第2話 これはチートと呼ばれるものでは


 夢の世界から異世界に来た。そもそも夢の中だから現実じゃない? いやこれは夢なのか? もうわけがわからなかった。

 蓮心が周囲を見渡すと辺り一帯が草原だった。

 春の草原に近く太陽の光が気持ち良く、肌に触れる風が気持ち良かった。

 自分の身体を何となくで触ってみる。少し茶色くとげとげした短髪に細めの身体だった。鏡がないので全身が分からないが見える範囲から推測して外見は外の世界と変わらないままな気がした。よく見ると視界の左上に緑色のゲージがありHPと書かれていた。その下にはオレンジ色のゲージがありMPと書かれていた。

 視界の右下には『メニュー』と呼ばれるアイコン。試しにタッチ(凝視)して見るとアイコンがタブに別れた。その内の一つに「ステータス」が合ったので確認する。


「職業:魔法剣士」「ランク:Eランク」「特殊攻撃、通常攻撃、魔力、スピード:Sランク、特殊防御、通常防御:Eランク」「所属:無」


 他にもランク分けされていたがとりあえず重要そうな能力はこんな感じだった。蓮心は確かに女神様ならぬ我が儘女神に平均的にと伝えた。その結果がこれだった。つまり全体的に見たら平均になるのだろうと思っていると突然本人が目の前に現れる。

 流石にこれでは能力に偏りがあり過ぎる。それ以前にこれでは攻撃最強、防御最弱の魔法剣士である。やる気以前に今から目の前にいる女神様に不意打ちを喰らわしてこの異世界生活に終止符を打つのも悪くないと思ってしまった。しかし、現実世界に戻れる保証がないので戻れる方法を見つけるもしくは聞き出すまでは大人しくしておく。


「ちゃんとこの世界に来れたんだ。良かったわね」


「どうゆう意味?」


『その前にさっきまで合った白い翼は何処に行ったの?』


 言葉の意味が分からない。

 蓮心をこの世界に連れて来たのはこの女神様のはず。


「知らないの?」


「知らない」


 逆に知っていたらそれはそれで怖い気がするが。


「異世界転生・転移の成功率が十%だって事。この世界じゃ有名よ」


「成程……はぁ?」


「急にどうしたの?」


 マリアが首を傾ける。


「じゃ、俺九割の確率で死んでいたかもしれないの?」


「うん」


 人様の命を本人の承諾なしに危険に晒す女神様には怒りしかなかった。運よく異世界転生出来たのは蓮心の日頃の行いがきっと良かったからだろう。一応そうゆう事にしておく。そうでもしてモチベーションを最低限維持しないとダメな気がしたから。


 視界に新しくウインドウが出現する。


 内容は『女神:マリアからフレンドに誘われています』


 と書かれておりその下に『承認/非承認』と選択肢が表示されていた。

 何故か女神の文字色だけが他の文字とは色が違ったので凝視するとヘルプが勝手に表示された。


『女神:世界でも限られた者しかなれない最高位の職業の一つ』

 と、書かれていた。


 つまり蓮心の前にいる我が儘女神様はこの世界では皆の憧れの存在と言う事になる。蓮心はこの世界を哀れに思ってしまった。きっと、この世界は女神にする人物を間違えたのだとしか思えなかったからだ。


 さっきと同様に承認を凝視する。

 自身の名前とHPとMPの下にフレンド一覧と表示されそこにマリアのHPとMPが表示された。


「あら、確か剣士にしたはずなのに魔法剣士になってる。それと異世界召喚で能力は私が現状コントロール可能な範囲内にしたのに……どうなっているの?」


「それはこっちが聞きたいんだが。何で俺のステータス一撃でも喰らったら死んじゃうステータスなの?」


 流石に一撃では死なない気がするが少し大袈裟に言ってみる。


「わからない。私はとりあえず貴方の要望に応えて全てCランクとDランクにしたわよ?」


 蓮心が考える。つまり異世界転生の途中でマリアですらわからない何か偶発的な事故によってステータスが改変されたのだと。まぁ、それなら仕方がないと思ってステータスについては気にしないでおく。恐らく文句を言った所でどうしようも出来ないのだろう。それくらい何となくだがわかる。


「それで俺は何をすればいい?」


「私を助けて欲しいの。実は私ね結婚を申し込れているの」


「え? 年幾つ?」


「十八」


 まさかこんな頭の弱そうなマリアが蓮心と同い年だとは思わなかった。まぁ十八なら結婚しても問題がない年齢のはず……この世界ではどうかは知らない。そもそも結婚とは好きな者同士がする物である。


「ごめん。話しを戻して」


「うん。二日後カルロスって言う奴と結婚する。その結婚を貴方が止めて欲しいの?」


「どうやって?」


「決闘よ。ある日、私が強い人が好きって言ったらカルロスが私の仲間を次々と倒してね。それで私一人になっちゃったの。このままだと更に被害が大きくなると思って仕方なく結婚を受け入れたんだけど……」


「だけど?」


「やっぱり私結婚するなら優しくて頼りになる人と結婚したいの。それで誰か私を助けてくれそうな人を探してたのよ」


「どうして俺なんだ?」


「私だって馬鹿じゃない。異世界転生出来そうな人間が蓮心しかいなかったからよ。これでも適正はちゃんと見てる」


 まぁバカと言う事は否定出来ないがとりあえず事情は分かった。しかしこの世界での戦い方など知るわけがない。さてどうしたものかと考えていると今の所馬鹿にしか見えないマリアがいい事を言ってきた。


「この世界での戦い方わからないわよね?」


「うん」


 おっ! 馬鹿にしては気が利くじゃないか。馬鹿を改めて天然としておこう。


 さっきは「すまなかった」と心の中で謝る。


「なら私が結婚式終わる前に蓮心を迎えに来るから後は好きにしてていいよ」


 前言撤回。この感じてっきり戦い方を教えてくれるのかと思ったがどうやらそうじゃないみたいだ。面倒くさがり屋なのか蓮心自身で何とかするように言ってきたマリアに冷たい視線を向ける。


 よく分からないがマリアの相手をしていると懐かしくも妹の相手をさせられている気分になった。多分、妹とマリアの何処かに共通する部分が合るのだろう。


「待て! 俺を此処で一人にする気はないだろうな……」


 マリアが蓮心の言葉を聞かずに魔法を使い何処かに行ってしまう。


「あの野郎。それが人様に何かをお願いする態度か……。はぁ、文句を言っても仕方ないか」


 するとウインドウが出現した。


『スキル発動:空間魔法を模倣しますか? YES/NO』


「ん?」


 思わず言葉を漏らす。

 とりあえずYESを選択する。


『スキル獲得:空間魔法』


 空間魔法と言う文字を凝視してヘルプを見る。


「MPをかなり消費するが一度言った事がある場所に瞬時に移動できる。ただし、戦闘中は使えない。習得難度Sランク」


 つまりマリアは何処かに魔法を使い移動したことに気づく。そもそも俺いつスキル発動したの? と疑問に思いメニューにあるスキル一覧を開く。そこには『EX(エクストラ)固有スキル:模倣』と書かれていた。


 ヘルプを見ていくと一度でも見た事があるもしくは知識として正しく理解していれば相手の魔法をコピーできる。ただし模倣は通常スキルのみ(例外あり)有効。ただし一部フレンド・パーティーメンバーを除く」と書かれていた。


 もしやと思いそもそも魔法なのかと言う疑問は合ったが試して見る事にする。蓮心はマリアが使った隕石を操っていた姿を限りなく忠実に頭の中でイメージする。


『スキル発動:模倣失敗の為、類似魔法を生成。隕石召喚、隕石誘導を模倣しますか? YES/NO』


 勿論ここはYESを選択する。


『スキル獲得:隕石召喚』


『スキル獲得:隕石誘導』


 空間魔法の時と同じく文字を凝視してヘルプを見る。


「MPを消費し隕石を上空に出現させる。習得難度Aランク」


「MPを消費し隕石を操る。習得難度Aランク」


 あっ……これは俗に言うチート。

 そんな事を思いながらもまずはこの世界に慣れる事を第一の目標とする。


 とうとう何もする事がなくなり三日後まで何をするかなと考えていると視界に、

『緊急任務:女神マリアを救え』

 と、表示された。


 よく見ると下の方に『受託/非受託』と選択肢が表示されていた。成り行きとは言え嘘は良くないので承認を選択する。すると、任務開始までの時間が視界の右上に表示された。早速確認すると任務開始まで五十二時間となっていた。


 少しずつだがこの異世界についてわかってきた。

 この異世界は異世界と言うよりかは蓮心のいた世界で言うゲームの世界に近い感覚だった。さっき立てた第一目標をほんの数十秒でクリアしてしまった。

 しかし、そうと分かれば後はゲーム大好き人間からしたらやる事は一つ。まずはセーブポイントとなる近くの村じゃなくて安眠する為、近くの街に行く事にする。そもそも本当のゲームの中じゃないのでセーブと言う概念がない気がする。メニューからマップを開き近くの街が何処にあるのかを確認する。


 街がある場所に赤い点が点滅していた。

 もしやと思い赤い点を凝視。

 すると、赤い点の上に『フレンド:マリア』と表示された。

 つまりマリアは此処にいて街まで行けば再開できる。

 そうと分かれば第二の目標は無事に街に行くで決まり。

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