第8話 通行人Aですが? なにか?
翌日の朝、窓から入ってくる眩しい光と涼しい風を感じながら目を覚ました。ベッドから起き上がり大きく背伸びをする。そのまま立ち上がり部屋を出て昨日と同じくロビーで朝ご飯を食べる事にする。ロビーに行くと人が集まり騒がしかった。
「ん? 喧嘩か何か?」
何の集まりかが気にはなったがこの世界に来たばかりで無知な蓮心には見ても分からないと判断して、カウンター席に腰を掛け料理を頼む事にする。メニューを何にするか悩んでいるとカウンターにいる人が話し掛けてきた。メニュー表を見ていた顔をあげるとエルフを連想させるような緑色の長い髪に長い耳、とても美しく若々しい外見を持った女性だった。この世界本当に人間以外もいるんだな。ん? そう言えば緑色のドラゴンとかもいたか。よくよく思い出して見たら街には魔女とかもいた。まだこの世界に慣れていないせいかどうも人間以外が街の中にいる事に違和感を覚えてしまう。
「ねぇ、君? メニュー表を見る前にユリアを助けてあげなくていいの?」
「うん……えっ?」
予期せぬ言葉に驚いてしまった。
ユリアを助ける……一体どうゆう意味だ?
「あれよ」
エルフの女性が指指した方向を見る。
先ほど気になった集団が視界に入ってくる。
そして周囲を見渡す。
何となくだがエルフが言いたい事が分かった。
「そう言えばユリアが見当たりませんね。もしかしてあの中に?」
エルフが頷く。
「残念ながら俺には力がありません。ってかあれは、そもそも何の騒ぎなんですか?」
「少し前にカルロスが此処に来てね。昨日、城壁を破壊した男を出せってね」
城壁を破壊した……全く記憶にないが。
あれは破壊したではなく偶然にも破壊してしまっただけだ。
もっと言えば巨大な岩がぶつかって脆い城壁が勝手に壊れただけ……ってことにしておきたいのだが。
蓮心の困惑した顔を見てエルフが説明する。
「カルロスはとても正義感が強いの。それで昨日城壁を破壊した転生者の噂を聞いて此処に来たみたいなの。ちなみに君の噂は今日の朝刊で皆知っているわ」
ここでようやくエルフの言いたい事が理解出来た。そして、蓮心が手に持っていたメニュー表を取り上げて変わりに朝刊を差し出す。朝刊を見ると何と記事の一面に昨日検問で起きた出来事がスクープとして取り上げられていた。ある意味、この世界に来て僅か二日目にしてちょっとした有名人になった。わぁ~、俺すご~い早くも有名人じゃん……悪い方の。
「後、嫉妬深いわ。何でも君はマリアによって違う世界から呼ばれたのでしょう?」
「はい」
つまり、カルロスの正義と嫉妬の二つが蓮心に向けられたと言う事だ。
まさか向こうから来るとは思いにもよらなかった。やはり異世界は異世界でもゲームやアニメ、物語見たくこちらの都合では中々動いてくれないらしい。
ため息を吐きながら席を立ち人混みの方に向かって歩く。
そのまま人混みをかき分けながら進むとユリアとカルロスが剣を持ち戦い語り合っていた。
カルロスは容姿が良く、少し細身でありながらも筋肉質な身体に金髪で短髪だった。指には金色の指輪を嵌めており、つい初対面でありながら、こいつイケメンでありながらお金まで持っているというのが第一印象だった。
男として嫉妬に値する人間だ。
「所属が無の転生者・転移者ならば最初に此処を通る。つまりは此処にいるんだろう?」
ここの宿はゲームで言う最初のチェックポイントみたいな感じに聞こえた。
現に蓮心もここの宿で寝泊まりをしている。
「だからいないと言ってる」
「ならば、何故俺が中に入る事をお前が拒否する?」
「マリアだけでなく罪のない人にまでお前が手を出そうとしているからだ」
どうやらユリアはエルフの言う通り蓮心を護る為に剣を手に持ち戦っているみたいだ。
二人はつば競り合いをしながら語り合っていた。
素人目から見た二人の戦いは少し見ただけでも凄く蓮心が間に入り仲裁出来る余地はなかった。スキルはチート級でもそのスキルを上手く使えるか使えないかは別の話しだった。例えるなら、いい鉄砲が打ち手を選ぶように身の丈にあった鉄砲を使わないと逆に自分まで傷つけてしまうアレ。
「罪のない人? 笑わせるな。城壁を破壊し強引に検問を突破した者に罪がないだと」
「そうだ! あれは検問兵が人の話しを信じなかったのがそもそもの原因! マリアは実際に別の世界からお前とは違う者を呼んでいる!」
「嘘だ。マリアには俺がいる。そもそも呼ぶ必要がない!」
カルロスの言葉を聞く限りまだ蓮心がマリアによってこの世界に来たことを知らないと見える。恐らく別の誰かによって蓮心がこの世界に来たと思っているのだろう。もしかして、こいつ朝刊をしっかりと見てないのか。
剣と剣が激しくぶつかり合う度に聞きなれない金属音が響いて聞こえてくる。
それも一度だけでなく何度も何度も。
正直……耳が痛い。
「まだわからないのか! お前のせいでマリアは一人になったんだ!」
「黙れ! お前達ではマリアを護れない。マリアを護り幸せに出来るのは俺だけだ!」
恋は人を盲目にするとはよく言ったものだ。
「話しが通じない奴だ」
「もういい。お前にはもう一度地獄を見せてやる!」
カルロスの動きが速くなる。
「来い。こちらも本気で行く。今度は負けない!」
ユリアの動きも速くなる。
『スキル獲得:剣豪の型(剣士)』
これは昨日フレンドになったユリアのスキル。
何故か戦いを見て模倣出来たのはユリアのスキルだけだった。
二人が本気になった。
それに合わせて周囲が盛り上がり煩くなる。
すると、蓮心の肩に誰かの手が振れる。
振り返ると先ほどカウンターにいたエルフがそこにはいた。
「助けないの?」
「いや、助けたいのは助けたいですが……無理です」
二人の激しい戦いに目を向け答える。
「ユリアは十分しか本気で戦えないの知ってる?」
「はい」
エルフも二人の戦いを見ながら呟く。
「このままではいずれ負ける。前回カルロスに負けた時にユリアは心臓に一生残るダメージを受けたわ。今回負けたらユリアがどうなるか……」
「どうなるんですか?」
エルフはまるで我が子を見守るように心配そうな顔をしてユリアを見ていた。
「もう剣を持てなくなるかもしれないわね。カルロスはユリアと同じく「ランク:Aランク」の剣士。剣の世界では生きるか死ぬしかないのよ」
そもそも、実力差が違いすぎる。そんな人間がどうやってユリアを助ければいいんだ。下手をしなくても自分が死ぬ確率が高過ぎる。
「でも……」
「これをあげるわ」
そこには蓮心が持っている剣とは違いユリアとカルロスが持っているような立派な剣がエルフの手に合った。剣を見ると視界にウインドウが出現する。
『魔法剣:魔法剣士のみ装備可能。ランク:Aランク』
「ユリアがマリアから預かったと言っていたわ。恐らく君に渡すつもりだったみたいね」
「マリアが?」
マリアとユリアはもしかして蓮心がこの世界で色々と困らないようにカルロスの目を盗んで準備をしてくれていたのかもしれない。むしろ、今がそうだ。確信はない。ただこの魔法剣とエルフの言葉を聞いているとそんな気がした。
エルフの持っている剣を手に持つ。
『武器獲得:魔法剣』
そして、
『スキル発動:剣豪の型使用しますか?(MP消費なし) YES/NO』
『武器:魔法剣を装備しますか? YES/NO』
全てYESだ。
剣豪の型で本当にカルロスに勝てるとは思わない。だけど、蓮心の為にここまで頑張ってくれているユリアを見捨てるには人としてどうかと思った。昨日自身に誓った事を思い出す。
後は俺が何とかしてやる。
ユリアが態勢を崩した隙をカルロスが剣を振り上げ攻める。
その一撃をユリアが躱すタイミングで走り、ユリアとカルロスの間に入る。
「誰だ?」
「ただの通りすがりだ」
カルロスが蓮心を見て警戒態勢に入った。
視界に戦闘区域突入と言う画面が表示される。
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