164 第50話 Dの悲劇 22 【500年前の復讐10】
~登場人物~
【ダゴン】
息子と娘それに仲間を殺され邪竜族に堕ちた。
【アパーカレス】
「対人族・対真正勇者」としてダゴンが作り出した基星幽体ホムンクルスの邪竜。
ダゴンの息子アークの亡骸をベースにして創造された。
竜型が基本だが人型にもトランスフォームする。
【ガンツ】
赤髪の中年魔法剣士。離婚歴有り。
聖属の力を持たないにもかかわらず、召喚勇者を上回る攻撃力を誇る。
【バンバラ】
この時代では最強クラスの大賢者。ケンツの時間軸である500年後の世界では、霊体の状態でケンツを唆し邪竜アパーカレスの討伐を押し付けた。
20歳の金髪美人。
【リットール国王】
200年前の大石棺異変の真実を知る王様。極悪人というわけではないが、国の為に真実を隠蔽し続ける。
◆リットール王都上空に到着したダゴンと邪竜アパーカレス。
「よし、アパーカレスよ。まずは人族に紛れて奴らの〔欲〕を喰らうのだ。特に〔邪な欲〕はおまえの力を大きく引き上げる。力が増大すればおまえが放つ邪気とデバフ効果で人族を蝕み始めるぞ」
「ハッ。命令ノママニ!」
邪竜アパーカレスは人間体となり地上に降りた。
ダゴンは、アパーカレスの姿が見えなくなるのを見届けてからリットール各領および近隣国に分割・割譲された旧コルト王国領の様子を見に行った。
◆さらに三か月後・リットール王宮 大会議室
「報告せよ」
リットール国王は神妙な顔で席上に並ぶ各大臣・官吏・諸侯・他に対して報告を促した。
誰が置いたかはわからないが、大テーブルの中央には装飾なのか水晶玉が置いてある。
「王都内に発生源不明の邪気を確認しました。濃度は薄いのですが、民の精神・身体に影響が出始めております」
まずは宰相から瘴気の報告がされた。
それに続き他の者も様々な不穏な報告があがる。
「リットール王都全域にて強盗・強姦など犯罪率が跳ね上がりました。邪気の影響と思われます」
「魔術師団に魔力の低下現象が確認されました。原因はわかりません」
「騎士団など戦闘職においても思ったように力が出せないようです」
「現在、国防・治安・経済ともに維持不可能なレベルにまでパフォーマンスが落ちています」
などなど。
リットール王国は邪竜アパーカレスの影響が出始めていた。
「うぬぬ。邪気じゃと? まさかこの前処刑した
「仕方ないでしょう。真正勇者には人族の事情など関係ありませんからな」
「陛下、それに例の復活竜の件ですが……」
唸る国王に報告は続く。
「王都以外においても謎の復活竜(化石から蘇った太古の恐竜)が出現。諸侯領地を高濃度瘴気で汚染しております」
「復活竜による被害はリットール国内に留まらず、マハパワー王国とフェレング緩衝国の旧コルト王国領土にも及んでいます」
「現在、リットールの召喚勇者を総動員して復活竜討伐に当たらせております。しかし復活竜は不死身であり状況は芳しくありません」
復活竜は邪竜アパーカレスが創り放った眷属竜だ。
ティラノサウルス型ティラノドラゴン、トリケラトプス型トリケラドラゴン、プテラノドン型プテラノドラゴン……など数多くの種類が存在する。
人の“欲”を
「むぅ、倒す手立ては何かないのか!」
「「「「…………」」」」
王が問うも誰からも良い返事は無い。
何しろ決戦兵器である召喚勇者を総動員しても倒せない相手なのだ。
復活竜を殺すには首を完全に斬り落として焼却すればいいのだが、この時点ではまだそれが分からなかった。
絶望感が場を支配する。
しかもさらに――
ゴゴゴッ
「な、なんじゃ? いま足元が揺れたぞ?」
地震を思わせるような揺れのあと、少しして凶報が舞い込んだ。
「も、申し上げます。ただいま王都内地面より復活竜が複数出現。濃い瘴気を放ち、王都内を汚染しはじめました。当番の騎士隊が応戦していますが全く歯が立ちません!……ぐふっ」
報告に来た王国騎士は、すでに瘴気に毒されていたのか報告をし終わるとその場で息絶えた。
「復活竜だと!?」
「この王都に!?」
突然の凶報に場がどよめく。
国王は大会議室の窓から外の様子を窺った。
王都の複数個所から瘴気による
「おお、リットールが汚されていく! 誰か! 誰でもいい! あの復活竜を倒せる者はいないのか!?」
「陛下、落ち着いて下さい! すぐ専門の討伐部隊の編成を……」
王都が急速に瘴気に包まれる様子を見て激しく狼狽する国王。
それをわちゃわちゃと諫める側近達。
『くくく……
ふいに暗雲が広がり辺りが暗くなり、恐ろしくドスの効いた低い声が大会議室に響いた。
「い、今のはなんじゃ? 一体誰の声じゃ!?」
驚く国王達を嘲笑いつつ、声は響き続ける。
『我は復讐の邪竜アパーカレス。人族に真実と絶望、そして滅びを与えるものなり』
“人の欲“を十分に取り込んだ邪竜アパーカレスは知力が上がり、流暢な言葉で話しを続ける。
「邪竜アパーカレスだと?」
「おい、声はあの水晶玉からするぞ」
「
面々はようやくこの部屋にあるはずのない
すでに王宮内には邪竜アパーカレスと関係を持ち、眷属となった女が複数いる。
そのうちの一人が設置したようだ。
『まずは貴様達の罪……200年前の惨劇をご覧頂こう。〈ドラゴ
水晶玉から大きく立体映像が投影された。
「なんだこの映像は?」
「あれは古のコルト王国軍ではないか?」
「英雄魔女パーラ・ヌース様らしき
「なんということだ。
「まさか、コルト王国軍とパーラ・ヌース様が虐殺行為を?」
「相手はどこの国だ? やはり
「モニュメントの映像と同じロケーションだが、人物の役割が全く違うぞ?」
映し出されたのは200年前にコルト王国軍と魔女パーラ・ヌースが
それを見せつけられてどよめく大会議室の面々。
その中で苦虫を嚙み潰したような顔をする男が一人。
国王である。
「ぐぬぬ……騙されるでないぞ、全て偽りじゃ!」
否定しているものの、真実を知る国王は一目見てそれが本当の出来事であることを悟った。
しかし絶対に認めるわけには行かない。歴史の捏造が公けになれば、リットール王国の正統性が壊れてしまう。
『ふふん。ぬかすなリットールの王よ。これはおまえ達人族が犯した卑劣極まりない虐殺行為ではないか。リットール全ての民が背負いし業だ! おまえ達の本質だ! そして200年経ってなお、おまえ達人族の本質は何も変わっておらぬ。その事は身をもって確認させて貰ったぞ』
アーク達が絞首刑台送りにされた記憶が脳裏にフラッシュバックして、アパーカレスは語気を強める。
『存在自体が絶対悪である人族よ。今度は貴様達が裁かれる番だ。有罪にして死刑! だがせめてもの情けだ。生きる者の務めとしてせいぜい抗ってみせよ! そして絶望に身を捩るがよい! ふはははははは!』
邪竜アパーカレスは最後に自分の恐ろしい姿を会議室一杯に映したのち映像が途切れた。
暗かった外の様子も元通りの明るさに戻る。
しかし復活竜達は相変わらず瘴気を履き続け暴れている。
「陛下、アパーカレスが見せた映像はなんなのですか」
「陛下!」
「陛下!」
「えーい、煩い! 全て邪竜の偽りじゃ! 今はそんな事より外の復活竜をなんとかせい! 早くしないと王都が瘴気に沈むぞ! あと地方に散った召喚勇者を呼び戻せ!」
国王はヒステリックに咆えた。
「ぎょ、御意!」
一番近い位置にいた宰相が返事をする。
そして騎士団長と宮廷魔術師長を連れ持って部屋から飛び出していった。
「他の者達も何をぼさっとしておる! さっさと情報を集めるなりして来い! あと誰が水晶玉を設置したか突き止めるのじゃ!」
「ははぁっ!」
国王に一喝され、他の
「邪竜アパーカレスじゃと? 200年前の大事変に関係しているのは間違いない。やはりこの前打ち漏らしたダゴンとか言う追放竜族なのか。いやまて、
国王は妖しい水晶玉を撤去させ、一人席に大会議室の席に座り頭を抱えた。
◆王都の街/復活竜と交戦中の騎士隊・魔術師団
王都に複数出没したのは全長9メートルはありそうなティラノサウルス型の復活竜。
討伐にあたる騎士隊と魔術師団は苦戦を強いられたいた。
「くそ、近づくこともままならん!」
「斬りつけても死なない。こんなのどうすりゃいいんだよ!」
「だいたい力が全く入らねえ! おまけに息も続かねえ!」
騎士隊は、皆一応に謎の脱力現象に襲われ全力で戦うことが出来ない。
おまけに瘴気を吸い込むと肺が爛れてしまうため皆息を止めて戦っているのだ。
「くそう。我々もダメだ!」
「魔法がまともに発動しない!」
「魔力を封じ込められているのか!」
魔術師団も同じで、爆炎魔法や雷撃魔法を放つもマッチの火と静電気程度の威力でしか放てない。
「もう駄目だ……」
「お終いだ……」
抗う事すらままならず、瞳が絶望色に染まりかけたその時!
「
ギュオオオオオオオオオオオ、ピキューーーーン!
突如、賢者衣装を纏う金髪の美女が乱入して支援系魔法が四重に放たれた!
〈
〈
〈
〈
「なんだ? 一体誰だ?」
「おお、力が漲る!」
「魔力も復活したぞ!」
驚く騎士隊と魔術師。
いったい何が起きたのかと見渡せば、さらにもう一人!
「おまえら下がってろ!」
今度は大剣を握りしめた赤髪の中年男が乱入!
騎士隊と魔術師達を下がらせて大ジャンプ!
「唸れ
ガラガラガラ! ズギャーーーン!
復活竜の直上より赤髪の男が放つ雷斬撃!
ギャーーーーーース! …………ズズーン…………
〈
だが攻撃はまだ終わらない!
「〈
ゴオオオオオオオオオオオ!
賢者衣装の女が放った爆炎が復活竜の亡骸を焼き尽くす!
一瞬にして逆転勝利!
「皆さん、もう大丈夫です。復活竜の倒し方がわかりました! 浄化魔法で復活竜は動きが鈍くなります!」
「その間に首を斬り落として焼却すればオッケーだぜ。教会に声がけしておいたから浄化魔法を使える神官達も間もなく到着する。反撃するぞ!」
加勢に来た二人に復活竜攻略法を告げられ、騎士隊と魔術師の目に闘志が戻る。
「感謝する。ところであなた達は一体?」
見慣れない二人に騎士隊と魔術師は訊ねる。
「ちっ、俺達まだまだ知名度が低いな。俺は魔法剣士ガンツ」
「私は大賢者バンバラ。まだ若輩者ですがどうぞお見知りおきを」
加勢に来たのは魔法剣士ガンツと大賢者バンバラ。
どちらかと言うと知名度の低い二人だったが、今日を境にどんどんと名をあげていく。
やがてその武勇は国王の耳に入ることとなる。
「よし、次行くぞ!」
「これ以上復活竜に好き勝手させないわ!」
ガンツとバンバラは踵を返し、次の復活竜討伐に向かった。
「よーし、俺達も続くぞ!」
「神官部隊と合流して反撃開始だ!」
闘志が戻った騎士隊と魔術師も方々討伐に散った。
………………………………
…………………………
……………………
………………
…………
……
それからさらに半月後――
「くそう。必死の思いで倒しても、次から次へと湧いてきやがる!」
「この戦い、いつまで続くんだ……」
ガンツとバンバラのおかげで復活竜の討伐方法はわかったものの、復活竜は討伐を上回る速度で現れ、王都の多くが瘴気に沈んだ。民は住処を奪われ、まだ無事な王宮周辺に避難を余儀なくされている。(王宮周辺は神官と召喚勇者により固く守られている)
またかつてコルト王国領だった近隣諸国の一部地区は復活竜が暴れたあと、アパーカレス自らが出向き
そして邪竜アパーカレスはアジトを大石棺近くにあるかつての我が家に移し、王都が瘴気に沈みゆく様子を望遠魔法で見ていた。
◆ダゴンの旧家
「人族もなかなかやるな。正直、復活竜相手にここまで粘るとは思わなかったぞ」
「それに
召喚勇者以外にも特異な強さを持つ者がおります。油断できません」
リットール国王は邪竜アパーカレスの居所を把握しており、何度となく討伐隊を送るもリットール東部特有の呪魔素に阻まれ進むことが出来ないでいる。
もちろんダゴンもアパーカレスも討伐隊に気付いている。
「ふむ、随分集まったな。しかし糧になる力を持つ者はいないようだ」
「それは残念。どれ、蹴散らしてまいりましょう」
アパーカレスは竜体に戻り、空から討伐隊を強襲。
〈
「やはり討伐隊の中に召喚勇者の姿はありませんでした」
「王宮回りの防衛に徹しておるのだろう。アパーカレスよ、少し手を休めてやれ」
「良いのですか?」
「かまわぬ。手を休めれば勝機と勘違いして勝手に動いてくれるさ」
「そのような事をせずとも私が出向いて王都を殲滅して御覧にいれましょうぞ」
「最初はそうしようと思っていたのだがな。しかしおまえも指摘した通り、特異な力を持つ人族が二人も確認されておる。彼奴等を相手にするにはまだ未成体のおまえでは力不足。だが心配するな、もうすぐ成長期にはいる。十分に糧を得ればそんなに時間はかからぬよ」
「御意」
アパーカレスはダゴンに言われた通り復活竜に攻撃を控えるよう念波を送った。
念波を受けた復活竜は意図的に倒されていき、やがて王都内に復活竜の姿が見えなくなった。
「よし、復活竜は全て討伐した!」
「今こそ勝機だ!」
「陛下、今こそ御裁断を!」
回りの声に促されるまでもなく国王はその気だ。
リットール王都を瘴気塗れにされ怒り心頭なのである。
「すぐ召喚勇者による特別部隊を編成せよ。あとマハパワーとフェレングにも応援を要請するのじゃ! 周辺各国の召喚勇者も集めて一気にケリをつけるぞ!」
リットール周辺国も邪竜アパーカレスの被害に会い、対岸の火事というわけではない。
リットール国王の要請はすんなりと受け入れられ各国の召喚勇者がリットールに集結した。
(近況報告に閑話予定有り)
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