167 第50話 Dの悲劇 25 【500年前の復讐13】
『ほう。我の
『アパーカレスよ。あの二人が王都から強く感じていたプレッシャーの正体だ。油断するな』
下方から急速に迫りくるバンバラとガンツ。
先制攻撃はバンバラから放たれた。
「
ゴウッ! ビュウッ! バリバリバリッ!
アパーカレスから見れば豆粒サイズのようなバンバラ。
しかしその豆粒から放たれた魔法は、豆粒らしからぬ極大魔法だ。それもそれぞれ属性が異なる魔法攻撃。
しかしそれらはアパーカレスを薄く覆う結界により遮られた。
「やはり通常魔法攻撃は通じないわ」
「全身に耐魔法結界を纏っているのか」
バンバラはアパーカレスの弱点属性を探ったのだが結果は何も得られなかった。
『無駄だ、人族の女よ。アパーカレスにはその程度の魔法など通用せぬ』
ガンツとバンバラがアパーカレスの頭と同じ高さまで来た時、アパーカレスの頭傍に浮いている男がそう言った。
ドラゴンの翼を広げ、邪気を放ち、
ガンツとバンバラは間近で一目見て、この男が屈強な竜族の戦士と理解した。
「あなた……
会話が可能な相手と知り、バンバラは男に話しかけた。
今は国王と
〈
バンバラに話しかけられ、ダゴンはアパーカレスの攻撃を制し応じた。
『いかにも絶門竜族のダゴンだ。そしてコイツはアパーカレス。人族と女神の使徒を殺す生まれた邪竜である』
「俺は人族の魔法剣士ガンツだ。やはり邪竜アパーカレスとおまえは繋がっていたんだな」
「同じく人族の大賢者バンバラ。人族だけでなく
『そうだ。おまえ達人族は今も昔も卑劣な手段で我ら追放竜族を皆殺しにした。そして中立であるはずの
ダゴンをそう言い放ったのち、一瞬視線を下げて眼下の国王達を睨んだ。
そして視線を戻した時には魔素を固定して練り上げた漆黒の大剣を握っていた。
ガンツとバンバラは、ダゴンが長く話をする気は無いらしい事を悟った。
「皆殺しだと? 一体なんのことだ。 そもそも皆殺しにされかけたのは俺達の方だろ! と言いつつ……
「罪を贖えですって? 被害者ぶっているけど、今も
ガンツはダゴンに向かって音速を超える剣閃波を飛ばし、バンバラはアパーカレスに向かって巨大な氷のミサイルを放つ!
しかしガンツの放った剣閃波はダゴンの黒剣一振りで相殺され、バンバラの放った氷のミサイルも命中直前で爆散した。
「「 ちっ 」」
忌々しそうに舌打ちするガンツとバンバラ。
『 ちっ 』
だが同様にダゴンも忌々しそうに舌打ちをする。ガンツとバンバラの言いぐさにカチンときたのだ。
ガンツとバンバラはコルト王国終末期に起きたとされる偽りの
幼少の頃から刷り込まれた歴史認識。活力の原動力。それを疑うという発想は彼らには無い。
ダゴンには今のやり取りでそれが見えてしまったのだ。
『なるほど。やはりおまえ達もそんな認識か。力は非凡でも、頭の中はそこいらの凡人と同じであるな』
非凡な力を持つ二人なら、もしかしたら
そんな期待をちょっぴりしたのだが、まるで何も察していない、何も疑っていない。何も知らされていない。そんな様子の言動にダゴンは悪い意味で納得する。(実際はガンツは何か違和感を感じているのだが)
そしてダゴンはガンツとバンバラの認識に嫌悪感を剥き出しにした。
『極めて不愉快なり!』
ゴウッ!
ダゴンがカッと目を見開いたと思うや否や、纏う
同時に
身体も二回りほど大柄になった。
邪竜族化したのだ!
『でええええええええええええええい!』
戦闘再開。
間合の遥か外から斬りかかるダゴン!
腕が蛇の胴体のようにグンと伸び、鞭のようにしなりながらバンバラの首を刎ねにかかる!
「させるか!」
ガンツはバンバラに迫る凶刃を
ガキンッ!
しかし力負けして二人して後方へ飛ばされた!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
そこへアパーカレスの
しかも今度の
大気が熱分解し、熱波に晒された地表は融解して辺り一面がテクタイト化する!
「ま、
バンバラは吹き飛ばされながら防御結界を展開。
しかし邪炎の勢いが加わり二人は結界ごと加速して遠くに吹き飛んだ。
「くそ、やつら強さのケタが違い過ぎる!」
「どうしよう。どうしたらいい!?」
敵との距離が開き、二人は攻撃手段を考える。
しかしアパーカレスはそんな時間を与えはしない!
『
ブンッ
突如アパーカレスの姿が揺らぎ消えた。
「消えた!?」
「どこ……はっ!」
突然二人の周囲が陰になる。
ハッとして上を向けば、瞬間移動で現れたアパーカレスの姿が直上にあった。
口からは紅蓮の炎を溢れさせている!
ゴアアアアアアアアアアアアアアッ!
地面に叩きつけるかのような
「ぐえっ!」
「ぎゃんっ!」
ガンツとバンバラまたしても結界ごと灼熱の邪炎に包まれる。
そして融解する地表に激しく叩きつけられた。
そこからさらに!
ズズーン!
二人はアパーカレスの巨大な
『ぬぅ?』
しかしアパーカレスの踵には二人を踏みつぶした感触が無い。
「い、今のは危なかったな」
「私の
ガンツとバンバラの姿はアパーカレスから百メートルほど離れ空中にあった。
二人は踏みつぶされる瞬間、吹き飛ばされる直前の位置に
「アパーカレスとか言う邪竜、あの巨体で瞬間移動できるのかよ」
「攻撃魔法も通用しないし、やはり勝てる気がしないわ」
刹那――
「はっ!」
「なに!」
またしても一瞬の陰り。ザワッと背筋が粟立つのを覚えるガンツとバンバラ。
『どこを見ている!』
黒き刀身が直上から二人を襲う!
「くっ、こいつも瞬間移動できるのかよ!」
ガキンッ ギュリンッ!
ガンツはダゴンの剣に刃を合せるも、「また飛ばされてはかなわん」とばかりに斬撃を受け流しバンバラを抱えて即行離脱!
そして離れざまにバンバラが大技を炸裂!
「
ダゴンとアパーカレスは巨大な積層型立体魔法陣に覆われ、マイナス273度の隔離結界に捕まった。
隔離結界内には無数に煌めく氷塵が浮遊し、その状況で爆裂魔法が内部炸裂。
粉塵爆破作用により桁違いに破壊力が増幅され、ゼロ距離発生の衝撃波がダゴンとアパーカレスを襲う!
ドゴゴゴゴゴーン!
「はぁ、はぁ、どう?
40メートルを超すアパーカレスを結界でまるまる包み、爆裂攻撃するなどという大魔法。流石のバンバラもゼーゼーと肩で息をし始めた。
並の魔獣なら原型をとどめる事も無く骨まで木端微塵にされ塵となる威力だが…………
『なかなか見事なものだ』
『だが
パンッ! と隔離結界が弾け飛び、全くの無傷でダゴンとアパーカレスが姿を現した。
「ちぇっ。なんとなくそんな気はしてたのよね」
舌を打ち毒づくバンバラ。
『やはりあの女、見た目とは違いかなり凄腕の賢者のようですな』
『男も随分場数を踏んでおるようだな。パワーは脅威ではないが、剣技・
ダゴンとアパーカレスはちょっと感心してガンツとバンバラを見た。
そして何か思いついてダゴンとアパーカレスは口を開く。
『女……バンバラと言ったか。選択の機会を与えてやる。このままここで死ぬか、アパーカレスに抱かれ眷属となるか、今すぐ選べ』
『ガンツよ、もう抵抗するな。そうすれば苦しまずに殺してやる。所詮おまえは剣士。そんなちっぽけな剣を振るう者に我は倒せぬ』
ガンツとバンバラは、バンバラがアパーカレスに抱かれる様をうっかり想像してしまった。
「なななな、何が抱かれろよ! そんな巨体に抱かれたら圧死しちゃうわ! だいたい私の大切な初めてを、異種姦で散らすものですか! この変態コンビ!」
「剣を振るう者には倒せないだと? やってみなくちゃわからねーだろ!」
ガンツは激しく怒り、バンバラは顔を青ざめてドン引きした。
一方ダゴンとアパーカレスは変態コンビ扱いされ非常に気分を害した。
『ならば死ぬがよい!』
『抵抗は無意味!』
ダゴンとアパーカレスの
「なんて邪気だ。だが死んでたまるか!」
「リットールを守る為に私はまだ死ねない! 意地でも抵抗してやるわ!」
ガンツとバンバラは絶望的な危険を察知してその場を飛びのいた。
「止まったら殺られるぞ!」
「高速で動いて翻弄するのよ!」
そして距離を置いて蠅のように高速移動。魔法剣による斬撃飛ばしと攻撃魔法を乱発した。
魔法剣、
魔法剣、
魔法剣、
魔法剣、
などなど。
豆粒のような二人から、超強力な魔法剣技と攻撃魔法が繰り出される。
しかし何一つ攻撃が通らない!
その上――
『
アパーカレスは弱体化の魔法を使った。
ガンツとバンバラの
「そんな! 〈
絶体の自信のあった〈
こうなったら二人に残された手段はただ一つ。
ガンツとバンバラはアイコンタクトを交わして態度を豹変させた。
「こりゃダメだ。勝負になんねえ。謝るから許してくれ!」」
「ね? まずは話し合いによる解決を……ねえダゴンさん。邪竜さま。私達きっと分かり合えると思うの!」
ここに来てガンツとバンバラは命乞い路線に変更?
桁外れの邪気にあてられ流石のガンツとバンバラも委縮したのか。
それとも弱体化してしまい臆したのか。
しかしダゴンとアパーカレスは不快な目つきで二人を睨みつけた。
『戯言を!』
『人族との話し合いなど不毛極まりない!』
ダゴンとアパーカレスは、二人が多少気になる相手だったが故に、少し探りながら戦っていた。
しかし力量も十分計ったと判断。さらに今の見苦しい【命乞い】を見て終わらすことにした。
一方ガンツとバンバラはチラリと下を見る。
「た、頼む! この女はどうなってもいいから俺だけは助けてくれ!」
「待って! この男の首を差し上げます。だから私だけは殺さないで!」
目に涙を浮かべ、必死で懇願するガンツとバンバラ。
『なんとも見苦しいマネを』
『少しはマトモかと思いましたが、人族とは所詮こんなものなのですな』
呆れるダゴンとアパーカレス。ほんの一瞬だが気が緩む。
その一瞬の気の緩みをガンツとバンバラは見逃さない!
「頼む! 見逃してくれーーーー! とかい言いつつ……時空魔法剣、
ズグンッ!
『うぐっ!?』
10Gにも及ぶ重力を伴う斬撃飛ばし!
自重の10倍に及ぶ重圧の斬撃波をくらい、巨大なアパーカレスの右肩がメキョリと少し凹む!
さらに!
「お願いです! 命だけは~~~~! とか言いつつ……時空魔法、
ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!
アパーカレスとダゴンの周りで時空爆破による空間断裂が発生!
空間断裂した箇所に触れたアパーカレスの体表が激しく弾ける!
これまで何をしても攻撃が通らなかったアパーカレスに初めて攻撃が通ったのだ。
『むおっ!?』
『時空系の魔法剣技と攻撃魔法か!』
時空系の攻撃魔法と魔法剣技は、使い方によっては真正勇者をも倒すことが出来る。
時空系剣技と時空系攻撃魔法の使い手は、この世界においては稀有な存在なのだ。
まさか時空系の攻撃までしてくるとは予想しておらず、さすがにサッと顔色を変えるダゴン。
すぐさま対抗処置を取りアパーカレスを守る。
『下がれアパーカレス!
ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイン
時空攻撃には時空防御を。
ダゴンとアパーカレスの前の空間がグニャリと歪み、バンバラの放った〈
「バンバラ、もういいぞ! 俺達も脱出だ!」
「て、
キュイイイイイイイイイン……
国王と
『まさか奴らが時空系の攻撃まで仕掛けて来るとは。力量を少々見誤ったわ。傷は平気か?』
ダゴンは心配そうにアパーカレスを気遣った。
『大丈夫です。時空系の攻撃とは言え、先に弱体化させましたからな。鱗が少し削られた程度です』
『そうか。それより今の奴らを見たか。あれが人族だ。奴らの言葉と態度は決して信じてはならぬ。必ず裏があるからな。気を付ける事だ。』
『まさか命乞いから一転、攻撃してくるとは思いませんでした』
ガンツとバンバラの演技バレバレな命乞いだったが、誕生して間もないアパーカレスには見抜けなかったようだ。
アパーカレスは人族の【
『それより国王を逃してしまいましたが』
『かまわん。どうせ国王には恐怖を植え付けて逃すツモリだったからな。後で国王がどんな選択をするのか楽しませて頂こう。さあ、
『御意』
ダゴンは新たに向かって来る二つの敵を感じながら、巨竜となったアパーカレスの頭に乗った。
アパーカレスは巨大な翼を広げ、リットール王都へ向かった。
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近況ノートに閑話有り
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