第3話 マイペースに進む者
急いでも仕方がないのでとりあえず歩いて街に向かう事にする。よくよく考えたら夢の中で来ていた服装のままで武器になる物は何一つ持っていなかった。歩きながら周囲を見渡すが武器になりそうな物は落ちていなかった。
勿論、アイテムもなかった。
定期的にマップで現在地を確認しながら街に向かっていると三人の騎士らしき人達が馬に乗り颯爽と駆けていった。馬がいると便利が良さそうだと思いながら見ていると騎士の前に羽が生えたトカゲが出現する。よく見ると敵のHPゲージとMPゲージ。それと名前らしきものがトカゲの頭上に出現していた。
画面が戦闘画面に切り替わる。
どうやら戦闘区域にいると判断されたらしい。しかし戦える力もなければ武器すらないのでとりあえず眺めておくことにする。
三人の騎士が連携を取り「緑のドラゴン(下位)」というドラゴンに攻撃をしていく。一瞬トカゲかと思ったが違った。
『スキル発動:連続切りを模倣しますか? YES/NO』
「?????」
とりあえずYESを選択する。
『スキル獲得:連続切り』
『スキル発動:一閃を模倣しますか? YES/NO』
『スキル発動:縦切りを模倣しますか? YES/NO』
『スキル発動:横切りを模倣しますか? YES/NO』
更にウインドウが沢山出るので全てYESを選択。途中から面倒になり連打をしていた。内容は後から確認する。恐らく戦闘区域にいた事で騎士の攻撃、魔法をどうやら無意識に模倣したらしい。少し気になる事も合ったがまぁ良しとする。
何でドラゴンが口から炎を吐く『スキル:火炎』を模倣出来たのかが良く分からなかった。流石に口から炎を吐く、想像しただけで人の域を超えていた。
のんびりとログで習得したスキルを確認していると三人のHPがドラゴンの範囲攻撃によって零になった。そして死体となった騎士と馬が消滅する。三人の命と引き換えに死んだら蘇生は不可能と言う事を学べた。
すると、ドラゴンがこちらに向かってくる。
しまった……戦闘区域にいるんだった。
一瞬ゲームでよくある「逃げる」を実行したかったが走って逃げられる相手ではない。仕方がないので半分程しかない貴重なMPを使いこの場を乗り切る事にする。
「スキル一覧:一閃、縦切り、横切り、連続切り、ブレス、咆哮、威嚇、火炎……」
どれもパッとしないなと考えて目でスクロールしているとある魔法が目に止まる。とりあえず凝視する。魔法の発動何て生まれて一度もしたことがなかったが何とかなった。MPゲージが半分まで減る。そして、大きな翼を使い上空から蓮心を見下ろすドラゴンの更に上に隕石が出現する。
『スキル発動:隕石召喚』
『連続スキル発動:隕石誘導使用しますか? YES/NO』
勿論YESだ。
すると、隕石が蓮心の頭でイメージされた通りに動く。
これは何て便利がいいのだと思いつつも、慌てて隕石を見て逃げようとするドラゴンを目で追いかける。ドラゴンと隕石の追いかけっこはドラゴンの負けと言う形で勝負が付いた。隕石が脳天に直撃した事によりドラゴンのHPゲージが一撃で零になったためだ。
視界に『緑のドラゴン(下位)撃破。報酬獲得』とウインドウが出現する。
報酬は『15000ギルド』『竜の剣』『竜の爪(下位)』『竜の鱗(下位)』『竜の翼(下位)』『竜の角』だった。
早速剣を装備しようと思ったが持って歩くには重たそうなのでとりあえずアイテムBOXの中で保管しておくことにした。「職業:魔法剣士」と言う事もあり何となくだが魔法と剣関係のスキルは獲得出来るのだと仮説を立てる。
ドラゴンを倒した事により、先ほどまで視界中央上に表示された「戦闘区域」と言う文字がなくなっていた。
これで街に行ける。
そう思い再びマイペースに止めていた足を動かし街に向かう。MAPで確認しながら最短ルートで向かっていると今度はコウモリの大群に遭遇する。今の時刻はまだお昼過ぎだったがどうやらこの世界では関係ないらしい。一瞬迂回しようかと考えたがそれはそれで面倒なのでなぎ倒す事にする。
コウモリの大群は全部で百二十匹らしい。戦闘区域突入と言う画面と一緒に名前と数が出現した。名前はそのまま「コウモリの大群(百二十匹)」だった。
コウモリが一斉に鳴いた事により頭が割れそうになる。
『スキル発動:超音波を模倣しますか? YES/NO』
YESを選択したが今は模倣している場合ではない。
『スキル発動:鳴き声を模倣しますか? YES/NO』
もうYESでいいから。
蓮心は割れそうになる頭を必死に抑え、スキル一覧からスキルを選択する。
さっきみたいに隕石を出現させて操作すると言った余力は当然なかった。
『スキル発動:火炎』
いきなり吐き気に似た何かに蓮心が我慢できずに吐くと口から炎が勢いよく出てきた。そして集団でまとまって飛んでいたコウモリを全て燃やした。コウモリのHPが少なくて助かった。しかしこちらの残りMPゲージが更に減ってしまった。
この先、大丈夫か少しばかり不安になった。
視界に『コウモリの大群(百二十匹)撃破。報酬獲得』とウインドウが出現する。
報酬は『4000ギルド』『コウモリの爪(下位)』『コウモリの翼(下位)』『コウモリの翼膜(下位)』だった。
どうやら倒した敵によって報酬が変わるらしい。
視界中央上に表示された「戦闘区域」と言う文字がなくなる。二回の戦闘により何となくでは合ったがかなりコツを掴んできた。ただ問題は今の戦闘でMPゲージが一割程度しか残っていない事だった。
とりあえず歩きながらヘルプを見る。
MPは戦闘による通常攻撃、通常防御もしくはアイテムを使う事で回復できる事がわかった。後は寝ても回復するらしい。HPはアイテムを使うかもしくは自動回復で地道に回復するのを待つのが王道らしい。それ以上の事はヘルプを見ただけでは分からなかった。
今までゲームのヘルプ等見た事がなかったが生まれて初めてヘルプの必要性を感じた。流石に自身の命が掛かって来ると無知って本当に怖い物だと実感出来る。
流石に野宿はしたくないので駆け足で街に向かう事にした。説明し忘れていたが蓮心が向かう街はローズ街と言う名前だ。駆け足で走っていると現実世界と同じく少し疲れてきた。しかし、気付けば夕暮れとなっていた。このまま日が沈むとちょっと怖いのでマラソンの感覚で走り続けた。
しばらく走り続けているとローズ街の外壁と検問らしき物が見えて来た。一旦立ち止まり遠目でよく見ると、どうやら検問らしき物ではなく検問だった。やましい事は何もないがこの世界に転移してきたばかりの蓮心には身分を証明する物がなかった。
「さてどうするかな?」
意味はないが声に出して自分に言い聞かせてみる。まだ日が沈むまでは時間があったがどう考えても身分を証明出来ない異世界人と言う枠組みから脱出する方法が見つからなかった。気付けば二回の戦闘で少し減ったHPゲージが最大まで回復していた。超音波でもHPが僅かにだがHPゲージを削られた時は少し焦ったが大したことなかったので別に気にはしていなかった。そもそも気にする余裕があの時はなかったと正直に言っておく。命の危険があると言うわけではなかったが何とか野宿を回避したい蓮心は渋々検問に向かって歩き始める。
蓮心を見て検問にいた兵士がこちらに向かって歩いてくる。
どうやら警戒されているらしい。
まだ何もしてない、言ってない状況で何故警戒されているのかが良く分からなかった。兵士は三人組でその中に一人偉そうな奴がいた。残りの二人は偉そうな奴に比べると派手さがなく地味な服装だった。
「おい、そこのお前止まれ」
蓮心は言われた通り歩く事を止めその場で立ち止まる。
兵士二人が腰に携えた剣を抜刀し蓮心に向ける。
「何故お前は何処にも所属していない?」
兵士の問いかけに蓮心が悩む。下手に答えると命に関わりそうなので視線を動かしヘルプを見る。知らない世界ではリスクコントロールが重要である。それさえしっかりとしていれば最悪な展開は避けられると信じていた。
根拠はただの勘と全くないが……。
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