第5話 イージーORハード


 色々と大変な目に合いながらもローズ街に着いた。視界の右上に表示された任務開始までの時間が残り五十時間となっていた。どうやらあれから色々とやっている間に二時間も過ぎていたらしい。MAPを見て早速マリアに合流する事にした。しかし街の何処にいるかまでは流石に分からないらしく赤い点がローズ街の上で赤い点が点滅しているだけで変化がなかった。


「仕方がない。とりあえず宿を探してゆっくりするか。それで明日から色々と調べるか」


 初めての魔法発動に剣での戦闘何より初めての異世界転移に疲れたのでとりあえず今日は休む事に決めた。宿を探しながら街の中を巡回する。街の中はとても賑やかで人間以外にもエルフやドワーフ、魔女……と色々な者がいた。せっかくなので迷子にならないように気を付けながら街の景色を楽しむ。


 しばらく歩き市場まで到着する。

 市場には蓮心の居た世界と同じように沢山の物が売られていた。見たことがない物も幾つか合ったが基本的に食べ物は一緒らしい。本当に良かった。もしこれでグロい物とかを皆が食べていたらどうしようかと悩む所だった。市場を抜けるとすぐに異世界からの方でも歓迎と書かれた看板を見つける。これは奇跡と言っていいのかそこには所属無のプレイヤーが数人ばかりだったが居た。しかも吹き抜けになっているロビーの奥は宿の受付となっていた。一泊「2000ギルド」これが高いか安いかは分からなかったがドラゴンとコウモリを倒した今の蓮心からしたら十分に払える金額だった。


 早速、中に入り受付に行き宿の手続きに入る。とりあえず任務開始時間までを考えて二泊にした。お金は前払いらしく受付のお姉さんの話しを聞きながら視界に出てくるウインドウを操作し料金精算を終わらす。


 鍵を受け取り早速部屋に行ってみる。


「お~意外に広いじゃないか」


 思っていたより広くとても解放感がある部屋だった。これで一泊2000ギルドは正直安いと思ってしまった。窓を開け部屋の空気を新鮮な物に入れ替える。窓から見える街の景色を見ながら先ほど獲得した理不尽な怒りの効果について詳しく見てみる事にする。


『スキル:理不尽な怒り』は自身のMPゲージと引き換えに自身の能力を全て向上させるらしい。スキルを使っている間一定のMPを常に消費し、MPがなくなると効力が切れる事が分かった。あの時その場の勢いで理不尽な怒りを使ってもMPがほとんどなかったからあまり効果がなかったのか。


 今日はこれ以上する事もないので窓から見える街並みを見て息抜きをする事にした。マリアの件と言いこの世界について調べてみたりと本当はするべきことがあるが今は疲れたのでしたくないと言うのが本音。


 とりあえず情報収集の意味も込めて一旦部屋を出てロビーで少し早い夜ご飯を食べる事にする。料理は全品500ギルドとつい親近感が湧いてしまうお手頃価格だった。メニューも豊富で色々と悩んだがハンバーグ定食を頼んだ。すると、数分でウエイトレスが料理を持ってやって来た。


「お待たせしました」


「ありがとうございます」


 そのまま持ってきて貰ったハンバーグ定食を食べながら自分と同じ所属が無で転生者・転移者の話しをさり気なく聞いていると少し興味深い事が聞こえてきた。それは中年の男二人の会話だった。


「おい聞いたか。俺達と同じ転生者の一人が女神マリア様に一目惚れして求婚したらOK貰えたってよ」


「あぁ。聞いたぜ。でもあれだろ?」


「ん?」


「噂では転生者が女神マリア様の仲間を倒して力付くってなってるぜ?」


「マジで?」


「あぁ。でもその転生者、元居た世界ではとても誠実で真面目だったらしいぜ。でも女神の美貌に惑わされて豹変したらしい。何でも女神マリア様が自分で転生させたらしくその責任を取って渋々出しいぜ」


「女が絡むと人間変わるんだな」


「そうだな。それにまだ二人共若いしな」


 ちょっと待て。どうゆう事だ?

 一旦食べる手を止めて冷静になって考えて見る事にする。

 マリアの言っていた事と検問にいた兵士達そして今の男達が言っていた事を合わせると答えが一つしか出てこなかった。これはカルロスがただ一人暴走しているだけでその後始末に俺が選ばれたと言う事ではないのか?


 そう思うと、ついため息が出た。


 確かにマリアはとても美人で顔だちも整っていてスタイルも良い。我が儘で面倒くさがり屋と言う面を知らなければ正に完璧美女だ。

 とりあえずこれで明日やるべきことは決まった。

 第三目標は「女神を見つけ出しまずは女神を問い詰める」から「もう少しカルロスについて調べる」に変更だ。


「あの~お客様料理が口に合いませんでしたか?」


「えっ?」


 突然聞こえて来た声に驚く。

 気づけば料理を持ってきてくれたウエイトレスが困った表情をして蓮心の顔を覗き込むように見ていた。


「いえ、さっきまで食べていた手を止めてため息を吐いておられましたので……」


 困った表情でウエイトレスが答えた。

 どうやら蓮心が先ほどため息をついた理由(ワケ)を勘違いしているみたいだ。

 正直言って料理は美味しかった。なので文句はなかった。


「そんな事ないです。美味しく食べさせてもらってますので気にしないで下さい」


 蓮心は誤解を与えた事に申し訳なく思い会釈をしながら答えた。


「なら何でため息を?」


「あの人達が聞いている話しを聞いてついですね」


 今もマリアとカルロスの話しをしている二人をチラ見する。

 蓮心の視線の先をウエイトレスが見る。


「もしかしてマリアをご存知なのですか?」


「……はい、一応」


 ウエイトレスが考える素振りを見せる。


「もしかしてマリアが言っていた人物は貴方? 失礼ですがお名前をお伺いしてもいいですか?」


「蓮心です」


「わかりました。蓮心さん後で部屋にお伺いいたします」


 ウエイトレスは一方的に告げると仕事に戻っていく。銀色のロングヘアーにスタイルが良くお姉さん雰囲気のウエイトレスの事を蓮心は知らない。しかしあの様子からして向こうは何か知っている気がした。


 まぁ、慌てても仕方がないのとまずは情報が欲しいと言う面に関しては全てが上手く行き過ぎている気もしなくもないがここは流されておくことにする。まぁ、転生系の物語だと主人公が最初からチート有りのイージモードか主人公が最初は何もないハードモードかの違いで蓮心は前者だった。これがゲーム、もしくは転生系の物語だとしたらストーリーが進むと言った面では何も違和感がなかった。


 そして、チート有りの主人公は大抵最後の方で能力がいきなり使えなくなり苦労するとか言うお決まりのパターンが定番である。そうならない為にも今出来る事は極力しっかりとしておくことにした。アニメとゲームから得た知識がまさか役に立つとは思いにもよらなかった。

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