161 第50話 Dの悲劇 19 【500年前の復讐07】
【前話までのあらすじ】
人族の暮らしぶりを偵察していたダゴン達だが、その間に子供達が行方不明になってしまった。
必死で子供達を探すダゴン達。
だがそのダゴン達に子供達が公開処刑されるという凶報が入った。
人物紹介
【ダゴン】
竜族の禁を破り人族の女と添い遂げた男。
人族の卑劣な裏切りにあい、妻を殺され自身も首を刎ねられた。
200年の眠りから目覚めるも竜族の能力は回復しきっていない。
【アークとカレン】
ダゴンの双子の子供達。14歳。
【トムズとバイアデン】
二人ともダゴン家の御近所さんの追放竜族。
共に妻と子供を人族に殺された。
【マークスとマイン】
ダゴン家の真向かいの御近所さん。
マークスは追放竜族。マインはマークスの娘でアークとカレンの幼馴染。
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◆リットール王都内(前々話からの続き)
『アークさん達の行方がわかりました。王都のコロッセオです! あの子達、処刑されてしまう!』
レイミアは子蛇を通してアーク、カレン、マリンの危機をダゴン達に知らせた。
「な、なんだと!」
「なぜ子供達が処刑されるんだ!」
ダゴンとマークスは突然の凶報にその目は大きく開き背筋がザワザワと粟立つ。
『早く! 急いで!』
「ああ……ああっ!」
ダゴン達四人は弾かれたようにコロッセオに向かった。
だが地を駆けていては間に合わないかもしれない。
「ダゴン、翼はまだ無理か!?」
「やってみる。ぬおおおおお!」
バサッ!
ダゴンの背が盛り上がり、服を突き破って竜翼が飛び出した。
「出た!」
「行くぞ!」
ダゴンは仲間とともに空に舞い上がった。
◆コロッセオ
コロッセオは鐘が鳴って間もないと言うのに観覧席は全て観客で埋まっていた。
この時代、公開処刑というのは民衆にとっては娯楽の一つだ。
公開処刑知らせの鐘が鳴るや、人々は嬉々として見物にいく。悪人が滅びる様をみてリるくなくカタルシスを得ることができるからだ。
ただそんな民衆とは別に、コロッセオ闘場外周にはリットール王国正規軍兵士が殺気を放ちながらダゴン達の襲来に備えていた。
アーク、カレン、マインは両手首を縛られ屈強な男性執行人達に両脇を抱えられ、引きずられるように絞首刑台上に立たされた。
三人はすでに自力で立てる余力はないようだ。
「罪状認否。罪状に同意するのであれば沈黙を持って返答とせよ」
アーク、カレン、マインの正体は、その場を取り仕切る女性執行官により説明された。
それから絞首刑を求刑される理由も。
~殺人罪、内乱罪、破壊活動、そして200年前の大石棺異変における贖罪~
真実ではなく、人族の歪んだ歴史に照らし合わされた歪んだ内容の詳細な説明だ。
(もっとも言い放つ女性執行官はそれを真実だと思っている)
「何しに今の世に湧いて出て来た!」
「よくも宮廷魔術師を殺したな!」
「穢れた混じりものを排除しろぉぉぉ!」
「邪悪な竜族と恥ずべき裏切り者の血を引く忌子め!」
「また人族を滅ぼそうというのか!」
そして説明を聞いた観衆達の罵声・怒声が地響きのように空気を震わす。
観衆一人一人がアーク、カレン、マインの死を願っているのだ。
「違う……俺達は……誰も……殺して……いない……過去の……出来事も……事実と違う……」
アークはか細い声で必死で反論しようとしたが、観衆の罵声にかき消されてしまった。
カレンとマインに至っては、意識がほとんど飛んでしまい反論など出来る状態ではない。
三人は沈黙したものと扱われ、死刑が確実なものとなった。
「ふむ。彼らの親は現れませんね。このまま子供達を見殺しにするつもりでしょうか?」
濃紺のローブに身を包む女性執行官は、周囲の様子に気を配りながらコテリと首を傾げた。
事前に国王よりダゴン達による罪人奪還の可能性を知らされていた女性執行官だったが、ダゴンらしき人物の報告は上がっていない。
女性執行官はアーク達三人に対して蔑みと同情の視線を投げかけた。それから観覧席のリットール国王に視線を向ける。
「死んでいても撒き餌にはなる。執行せよ!」
国王は厳しい表情で頷き、女性執行官に絞首刑執行を促した。
ゴーン……
低い音で鐘が鳴り、いよいよ死刑執行が執り行われる。
「暴れるなよ」
男性執行人は三人を抱えるのをやめ床に這いつくばらせた。そして上からぶら下がっているロープを意識朦朧なアーク、カレン、マインの首に掛けた。
「やめろ……カレンと……マインに……触れるな……」
アークは抵抗しようとしたが、身体の自由が全く効かず、呻く様に声を出すのが精いっぱいだ。
カレンとマインは意識が完全に飛んでしまいされるがままだ。ある意味恐怖を味わう事がないのは幸いなのかもしれないが……
三人の首に掛けられたロープのキリキリとリールが巻かれ、三人は再び強制的に絶たされる。
同時に、
ガタンッ
絞首台の床が開き、三人の身体がブラリと宙づりにされた。
刑は執行されてしまった。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!
「やった。竜族に一矢報いたぞ!」
「苦しんで殺された御先祖様のカタキ、思い知れ!」
「ばんざーい! ばんざーい!」
瞬間、割れんばかりの大歓声がコロッセオを震わる。
しかし観衆達の歓喜の大歓声はすぐになり止む。
「竜族の血を受け継ぐ者は全て消滅…………む!?」
「なんだあいつら!?」
「あの翼、まさか奴らも竜族か!?」
歓声が鳴りやんだ理由。それは突如空から舞い降りた竜の翼を持つ四人の乱入によるもの。
ダゴン、マークス、トムズ、バイアデン、四人の追放竜族がついにコロッセオに現れたのだ。
四人は翼を狭めて急降下!
「てめーら、なんてことしやがる!」
「この仕打ち、どこまでも人族は!」
細身のトムズと巨漢のバイアデンは絞首刑台の執行人達を一瞬で蹴散らしロープを切った。
ダゴンとマークスは落下するアーク、カレン、マインを受け止める。
「アーク、カレン、しっかりしろ!」
「マイン、マイン、死ぬな、マイン!」
三人とも辛うじて生きている。しかし、いつ死んでもおかしくない瀕死の状態だ。
ダゴンとマークスはポケットから小瓶を取り出した。
これは万が一のためにとレイミアから渡された【ラミアの薬草】の濃縮エキスだ。(【ラミアの薬草】が不完全な出来栄えの為、エキスの濃度を高めて薬効を高めている)
それを三人の口に流し込んだ。
シュウウウウウ……
傷んだ肉体が急速に治癒していく。
しかし呼吸は弱く精気は回復した様子が無い。
「アーク! カレン! 目を開けてくれ!」
「マイン! マイン! 畜生、やつら子供達に何をしやがった!」
肉体は回復しても精気が回復しない理由。それはリットール国王の命令により宮廷魔術師がかけた〈
これより500年後のレイミアが育成した【ラミアの薬草】ならいざ知らず、現在の未熟なレイミアが育成した【ラミアの薬草】ではたとえエキスを抽出して濃縮させたとしても、奇跡めいた治癒力は無いのだ。
「やはり湧いて出て来たか。
国王は兵士達に向かって突撃の命令を発した!
それを受けてコロッセオの四方八方から夥しい数の兵士達が“わっ”とダゴン達へと襲い向かう!
その中には東洋顔の男達の姿も見受けられる。
「ダゴン、マークス、子供達を連れて早く行け!」
「ここは我らが引き受ける。早くレイミアのところへ!」
トムズとバイアデンは襲い来る兵士達から剣と槍を奪い、ダゴン達の退路を確保すべく戦い始めた。
「すまん! いくぞマークス」
「おう!」
ダゴンとマークスは子供達を抱えて再び空へ舞い上がり東へと向かった。
「でええええええい!」
「むううううううん!」
ブオンッ!
ブワッ!
「うわああああああああああああ!」
「ぐぎゃあああああああああああ!」
兵士相手に余裕で蹴散らすトムズとバイアデン。
振り回す剣圧と槍圧に、兵士達は纏めて吹き飛ばされ、近寄る事すらままならない。
「どうした、200年経っても人族とはこの程度か!」
「ふん、所詮人族に我ら竜族の相手は務まらぬ! 200年前の恨み、今ここで晴らさせてもらうぞ!」
ドガッ! バキッ! ギャシュッ!
「ひいいいぃぃぃぃ!」
「話と違う!」
「全く歯が立たん!」
「やつら化物か!?」
まだ竜魔法が使える程には回復しきれていないトムズとバイアデンだが、竜族の特殊能力に頼らずとも二人は十分強い。
「追放竜族って卑怯で弱いんじゃなかったのか!?」
「なんだかやばいぞ!」
その圧倒的な力に恐れをなして、観衆達は我先にとコロッセオを後にする。
それを兵士達が効率よく避難誘導させていく。
どうやらリットール国王はここまでは読んでいたようだ。
「おらおら、どうしたぁぁぁ!」
「もっとかかって来い!」
溜まり溜まった恨みと鬱憤を爆発させ大暴れするトムズとバイアデン!
しかし続いて現れた東洋顔の戦士はそうはいかなかった。
「ふんっ!」
バキンッ!
「けええええええっ!」
ベキッ!
東洋顔の戦士達の持つ
「ぬ、そのヒモト人のような顔つき!?」
「それにこの剣圧、貴様達は!?」
新たに現れたのは戦国時代日本から召喚された召喚勇者四人。
各々が戦国の世で活躍していた武士だ。
「拙者はもと細川高国公が配下、遠藤義春と申す!」
「同じく伊庭義明!」
「同じく桐生獅子丸!」
「同じく御厨安兵衛!」
「「「「義によってリットール王国に助太刀いたす!」」」」
名乗りを上げビリビリとした独特なしかし覚えのある気を発する新たな敵。
トムズとバイアデンの脳裏に200年前の屈辱がフラッシュバックする。
二人の妻は200年前のコルト王国軍侵攻の際に召喚勇者に嬲り者にされ殺されたのだ。
「バイアデン、油断するな!」
「わかっている。いくぞ!」
召喚勇者と対峙して激しく闘志を漲らすトムズとバイアデン。
だが個対個ならいざ知らず、召喚勇者相手の四対二ではセントールの呪魔法により竜魔法が使えないトムズとバイアデンには荷が重い。
倒した兵士の武器を拾いながら応戦するも、召喚勇者の重い聖剣の一撃には
「くそう、このままじゃやられるぞ!」
「こんな異世界の蛮族なんかに!」
徐々に傷を負い追い詰められていくトムズとバイアデン。
もはや手に武器も持たせて貰えず背中合わせになり成す術がない。
「どうだ、我らの力!」
「恐れ入ったか!」
「
「その首もらい受ける!」
今のトムズとバイアデンでは勝機無し。
四方を召喚勇者に囲まれ絶体絶命のピンチ。
「ふう、流石は召喚勇者じゃな。高い代償を払って呼び寄せた価値はあった」
リットール国王は勝利を確信して険しい顔で安堵した。
そして今まさにトドメを刺せと命令しかけた時、その険しい顔が驚きの顔に変わった。
「おいトムズ、覚悟は出来ているか」
「当たり前だ。二百年後の世界で目を覚ました時から覚悟は出来ている」
「よし、やるぞ!」
「おうっ!」
バシュッ! シュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォ……
「こおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおぉ!」
「ぬおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
突如、トムズとバイアデンの雰囲気がガラリと変わり、強烈な熱波と瘴気を放ち始めた!
「なんだ、やつら何をやるつもりだ? ええい召喚勇者よ、早くトドメを刺せ!」
「「「御意っ!」」」
慌てる国王の命令を受け、召喚勇者達は聖刀に全魔力を乗せ一斉に斬りかかった!
バチッ!
「「「「なんだと!?」」」」
しかし彼らの刃はトムズとバイアデンに届くこと無く弾かれてしまった。
その間にも二人の身体が異様な変貌を遂げていく。
身体はムクムクと二回り以上大きくなり、人肌と変わらぬ肌の色は漆黒へと塗り替わって行く。
さらには空気中の魔素を固定し、その身体を黒光りする
空の手にもいつの間にか魔素で作られた漆黒の大剣が握られている。
そしてその瞳は金色の怒れるドラゴンの目と化した。
竜族が尋常ではない負の感情を爆発させ復讐に走る時、その属性は神格に近い邪へと変貌する。すなわち邪竜族へと堕ちていく。
トムズとバイアデンは
「待たせたな
「おまえ達はもう終わりだ」
ひゅっ
トムズとバイアデンの身体が一瞬揺らいだように見えた。
ぐらり
「なんだ、今何をした?」
「あ、あれ?」
「天と地が?」
「なぜ俺の身体が見える?」
ぼとり
それは黒い一閃。真横一文字の居合斬りのような斬撃。
一拍の間の後、召喚勇者達は自分が斬られた事も気付かないまま、己が首を地に堕とし絶命した。
「あ、あれはいったいどういう事じゃ!?」
絶対的勝利の確信――からまさかの逆転負け。
国家防衛の
「次は貴様だ人族の王よ!」
「その首叩き落として死んだ仲間達への供えものにしてくれる!」
トムズとバイアデンは国王を激しく威圧した。
「ぐぐぐっ」
威圧にあてられた国王は、今この瞬間にも命を散らすような錯覚に陥り、金縛りのように動けなくなってしまった。絶対の死を悟ったのだ。
「「…………!?」」
しかしトムズとバイアデンは、憎悪と殺意の威圧を国王に浴びせつつも動こうとしない。
と言うより、どういうわけか国王以上に動けないでいるようだ。額から油汗を浮かべ極度に緊張している。
何かはわからないが、二人は尋常ではないプレッシャーを受け続けている。
そのプレッシャーの正体とはいったい……?
◆リットール東の森
その頃、ダゴンとマークスは瀕死の子供達を抱えて森の東端に差し掛かっていた。
「うう、父さん……地上に降りて……」
「お願い……」
「パパ……今すぐ降りて……私……もう……」
「アーク! カレン!」
「マイン! 目が覚めたのか!」
ダゴンとマークスは急ぎ森の中に舞い降りた。
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