165 第50話 Dの悲劇 23 【500年前の復讐11】


◆リットール東部汚染地帯(ダゴンとアパーカレスの拠点)


「ふむ。王都に大きな力が集まったようだな」

「召喚勇者ですな。どうやら隣国からも集めたようです」

「いいぞ。思った通りの展開だ。アパーカレスよ、おまえも成長期にも入ったことだし、そろそろ行くぞ!」

「御意」


ダゴンと竜形態のアパーカレスは、リットール東部汚染地帯を出て、ゆっくりと陸路でリットールに向かい始めた。






◆リットール王国 王宮・謁見の間


「陛下、報告します。【リットール】【フェレング】【マハパワー】連合討伐部隊編成完了しました。また召喚勇者部隊は総勢21名となります」

「陛下、邪竜アパーカレスに動きがありました。リットール東部汚染地帯を出て、陸路にてこちらに向かっているとのことです」


二人の下士官がそれぞれ報告した。

国王は召喚勇者の数を聞いて満足げに笑みを浮かべた。

そしてアパーカレスが陸路で向かって来ると聞いて、「アパーカレスのことを過大評価していたかもしれない」と脅威度が揺らいでしまった。


「ふん。復活竜が尽き自ら動き出しおったか。しかも陸路じゃと? 空を飛ぶ事も出来ぬドラゴンなど、こちらから出向いて返り討ちにしてくれるわ!」


国王は連合討伐部隊に訓示をしたのち出撃を発令した。


キュイイイイイイイイイン……


発令と同時に宮廷魔術師が開いた立体魔法陣が形成され、巨大な空間の扉ディメンションゲートが開く。


「全部隊出陣せよ!」


リットール国王は戦馬車ウォーワゴン上から全部隊に進軍を命じた。

【リットール】【フェレング】【マハパワー】の三国より集めた召喚勇者は21名。

超破壊能力を誇る召喚勇者の遠距離飽和攻撃により一気に屠り去る作戦である。

さらには補完戦力として集められた三国連合軍は総勢約500名。全て遠距離攻撃に特化した精鋭だ。

召喚勇者21人などという圧倒的な戦力を有したことで、国王は此度の戦いを確実な勝ち戦と見据え、自ら部隊を率いることにしたのである。


またそれとは別に魔法剣士ガンツと大賢者バンバラの姿もあった。

二人は正規軍でも宮廷魔術師でもないが、復活竜撃退の功を認められ国王護衛隊キングガード最外周に組み込まれたのだ。


連合討伐部隊が空間の扉ディメンションゲートを潜った先。そこはアパーカレスとの彼我の距離30キロメートルの地点。


「急げ! アパーカレスよりも先に【ワグナーの丘】に着くのじゃ!」


国王は地の利を活かすべく丘陵地帯【ワグナーの丘】を目指す。

高地よりアパーカレスの頭を押さえるつもりなのである。

国王は行軍速度を速めた。


***


「なあバンバラ」

「なんですかガンツさん」


道中、国王が乗車する戦馬車ウォーワゴンを横目で護衛しながらガンツはバンバラに話しかけた。


「勝てると思うか?」

「うーん、勝手にイメージを膨らませてアパーカレスが災害級の邪竜かと思っていたんだけど……」

「けど?」

「正直アパーカレスの力がそれほど大きく感じられないの。召喚勇者は当然として、あれなら私とガンツさんでも勝ってしまうんじゃないかしら」


例えば災害級竜種相手にしたとして彼我の距離30キロメートルまで近づけば肌にビリビリと感じるものがあって当然。

しかしアパーカレスからはそのようなプレッシャーが全く感じられない。


「へー、大きく出たな。でも俺もそう思うぜ。舐めてかかるツモリはないが、アパーカレスあれは恐れる程の竜じゃない。復活竜を使役するのはちょいとやっかいだけどな」


ガンツもバンバラと同意見だった。

実際のところ、ガンツ・バンバラのコンビと比べて、アパーカレスは二人に力が及んでいない。

ガンツ・バンバラだけでなく、召喚勇者達による最大火力での遠距離飽和攻撃なら、なんの問題も無く消し飛ばせそうに思える。

そもそも本当に強敵なら、復活竜なんかをチマチマ嗾けたりしないで最初からアパーカレス本体が攻めて来るはずだ。

だからこそガンツとバンバラは思う。


「だからおかしいのよ」

「ああ。確かにおかしい」


邪竜アパーカレスが戦力差を理解出来ていないとは思えない。

邪竜とは言え、人語を話す以上は知竜ノーレッジドラゴンであるわけで、高度な知能を持つ知竜ノーレッジドラゴンが、負け確定の無謀な戦いを挑むとは思えないのである。

アパーカレスが来るのなら、せめて復活竜手駒が無くなる前に来たはずだ。


「やはり罠かな?」

「でも私の探知魔法には罠らしいものは何も感知しないわ。ただアパーカレスの傍に力を抑えている男が一人いるみたいね。むしろこの男の方が強そうだわ」

「もしかして真正勇者が見逃したダゴンとか言う絶門はぐれ竜族なのか?」

「かもしれないわね」


ダゴンが竜族より絶門された件は、すでに全世界の竜族に知れ渡っていた。

リットール王国諜報部はこの情報を掴んでおり、ダゴンの認識を古の破門追放竜族から絶門はぐれ竜族へと変えた。

そしてタイミング的にみてダゴンとアパーカレスは因果関係があると断定している。(ダゴンがアパーカレスの創造主であることまでは把握していない)


「それにしてもアパーカレスは結局何者なんだ?」

「大会議の最中に初めてアパーカレスが現れ宣戦布告したらしいけど……その内容については緘口令が敷かれているみたいだし」

「なんか世に知られては困る事があるんじゃねーか?」

「私達の認識が根底から覆されるような事でもあったとか?」


ガンツとバンバラがリットールのコアな部分に触れかけた時、背後から注意を受けた。


「おまえ達、雑談はそこまでだ。【ワグナーの丘】に着いたぞ。陣取りにかかれ!」


注意をしたのはかつて宮廷魔術師を殺害した王国騎士。今は国王護衛隊キングガード隊長に任命されている。

国王護衛隊キングガード隊長に命令され、ガンツとバンバラは陣営護衛ポジションに付いた。



扇状に広がる【ワグナーの丘】裏にそれぞれ部隊が配置される。

召喚勇者部隊が正面に集中配置。

左翼には補完部隊として三国連合軍リットール部隊250名。

右翼には同じく補完部隊として三国連合軍フェレング・マハパワー部隊250名。

最後方にはリットール国王と国王護衛隊キングガードが陣を取った。


やがて【ワグナーの丘】の下方、だだっ広い荒野にポツンとそれは現れた。


「邪竜アパーカレスを確認。距離、約4000メートル!」


観測兵より報告が飛ぶ。


「なんじゃアレは。想像と違って随分と小型のドラゴンではないか」


リットール国王は望遠鏡を除きながら素っ頓狂な声をあげた。

映像で見たアパーカレスはいかにも恐ろしい邪竜に相応しい迫力があったのだが、実物はちょっと強そうな魔獣程度の迫力しかなかったからだ。


「本当にあれがアパーカレスなのか?」


国王はコテリと首を傾げた。

二足歩行の漆黒のドラゴン。その体躯は頭の先から尻尾の先まで計っても7メートルほどしかない。

迫力に乏しく、なんなら先に戦った復活竜の方が強そうな感じさえする。

しかしそれは間違いなく邪竜アパーカレスであった。

そしてアパーカレスとともに進むフードローブに身を包む一人の男の姿も見えた。


「なんだよ。あんなトカゲの親玉みたいなのが敵の本体かよ」

「楽勝だな」

「あれなら俺一人でも倒せるぜ」

「へへへ、道中ビビッて損したぜ」


連合討伐部隊に一気に弛緩した空気が漂い始めた。

ヘラヘラと笑い出す者さえいる。


「むぅ、あれならフェレングとマハパワーに応援打診するのではなかったわ。余計な借りを作ってしまったわい」


国王はコンコンと自分の頭を小突きながら苦笑いする。

完全勝利を確信したようだ。

だが逆に警戒心を強める者もいた。


「おかしい、やはり妙だ」

「まさか偽物か幻影?」


ガンツとバンバラは顔をしかめた。

こちらが丘の裏で姿を隠しているとはいえ、いくらなんでもアパーカレスも気付いているはずだ。

しかしアパーカレスは警戒する様子も攻撃を仕掛ける素振りもなく、ゆっくりと向かって来る。

まるで『ここにいるから早く討ってくれ』と言わんばかりだ。





「距離2000メートル! 召喚勇者の有効射程距離に入りました!」


観測兵が報告する。


「もっと引きつけてからと思ったが、あんな小竜ならもういいだろう。召喚勇者部隊、一斉攻撃開始せよ!」


国王より攻撃開始の指令が下された!

21人の召喚勇者達は聖属の魔力を溜め、そして一斉に放った!


「「「「「おおおおおおおおおおお…………勇者の雷撃ライディーン!」」」」」


勇者必殺の雷撃魔法が炸裂!

天空から幾重もの雷が地表の一点に降り注ぐ!


ガラガラドッシャーン! ズゴゴゴゴゴゴーーーーン!


網膜が焼かれそうな雷光に景色がフラッシュアウトして何も見えなくなる!

勇者の雷撃ライディーンは間違いなく邪竜アパーカレスにヒットしたように思えたが、果たして結果は……


「ひょええええ、凄い迫力だわい。どうじゃアパーカレスの死体は確認できたか?」


国王は目を擦りながら周りの者に訊いた。


「衝撃による土埃つちぼこりが激しいため少しお待ちください!」


報告した観測兵の口調に緊張感は無い。

あの飽和雷撃の前に助かる可能性などあるわけがないと思っているようだ。


「なんと呆気ないものよ」

「楽勝にも程がある」

「これではただの弱い者いじめでござるな」


召喚勇者達も勝利を確信して雑談をしている。


「くそう、出番のないまま終了かよ!」

「まあまあ、楽できたからいいじゃねーか」

「さてと。帰る準備に入るか」


連合討伐部隊(補完戦力)500名も、それに国王護衛隊キングガードも、緊張感は全く無く勝利を確信していた。


そんな中、驚愕の表情をする者が二人。


「あの野郎、信じられねえ……」

「あの飽和雷撃に無傷だなんて……」


ガンツとバンバラは土埃つちぼこりを凝視しながら呟いた。

二人は国王のすぐ近くに移動し、


緊張してガードを固める。


「なんじゃおまえ達。勝手に持ち場を……うっ!?」


国王は小言を言いかけて固まった。

土埃つちぼこりは徐々に風に流され景色がクリアになる。

そしてそこには全く無傷な邪竜アパーカレスと邪竜族ダゴンの姿があった。


「邪竜アパーカレスは健在なり!」


観測兵は驚きの余り声を裏返して報告する。


「そんなバカな!?」

「もしかして的を外したんじゃないか!?」

「それだ! なんせ距離が遠かったからな!」


報告を聞き我が目で確認し、連合討伐部隊に動揺が走る。

そして的を外したと己に言い聞かした。


「邪竜アパーカレス。距離1000メートルまで接近!」

「召喚勇者部隊、いつでも撃てます!」


報告があがり国王は命令する。


「攻撃せよ!」


国王の号令と同時に召喚勇者が一斉に魔力を解放した。


「「「「「勇者の雷撃ライディーン!」」」」」


またしても天空から幾重もの雷が地表の一点に降り注ぐ!


ガラガラドッシャーン! ズゴゴゴゴゴゴーーーーン!


「今度こそやったか!?」


国王を始め連合討伐部隊は靄の掛かった着雷地点を凝視する。

やがて土埃は風に流され、先程と同じく全く無傷なアパーカレスとダゴンが姿を現した。


「ガンツさん、なにかおかしいわ」

「ああ。アパーカレスの力をビンビン感じるぜ。とんでもねえパワーだ!」

「なんで力を増したの!?」

「わからねぇ。それにパワーだけじゃねえ。奴の体躯をよく見ろ。二回り以上でかくなってやがる!」


ガンツの指摘した通り、アパーカレスの身体は大きくしかも強く変化していた。

その状況にガンツとバンバラはハッとして顔を見合わせた。


「まさか……アパーカレスは聖属の力を喰う!?」

「私達は召喚勇者という餌を集めてしまった!?」


二人はその結論に達し、改めてアパーカレスを見れば、アパーカレスは一瞬“にぃ”と笑みを浮かべた。

まるで『やっと気づいたか。愚かな人族どもよ』とでも言っているかのように。



「距離500メートル! 全部隊の射程距離に入りました」

「一斉攻撃! 補完部隊も攻撃を開始せよ!」


観測兵が報告し、国王の怒声の様な命令が飛ぶ!


「攻撃しては駄目!」

「アパーカレスに喰われるだけだ!」


ガンツとバンバラが悲鳴のような声で中止を求めるが声は届かなかった。


「「「「「勇者の雷斬ジゴブレイク!」」」」」

「「「「「爆裂魔法エクスプロージョン!」」」」」

「「「「「焼夷爆炎インデンデアリー!」」」」」

「「「「「火球ファイヤーボール!」」」」」

「「「「「光の魔弓フォトンアロー!」」」」」


全部隊による一斉撃ち方!


ズガガガガガ! ゴワッドゴゴゴゴゴーン!


地形が変わる程の超飽和攻撃!

先程までと違い、距離が近いため連合討伐部隊の間近まで土埃が舞い上がる。


「ぬううう、何も見えぬ。どうなった!?」


国王は口と鼻を手で抑えながら目を凝らす。


『グオオオオオオオオオオオオオオオ!』


同時にとんでもない音圧の咆哮が響き、土埃の靄が爆散するかのように割れた。

そして割れた靄から現れたのは、矮小な小竜アパーカレスではなく、威風堂々圧倒的なパワーと漆黒の巨躯を誇らしげに晒す邪竜アパーカレスの姿だった。




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