第4話原作


さて、俺たちはこれから、所属する不良チームの偵察に行くわけだが。


その前に少し、原作の内容を整理してみたいと思う。


とは言っても、俺は刊行されている全12巻のうち、6巻までしか読めていないから、これから起こる全てのことはわからない。


それでも、思い出せるだけ思い出してみようと思う。



まず生前俺が借りたヤンキー漫画、「獅子の牙」だが、これはの二部で構成されている。


現在編は、今俺がいる時間軸のストーリー。

1巻から6巻までに収録されている内容だ。


ここの部分は生前俺も目を通したため、しっかりと頭に入っている。


だが問題なのは、そのあとの展開。


だ。


未来編は現在編から10年後の話で、現在も連載が続いている内容だった。


キャラの入れ替わりが激しく、大変面白いと由良は言っていたが、実際はどうなのだろう。


内容を把握していない分、どう転ぶのかわからないのが不安だ。


…いや、今はそんなことを言っていても仕方がない。


話を戻そう。


「獅子の牙」は、ただ一括りにヤンキー漫画、と言っても、その中でもチーム同士の抗争を描いた場面が多い。


主人公、真瀬 幸助が住む場所には、五つの区とその区を仕切る、五つの愚連隊が存在する。


超巨大愚連隊、村雨百鬼隊むらさめひゃっきたいが取り仕切る〖村雨26区〗。


総長不明の謎の愚連隊、黒狐くろぎつねが勢力を伸ばす〖幽玄区〗。


反社会的勢力、十朱とあけ組の兄妹が仕切る愚連隊が縄張りとする、〖鳴神なるかみ区〗。


カルト教団、聖カロナス教団を後ろ盾とする愚連隊、dogmaがはこびる〖月詠ツクヨミ区〗。


そして、冷徹な双子の兄妹をトップとする、完璧な階級制度が構築された愚連隊、冬鷺ふゆさぎが仕切る〖斑雪はだれ区〗。


俺の記憶が正しければ、俺たちはこの後、村雨百鬼隊に入隊することになるだろう。


そして他チームとの抗争に巻き込まれながらも、友情や強さを深めていく、というのが、現時点で俺が把握している漫画の内容…なのだが。


「…」


俺は考える。

目の前で束ねた黒髪を揺らして歩く、礼二に目をやった。


「…ん?どうした、幸助?」


俺の視線に気づいたのだろうか。

彼はこちらに顔を向けると、にひっと白い歯を見せて笑ってみせた。


どこまでも無邪気に微笑む彼に、俺は「なんでもない」と返すと、礼二は怪訝な表情を浮かべながらも、再び前を向いて歩き出した。


…そう。

この現代編の内容には、少しばかり問題点があるのだ。


いや、内容、というと少し違うかもしれない。


わかりやすく言うなら、結末。

現代編のクライマックス、最後の抗争の結末だ。


現在編の最終抗争。


それは、〖幽玄区〗を仕切る黒狐と、〖村雨26区〗を仕切る村雨百鬼隊の抗争。


原作では、後に<幽鬼ゆうき大事変>と呼ばれる大規模な抗争だ。


そして。



-その抗争で、礼二は俺を、チームを裏切り、村雨百鬼隊の隊長を殺す。


そしてその直後、礼二は味方につけたはずの黒狐に用済みだと捨てられ、命を落とすのだ。



まったく予想のできない展開だろう。

俺も、当時は読んでいて頭が真っ白になった。

まさかこんな形で、推しが死ぬとは思わなかったのだ。


というのも、一之瀬 礼二というキャラには、とてつもなく暗い過去が裏付けされていた。


礼二は幼少期に、唯一信頼を寄せていた実兄を村雨百鬼隊の隊長、不破ふわ 輝良きらに殺されていたのだ。


殺された、というと少し語弊が生じるかもしれない。

不破が原因で亡くなったと言った方が正しいだろう。


つまるところ、礼二は不破を恨んでいたのだ。


礼二は先程から、所属チームの偵察に行こうと言っているが、あれも恐らく嘘だ。


原作の通りの流れなら、彼はもう既に黒狐の仲間入りを果たしている。


そして不破への復讐のために、また村雨百鬼隊のスパイとして、今から俺を百鬼隊へと誘導するはずだ。


…では、俺が今後、真っ先にやらなければいけないことは何か。


当然だ。





これしかないだろう。


方法は今のところ思いつかないが、とにかくやるしかない。


礼二を救うには、俺が踏ん張るしかないのだ。


「…」


ふと、彼を追う足を止めた。

遠ざかっていく相棒の背に向かって、俺は誓ってみせる。



-今度こそ、お前を人殺しなんかにさせない。


俺が、お前を救ってやる。



ぐっと拳を握り込み、決意を固める。


そして、一呼吸置いてから、俺は再び彼へと足を踏み出した。



彼の復讐の場、村雨百鬼隊のアジトは、すぐそこだ。





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