139 第四十八話 エピローグ
◆Sideバーク、キュイ、キリス
― テクテクテク………
― テクテクテク………
― テクテクテク………
「…………」
「…………」
「…………」
― タッタッタッタッ!
― タッタッタッタッ!
― タッタッタッタッ!
「…………」
「…………」
「…………」
― タッタッタッタッタッタッタッタッ!
― タッタッタッタッタッタッタッタッ!
― タッタッタッタッタッタッタッタッ!
― ピタッ
― ピタッ
― ピタッ
「ねえ、どうして付いて来るんだい?二人を連れて行けないって僕言ったよね?」
バークは更生プログラムの最初の案件である【貧村に出没するロック鳥退治】に向かっていた。
しかし、途中からキュイとキリスが追って来たのだ。
「そうね、確かに連れて行けないと言ったわ」
「でも、付いて来るなとは言っていないじゃない」
キュイとキリスはニコニコしながら言い返した。
「わかった、じゃあ付いて来るのもダメだ」
バークはそう言うと、再び歩き始めた。
― テクテクテク………
― テクテクテク………
― テクテクテク………
「…………」
「…………」
「…………」
― タッタッタッタッ!
― タッタッタッタッ!
― タッタッタッタッ!
― ピタッ
― ピタッ
― ピタッ
「なんで?連れて行くのも付いて来るのもダメだって言ったよねっ!?」
「さあて、なんのことやら」
「私達はただ歩いているだけ。向かう先が偶然一緒なだけよ」
キュイとキリスは意地の悪そうな笑みを浮かべ、バークに食い下がった。
「頼むよ、このまま付いて来られると、キュイとキリスを悲しませる事になるかもしれないんだ」
「それは、バークが私達を愛していないかもしれないから?」
「それとも、アタイ達がバークを愛していないかもしれないから?」
「っ――――!」
バークは図星を突かれ言葉に詰まった。
「バーク、私達も同じなのよ。不安なの。怖いのよ!じっとしていると絶望に包まれるの!」
「本当はバークはアタイ達を愛していない、本当はアタイ達もバークを愛していない。全ては偽りの想い……もしそうだったらと思うと怖くて堪らないの」
「キュイ、キリス……」
バークはこの時になって、自分だけでなくキュイとキリスも同様に悩み恐れている事に気が付いた。
そして自分の事しか見ていなかった事を恥じた。
「キュイ、キリス、済まなかった。でもこの先一緒にいると、本当に二人を酷く傷つけるかもしれない。だけど、それでもいいと言うのなら……二人とも一緒に来て欲しい!」
「バーク!一緒に行くわ!」
「行かないワケないじゃない!だってバークは……」
「僕は?」
「「私達の
「ぐはっ!?」
キュイとキリスに
「キュイ、キリス……その呼び方だけは許して!」
「ダメよ。ケンツからバークの事は
「それにバークは私達にとっては本当に
二人は置き去りにした仕返しとばかりに
そして恥ずかしそうに速足で歩くバークに、キュイとキリスは嬉しそうに続くのだった。
端から見ると、反吐が出そうになるほど幸せそうな三人の姿。
バーク、キュイ、キリスの新たな道。
どうやらそれは幸せな道になりそうな気配であった。
*
◆Side
― パカポコ、パカポコ
「なあ、アリサ」
「なあに?
「…………」
「…………」
「アリサ」
「なんですか?
「…………」
「…………」
ユーシスは、アリサからずっと
「ねえ、なんでユーシスって呼んでくれないのさ!?それになんで丁寧語なの!?」
「だってユーシスじゃなくて
「うぐっ……キミ、まだそんなこと根に思って……」
「当たり前よ、私がどれだけ絶望させられ寂しい思いを強いられたと思っているのよ!」
「俺だって辛かったんだ!仕方が無かったんだよ!だから機嫌治してくれよ!この通り!」
ユーシスは、馬上からこれ以上は転げ落ちるくらいアリサに向かって頭を下げた。
しかしアリサは非常に悪い笑みを浮かべて言った。
「安心して、ユリウスさんの苦しい立場とやらは、これでも重々理解しているから」
「そ、それじゃあ!」
ユーシスの顔がパアッと輝きかける。
しかし――
「でもダメ、事情は理解しても、感情は許して無いもん。暫くはユリウスさんって呼ぶから!」
「そんなぁ! あ、じゃあ暫くっていつまでなんだよっ!」
アリサは聖女とは思えない意地悪い顔をして言った。
「そうねぇ、リットールエリアを抜けたら考えてあげる」
馬を全開で走らせたとしても、リットール領域を出るまでは二週間はかかる。
その間、ユーシスはユリウスと呼ばれ続けるのだ。
「酷い、酷過ぎる!こうなったらネロ(ユーシスの愛馬の名前)に無理させてでも全開で走ってやる!」
「今、常歩にしたばかりじゃない。バカな事言わないでよ」
顔に縦線が入るユーシスを見て、アリサはケラケラと笑った。
そして留飲も下がり、そろそろユーシスを許してあげようと思った時――
「二人とも、どうやら本当に全開で走らないとマズイみたいだぜ」
「私のストーカーが追って来たみたい」
二人の見ている先には、巨馬に跨り
「なんだありゃ?」
「変質者?」
「違う、あれでも召喚勇者だ」
「あの人、眠っている私を鎧の上から全身を舐め回す変態なのよ!」
「はい?」
「なにそれこわ!」
ユーシスもアリサも、魔物や魔獣相手なら、どんな敵だろうと怯みはしない。
召喚勇者だってエロいだけなら怖くない。
しかし、フェチ属性の変態・変質者は別だ。
ユーシスとアリサは鎧フェチの召喚勇者に戦慄を覚えた。
そんな変態、絶対に関わりたくない!
スラヴ王国までは馬を全開全力で走らせても最短三か月の距離。
行く手は全て
そして、後ろからは非常に面倒な追手が迫って来たのだ。
「みんな、スラヴ王国目指して全力で駆けるぞ!」
「「「 おー! 」」」
勇者ユーシスの掛け声とともに、四人は其々愛馬に鞭を入れた。
そして懐かしい母国、スラヴ王国を目指したのだった。
*
◆Sideミヤビ&レイミア(ミヤビの姉・ラミアの祠の管理人)
「ふーん、
「うん。それにケンツさんも無事シャロンさんを奪い返したの」
ミヤビは姉である【ラミアの祠】の管理人、レイミアの元に報告に来ていた。
「それにしても邪竜アパーカレスが復活するとはねぇ」
「お姉ちゃんはアパーカレスを見た事あるの?」
「若い頃にね。アパーカレスと行動を共にしていた【邪竜族の男】の悲しそうな目が印象的だったな」
「ダゴンって人?コロシアムに現れてユーシスさんに討伐されていたわ」
「そう。……ねえミヤビ、500年前、そして700年前に何があったのか真実を知りたい?」
「私の生まれる直前の話だし、別にいいかな。それにどうせ【本当に悪いのは○○だった】てオチでしょ?」
「あんたって本当につまらない妹ねぇ。まあいいわ、余談はここまでよ」
レイミアの顔が真剣なものに変わる。
「それで、勇者様の種は手に入れたの?」
「それが……ダメだった……」
「そう……」
ミヤビとレイミアはズーンと重たい空気に包まれた。
ミヤビとレイミアは
ラミア族に男は生まれず、繁殖には異種族の種が必要とされる。
しかしラミア族は、その特異な能力を悪用する子を宿さないよう、優れた種のみ厳選して孕んでいるのだ。
(実際、数百年前に悪しき心を持つラミアが誕生した際は、その特殊な能力により一国を崩壊に導いている)
しかし、そうそうラミア族の眼鏡に叶う男など中々見つかる事は無く、また見つけても優れた人格者というものは、簡単に堕ちはしないものだ。
そんな背景もあって、ラミア族は現在絶滅危惧種扱いにされている。
「そう……
レイミアは溜息を付いて諦めた。
「本物の勇者様を堕とすのなら本当に恋人関係にならないと無理だよ。ユーシスさんは堕とせない。でもケンツさんなら……あの人もシャロンさん一途だから無理かなぁ」
「ミヤビ、諦めてはダメよ。こちとら種の存続がかかっているんだから!ケンツさんを見極めて眼鏡に叶うようなら猛プッシュよ!」
「わかってるわよ。さあそろそろ
ミヤビは懐かしい自分の村へと帰った。
なおラミア族としては
*
◆Side ケンツ&シャロン(冒険者ギルド裏、多目的広場)
「それで、お二人はこれからどうされますか?」
ケイトは今後の事について訊いてきた。
俺とシャロンと向き合い頷いた。そしてケイトに向き直す。
ケイトよ、ここは冒険者ギルドだぜ?
冒険者がどうするかなんて決まっているだろう。
俺達はケイトに向かってこう言った。
「おいケイト、まだ依頼は何か残っているか?」
ケイトは頭の中を少し探ってから返事をした。
「人気のある討伐系の依頼は全部
まあそうだろうな。
バークの試験中、大勢の冒険者が仕事に出ていく姿が見えたもん。
美味しい仕事なんか残っているわけないぜ。
だけど、それでも――
「なら【ラミアの森・フォレストラビットの討伐】を受けるぜ。シャロンもそれでいいよな?」
「もちろんよ。アリサさんと行動を共にする事になった、キッカケのクエストでしょ?興味あるわ」
「かしこまりました」
「それとケイト、もう一つ重要な事を頼みたい」
「なんでしょう?」
「シャロンを
シャロン、長かったけどこれで全部元通りだぜ。
また二人で頑張ろうな!
「分かりました。それでは手続きをしますので受付までどうぞ」
俺とシャロンはケイトと共に、冒険者ギルドの受付カウンターへ向かう。
「あらケンツさん!大会優勝したうえに邪竜退治までされたとは流石ですね!私、今のケンツさんならお付き合いしても……」
カウンターに着くなり、目をギラギラさせた受付嬢ベラがモーションかけてきやがった。
こいつ、過去に俺に向かって吐いた暴言とか、無かった事にしてやがるのか?
「ベラ、オメーと付き合う気は全く無いし、それ以前にオメーから『ゴミめ、ぺっ!』とか言われて唾を掛けられた事、忘れてねーから!」
「男が細かい事を言っちゃだめですよぅ。そんな昔の事なんかさっさと忘れて下さ…………いたたた、痛い!ケイト先輩、耳引っ張らないで!ほんと痛いです!」
「ベラ、いいからあなたは向うに行っていなさい」
凍えるような目でケイトに睨まれ、ベラはスゴスゴと奥に引っ込んだ。
「ふふふ……」
「どうかしたか?」
「ううん、なんでもないの。ただデジャヴを感じただけ」
シャロンは、懐かしいものを見たかのような顔をした。
そういやそうだったな。
落ち目になる前は、こうやって依頼を受ける度にベラに絡まれていたっけ。
確かに懐かしい気はする。
けれどあの頃はシャロンの他に、キュイがいて、キリスがいて、そしてバークがいたんだ。
「何もかも昔通り元通り……て、ワケにはいかないよなぁ」
「それは仕方ないわ。みんな其々の道を歩み始めたんだもの」
「其々の道か。そして俺達も……」
「ええ、元通りではなく、私達も新たな道を歩み始めたの。だからケンツ、踏み外さないよう二人で支え合いましょうね」
「そうだな。これは新たな道、新たな門出だ!よーしシャロン!俺、俄然張り切るからな。二人で支え合い歩んで行こう!」
シャロンに新たな道と言われ、なんだか今までとは違う新たな力が沸いてきたような気がする。
いいや、これは気のせいじゃなく本当に新たな力だぜ。新鮮で気持ちのいい力だ!
「ケンツさん。依頼の受付手続き、それとシャロンさんのパーティー加入手続き、全て済みました。いつでも行って下さい」
「おうっ。それじゃケイト、行ってくるぜ!」
「ありがとうケイトさん。行って来ます!」
「いってらっしゃい。クエストの成功を祈っております」
深々と
俺はシャロンと共に意気揚々とギルドを後にした。
道中――
「それで、あの時アリサが墜落して湖に落っこちて半べそかいてよ」
「まあ、あの聡明なアリサさんが?それで?」
「それから、蝙蝠の大群がアリサを……そんでヒドラがよう……」
「ヒドラ!?」
「さらには悪霊バンバラとレッサーラミアが……」
今はもう懐かしい思い出となったアリサとの出会い。
俺はシャロンにアリサの話を聞かせつつ、アリサに感謝の念を送った。
アリサ、本当にありがとうな。
ド底辺に転落した俺。
その俺の奇跡の復活は、全てアリサのおかげだぜ。
いつかまたアリサ達と会える日が来るといいな。
「ねえ、それからどうなったの?」
「それからか?島に渡ってラミアの祠で……」
俺とシャロンは冒険者の日常を謳歌すべく、ラミアの森を目指したのだった。
【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】
第一章・転落からの復活
完
【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】
第一章部分をお読みいただきありがとうございました。
深く感謝しますととも厚く御礼申し上げます。
今後の予定ですが
・【幕間】にバロンとブルーノの続きの話を3投稿分。(3話目は次章に繋がります)
・【過去ノ章】として邪竜アパーカレス誕生の話を25投稿分(予定)
他閑話数話あげたのち第二章に入り完結を目指す予定です。
(第二章開始時に【幕間】と【過去ノ章】のアラスジを載せますので、主人公以外のエピソードに興味の無い方は、読み飛ばして第二章からお読みください)
なお、暫くは亀進行となりますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。
2023.03.12
2023.08.09
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