七賢者の災厄 -2-


***




 七賢者ななけんじゃが呼び集められていた。

 窓一つなく、蝋燭ろうそくのゆれる炎が唯一の燈火ともしび。閉鎖的で、仄暗い。静寂に蝋の滴る音がける。


 物がなくとも手狭な部屋、七賢者は互いに触れ合えるほどの距離に佇んでいる。扉上部には皇族を象徴する不死鳥の紋章の彫刻が威厳を放っている。瞳には、溶けそうに赤い宝石が埋め込まれ、炎を湛えている。



 もう何計なんけい何間なんかん立ち続けているだろう。


 七賢者は老体を労わって杖に寄りかかり、顔を半分覆っていたフードを払った。顔に霜雪そうせつの髪がかかる。瞳は正面の扉を見据え、自らを招いた皇帝を待っていた。



 不死鳥の周りには我等、七賢者が描かれている。神より授かりしエリビオはそれぞれを色に魅せる。


 皇帝の足音が聞こえた。大理石を打つ革靴はやがて部屋の前で止まった。


 扉が開け放たれる。空気が持っていかれて、蝋燭の炎が消えた。



 七賢者はひざまずく。白い革靴の爪先が外側へ向いて、低く唸らせた声が降った。


「其方等が賊臣ぞくしんとはな」


 普段の優しさは落剥らくはくし、恐怖と、憤怒ふんぬに塗り潰された声色。


 一瞬、思考が停止した。謀反むほん……誰が? 七賢者は思わず顔を見合わせる。


 やがて皇帝の断定的な物言いに、大罪の釘が全員に刺さっていると悟り、胸を痛めた。



「謀反なぞ……我等は皆、皇帝に忠誠を誓っております」


叛意はんいに気付かぬとでも思ったか」


 膝を突いたまま、七賢者は皇帝を仰ぐ。誰の声も届かない――冷酷で無慈悲な鉄の色。熱すぎるものは冷たいと感じると云う。変貌しきった皇帝の傍らで、宰相が目を伏せて続きを促していた。皇帝の腰で、宝飾ほうしょくがあしらわれた皇族の剣が覗く。



 空気がこごり、瓦解がかいした。


 そんな――。喉に張り付いた叫びが乾いて、吐き気を催す。


 剣は風を呼び、切っ先は迷うことなく滑り。皇帝の最も近くで跪いていた七賢者の一人の心臓が貫かれた。


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