幕間
140 第49話 バロンとブルーノ01【シャロンの謎/ロック鳥退治】
これより幕間の始まり~
今回より、その後のバロンとブルーノのお話。過度なざまぁ展開は残念ながらありません。第二章での活躍?に期待!
全三回です。(三話目は後半第二章に関連しております)
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◆ リットール冒険者ギルド
時刻は午後六時、仕事を受けた多くの冒険者達が帰って来る時間帯だ。
ザワザワと賑わいを見せるリットール冒険者ギルド。
受付ではケイトが仕事の報告に来た冒険者達を相手に、テキパキと処理をしている。
飲食ブースでは、すでに処理を終えた冒険者達が各々卓につき、酒と飯を食らいながらある者はその日の反省を、ある者は明日のミーティングを、またある者は手柄の自慢をして、ギルド内はにぎわっていた。
―バターン!
突然勢いよく両開きの玄関扉が開かれ、一組の冒険者達が入ってきた。
その瞬間、喧噪としていたギルドがピタリと静まり返った。
「おーいケイト、フォレストラビットの討伐ノルマ、無事達成してきたぜ!」
ラミアの森に行っていたケンツとシャロンが戻って来たのだ。
ほとんどの冒険者達は、ケンツの興味を引かないように一斉に目を背け口を閉じた。
彼らの多くは、ケンツの【イジメ返しリスト】に載っている者達。すなわち、かつてケンツをとことん虐めて追い詰めた輩だ。
冒険者達は自分が標的にされないよう、道端の石ころのように沈黙した。
Sideケンツ シャロン ケイト
「はい、御苦労様でした。ノルマ分二十羽ちょうどですね。成功報酬はニ万ルブルになります。フォレストラビットはいつも通りギルドにて買い取りで宜しいでしょうか?」
正直、直接肉屋に持って行った方が金になるが、今日のところは細かい事はいいぜ。
チャッチャと済ましてシャロンとまったりしたいんだ。
「そうしてくれ」
「では買取は一万ルブル、全部合わせて三万ルブルのお支払です。ご確認の上、こちらの書類にサインをお願いします」
シャロンが支払額を確認したのを見て、俺は書類にサインした。
はぁ、この流れ久しぶりだな。昔はこうやってシャロンと二人で討伐後の処理をしてたっけ。
こんな何でもない事でも、シミジミと幸せを感じさせられるぜ。
「そういやベラはどうした? 昔ならベラがウザ絡みしてきたもんだが……」
「ベラは今日から更生プログラム(
「ああ、バークの監視か」
「いえ、そうではなくバロンさんとブルーノさんの方です」
ケイトの口からバロンとブルーノの名が出た途端、それまで柔和な表情だったシャロンが微妙に緊張したように見えた。
そして俺もやはり苦い顔をする。
「そっちか、すっかり忘れていたぜ。で、奴ら今頃どんな難題をやらされているんだ?」
「すでに幾つかの特殊案件を受けさせられ、そのいずれも未達成に終わっています。今日からはルードネスエイプの討伐だそうですよ」
「ルードネスエイプ!? ギルドもエグイ
ルードネスエイプは、チンパンジーを大型化したような類人猿型の魔物だ。
群れで行動し、また雷を操る特性が有り
しかし戦闘は好まず、敵と見なした相手を暴力ではなく性的に屈服させようとする好色な魔物だ。
とくにガタイの良い若い冒険者はルードネスエイプの好みらしく、毎年何人もの冒険者がルードネスエイプに襲われ、精神的トラウマを負い引退している。
しかもルードネスエイプの攻撃対象に性別の区別は無い。
男性冒険者に対して雄のルードネスエイプが性欲剥き出しで向かって来る――なんて事例は普通にある。
「奴らの力ならば、個対個の戦いなら余裕で勝てるだろうが、ルードネスエイプは群れで襲って来やがるからな」
「あの二人ならきっと大丈夫ですよ。それにルードネスエイプは決して命を奪いませんから」
「いや、いっそひと思いに殺された方が救いになるんじゃねーかな……」
そんな俺とケイトの会話に、シャロンは首を捻って訊いてきた。
「あの、バロンさんとブルーノさんが更生プログラムを受けているって本当ですか?拘留されているものだとばかり……」
「はい。以前お伺いした通り、最大の被害者であるシャロンさんより『情状酌量の余地があるから、降格や冒険者資格剥奪、当局への引き渡し等の厳しい処分は望まない』という切実なる願いを考慮し、尋問のあと更生プログラムのみを受けて貰っています」
ケイトの説明を聴き終わった途端、シャロンの表情が強張った。
「私、そんな事を言った覚えはありませよ? あの二人は召喚勇者を利用してケンツを殺させようとしたのです! 私も魅了されケンツを裏切って………いくら私でも、そんなの許せるワケないじゃないですか!」
「「え?……えええ?」」
驚くケイト。そして俺も驚いた。
いったい、どういう事だ?
*
Side バロン&ブルーノ
シャロンの温情(?)が働いたおかげで従犯扱いを免れ、冒険者等級降格・冒険者資格剥奪、そして当局への身柄引き渡しを免れたバロンとブルーノ。
してやったりな二人のハズであったが、その後に待ち受ける更生プログラムは中々厳しいものであった。
◆更生プログラム第一週目【ロック鳥の巣の駆除】
これより時間は少々遡る。
寒村に近い魔の森の奥にある切り立った渓谷。そこに居ついた巨大な魔鳥ロック鳥の巣の駆除。
それが更生プログラム第一回目の仕事だ。
「なんだ、ロック鳥の討伐じゃなくて巣の駆除か」
「案外ヌルイんだな。これなら余裕♪余裕……うわあああああああああああ!!!」
「ブ、ブルーノぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
―クケーーーーッ!
「ぎゃああああああああああああ!!!」
谷の上から巣の様子を覗いていたバロンとブルーノだったが、突然上空から音も無く現れた二羽のロック鳥に鷲掴みにされ攫われてしまった。
翼長約6メートル、ロック鳥としてはまだ若い部類だ。しかし人ひとり攫うのは余裕である。
(成長しきったロック鳥は、象をも掴み攫うほどの超巨体になる)
「コ、コノヤロ!放しやが……えびゃっ!?」
「あびゅっ!あびゃっ!あびょっ!」
ロック鳥達は、谷間を飛びながらバロンとブルーノを
肉を斬り裂き、骨はボキボキに折られ、食べやすくされたところで(ロック鳥の)雛鳥の餌にされるのだ。
それも新鮮さを保つために決して殺しはしない。バロンとブルーノは生きたまま雛鳥に食われるという地獄のような運命が待ち受けている!
「やれやれ。いきなり世話を焼かせてくれますね……
距離を置いて見ていたのは今週監視役のケイト。
そのケイトの指先から極細の糸が放たれ、巣の前でホバリングしていたロック鳥の翼に絡みつく!
いきなり自由を奪われ驚いたロック鳥は、肉塊寸前のバロンとブルーノを離してしまい、二人はそのまま谷底へ。
その後、どうやってかバロンとブルーノを無事回収するケイト。
「ほら、これを飲んでください」
ケイトは、
更生プログラムでは危険度の高い討伐も多々含まれるため、監視役は常にポーション類を常備している。
今バロンとブルーノに飲ませたハイポーションは、身体部分欠損以外の怪我なら瞬時に治してしまう上級薬だ。
「ウグッ……ぷはぁっ!」
「ケイト、今のはまさかハイポーションか!?」
「そうですよ。助かって良かったですね」
「バカ野郎、ふざけんな!」
「あんなクソバカ高いもん、断りも無く飲ませやがって!」
二人が激昂するのも無理はない。
ハイポーションの価格は200万ルブル。日本円にして200万円相当だ。
そして使ったハイポーションは、当然ながら後から冒険者ギルドからキッチリと請求される。
つまりバロンとブルーノは更生プログラム開始早々400万円の借金を背負った事になる。
「じゃあ、障害が残る覚悟でノーマルポーションを使った方が良かったですか?」
「いや、それは……」
「助けてくれてありがとうございます……」
その後、バロンとブルーノは『挑戦しては攫われケイトに救出される』を繰り返す。
二人が何かしようとするにも、巣に近づく前に終わらされてしまうのだ。
それなら邪魔なロック鳥をやっつけようとするにも、高速で飛行するロック鳥に対して雷撃も斬撃飛ばしも全て躱されてしまう。
そして躱された後は当然攫われて血祭に……
その結果、使ったハイポーションは計14本にものぼり、バロンとブルーノは僅か1週間ほどで2800万ルブルもの借金を背負う事になってしまった。
「もう無理だ! 俺達と
「これ以上肉塊にされるのも借金を重ねるのも御免だぜ!」
「この
結局、ケイトはこの二人ではミッションクリアは不可能と判断し、未達成のまま次のプログラムへ移行させることにした。
次話につづく
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