御最弱攻撃最強なら発想を変えれば防御姿勢を捨て攻撃だけで戦えば最強になれると。そして攻撃は最大の防御と言う言葉があるように蓮心と言う男の防御は攻撃にある。一歩間違えれば大変な事になるが生き残る為にはそれでもやるしかなかった。


「成程。普通は思い付いてもしないが、まぁいい」


 カルロスが急に速度を上げ走り出す。様子を見るつもりだったがこちらも走り迎え撃つ事にした。迎え撃つ理由は特になかったが言うならば直感だ。カルロスが走り出した瞬間嫌な予感がした。ただそれだけだった。しかし時には理屈じゃない。直感が大事になってくる時だってある。


『スキル発動:一閃を使用しますか? YES/NO』


 YES。


 更に魔法を使い加速する。

 魔法剣が赤く輝きそのままカルロスに向かって突撃する。魔法剣がカルロスを捉え剣とぶつかる。流石だ。こちらは魔法を使っているのにカルロスは己の剣術一つで防いだ。そのまま魔法剣と剣が何度も何度も火花を散らしぶつかる。


『スキル:偉人の型(魔法剣士)』のおかげで何とか戦えているがやはり攻め切れない。攻撃に関するステータスではこちらの方が上なのにそれでもあと一歩が届かない。MPゲージもさっきので四割まで減った。それに対してカルロスはHPゲージもMPゲージも満タンだった。カルロスは敢えて魔法を使わずにこちらが弱り抵抗が出来なくなるのを待っているように見えた。相手の作戦が分かってもMPゲージが回復するより早くMPゲージが減少する。


『スキル発動:縦切りを使用しますか? YES/NO』


 YES。


 まだだ、これじゃカルロスの攻撃には太刀打ちが出来ない。

 MPゲージが更に減る。


『スキル発動:横切りを使用しますか? YES/NO』


 YES。


 MPゲージが二割まで減った。だが今はそんな事を気にしている場合ではなかった。どんどん攻撃の数を増やしてくるカルロス相手にそんな余裕がなかった。こいつの本気は一体どこにあるんだ。


「おらおら、どうした剣士様!」


 全く元気がいい事で金髪のお兄さん。


「俺を倒すんだろう? その調子でマリアを救えるのか?」


 しまった……カルロスの言葉を聞くことに意識を回していたせいで反応が遅れた。反応が遅れたと言っても一秒にも満たなかった。だがその限りなく零に近い時間が命に関わる事だって時にはあるだろう。


 カルロスの剣先が右わき腹から左わき腹に掛けて触れる。まるで、ナイフでバターを引き裂くかのように剣が一直線に横断する。切られた腹部から血が流れ出る。HPゲージが凄い勢いで減少していく。今回は運よくと言うべきか半分とちょっとでHPゲージの減少が止まったが更にカルロスから蹴られ地面を転がる。それによって更にHPゲージが減少し結果的に二割まで減らされた。腹部に来る激痛に耐えながら魔法剣を構え立ち上がる。魔法剣を持つ手が震え、視界が赤くなり、足が重たくなった。


「っう、いてぇ」


 状況的にはたった一度の判断ミスで最悪に近い状況となっていた。


「蓮心!」


「蓮心!」


 マリアとユリアが名前を呼ぶ。まだ死んでないのに本当に大袈裟な二人だ。お姫様なら黙ってヒーローが助けてくれるのを待っているべきだろう。気力を振り絞り二人に対して微笑みを向けカルロスを見る。


「これは勝負合ったな」


 カルロスが高らかに笑う。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 息が乱れていた。だけど決めたはずだ。

 この命に変えてもマリアを救うと。

 だったらまだ倒れる訳にも負ける訳にもいかない。


 クソ……頭が思うように回らなくなってきた。


 雄たけびを上げ自信を鼓舞しカルロスに突撃する。そこから最後の力を振り絞り全力で攻撃をし続ける。今まで以上に魔法剣が重く感じる。だけど、この手を止めればもう身体が動く事を拒否する気がした。だから朽ち果てるその時まで全力で攻撃をする。猛攻している為かMPゲージが今までと比べると速く回復する。カルロスはこちらを見て微笑みながら攻撃を対処してきた。


「まだ、負ける訳にはいかないんだぁ!」


 声を出し、気合いを入れる。


「ふん、お前の剣が止まった時が最後だと思え」


「黙れ! マリアを救うその瞬間まで俺は戦い続ける!」


「その威勢いつまで持つかな?」


 いつまでだと? そんなの決まっている。


「お前を倒すまでだぁ!」


『スキル熟練度レベルアップ:偉人の型(魔法剣士)熟練度1』


 偉人の型の熟練度が上がる。

 熟練度が上がった事により魔法剣の攻撃力が上がる。

 今までと同じ一振りでも風を切る音が変わった。


「ここに来てまだ成長するか」


「黙れ! お前だけは倒す!」


 カルロスはどうやらこの土壇場で成長したと勘違いしているみたいだ。正確には熟練度が上がっただけである。ただ客観的に見ればそう見えるのだろう。残った最後の一滴まで力を絞り尽くす。そんなこちらの猛攻をカルロスは落ち着いて対処してくる。


 魔法剣で猛攻をしている内にMPゲージが七割まで回復する。

 そして、勝負に出るならカルロスが油断している今だと判断し魔法を発動する。


 魔法剣が赤く光り輝いた瞬間、心臓に痛みを覚える。

 心臓を見ると、魔法を発動するタイミングで出来たほんの一瞬を狙いカルロスが剣を突き刺してきた。

 そのまま剣を抜き、倒れる蓮心を見下ろす。


「哀れだな。魔法発動の為に俺から意識を外すとは。死ね」


 そして勝負あったと言いたいのか、カルロスがマリアとユリアがいる方向に振り向き歩いて行く。地べたに寝転がりながらマリアとユリアを見ると二人が怯えた表情でカルロスを見ていた。


「ま…てぇ、しょ…ぶは……まだ終わってない……」


 僅かに残ったHPゲージが減少し零に向かっていく。動きたくても身体が言う事を聞いてくれない。


 このままじゃ……マリアが救われない……。

 それに俺のたわわ願望も……。


 そのまま、激痛と大量出血によって意識を失ってしまった。

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