138 第四十七話 それぞれの道へ 04
「それでは皆さん、お世話になりました。シャロンさん、ケンツさんとお幸せに」
「おう、
「ありがとう。バークさんも頑張って」
バークは少し顔を引き攣らせて一礼をしたのち踵を返し、キュイとキリスを本当に残してその場を去って行った。
「バークに捨てられちゃった……アタイ、これからどうしたら……」
「なんで……私達だって不安なのに。酷いよバーク……」
残されたキュイとキリスは腰をペタンと落し放心してしまった。
バークも大概だが、キュイとキリスも仕方のない奴らだな。
どうしたらだと?
こんなもん、どうするかなんて一択だろうが。
「オメーらいつまでそんな所で呆けてやがんだ?」
「早くバークさんを追いかけなきゃ。さあ、ほらほら!」
いつまでも呆けているキュイとキリスを、俺とシャロンは尻を叩くように追い立てた。
「だって……」
「バークは連れて行けないって……」
おいおい、何トロいこと言ってんだ?
本気で惚れや相手なら、もっと貪欲になれっての。
バークの言った事なんて自分に都合よく曲解しちまえ!
泣いてないでさっさと行動しろ!
「バークは連れていけないと言っただけだろ。ついて来るなとは言ってない!」
「キュイ、キリス。傷ついたバークさんを支えられるのはあなた達だけでしょ!」
「連れて行けないと言っただけ……」
「バークが傷ついている……支えられるのは私達だけ……」
キュイとキリスはハッと顔を見合わせた後、猛ダッシュでバークの後を追って行った。
そう、それでいいんだ。世話の焼ける奴らだぜ。
*
「ケンツさん、私達もそろそろ行くわ」
「ケンツ、いろいろ世話になった。ありがとう」
今度は
世話になったのはこっちだぜ。二人ともありがとうな。
「予定では明日発つんじゃなかったっけ?」
「そうしたいけど、連邦の追手がすぐにでもかかると思うのよ」
「仕方が無いさ。俺達は逃亡者だからな」
アリサは寂しそうな微笑を浮かべ、
「ユーシスとアリサだけじゃなく、俺達も追われる身だしな」
「昨日、コロシアムの外にいた召喚勇者と女奴隷商って、実は私達を追って来たんだよ」
ヒロキとアカリも肩をすくめて苦笑いした。
なんだ、良い召喚勇者もいるのかと思ったけど、ヒロキとアカリを追って来ただけかよ。
それじゃ単に騒動に巻き込まれただけだったんだな。見直して損したぜ。
「それにしても、ソーサリーストックの恩恵は有ったとはいえ、特別な加護も無いおまえがよくぞここまで強くなれたもんだよなぁ。普通有り得ないぜ」
「ねえケンツさん、実はケンツさんも
いやいやいやいや、こいつら何言ってやがる。
それに女神の使徒はともかく邪神の祝福ってなんだ!
あのなぁ、あんな非人道的な修行させられたら誰でも強くなるぜ。一体何度身体を木端微塵にされたと思ってんだ!
普通の人間に勇者と聖女の特別スパルタメニューなんか受けさせやがって。おかげで地獄の七番底くらいまで見えたぜ。
「それで、ケンツはその力をこれからどう使うんだ?」
「連邦認定勇者も断ったし、ケンツさんはこれから何を目指すのかしら?」
以前こいつらが言っていたよな。
『力を持つ者は常に責任が付いて回る』だっけ。その事を言っているんだろう?
「別に。何も目指さねえよ。冒険者クラスも今は二級のまま変えるツモリはねえ。シャロンと仲良く冒険者やって、慎ましく幸せに暮らすさ。俺の過ぎた力は当分封印だ。むしろ使わないで済むような穏やかな人生であることを望みたいぜ」
「そうか。俺も二人が穏やかに暮らせることを祈るぜ」
「私もケンツさんの願う通りの人生を送れる事を祈ってるわ」
二人は少し同情的な目をしながら言った。
わかってるよ、俺だってバカじゃねーんだ。
力を持つ者ってのは、何かと頼られるし必ず必要とされる時が来るもんだ。
俺の意思なんざ関係ねー。逃げる事も断る事が出来ない事案ってのは必ず来るのだろう。
だからその時が来たら、俺は逃げないで腹を括るさ。
それでも俺はシャロンへの愛だけは優先するけどな。これだけは絶対に譲れねえ!
「たとえ世界が滅びても、俺は、シャロンへの愛は貫き通すぜ!」
「わわっ!ちょっとケンツ、いきなり何を……」
何の脈絡も無く突然シャロンラブ宣言をした俺に、シャロンは驚き慌てる。
しかしすぐに頬を赤らめデレた。
「ケンツ、よく言った!俺も世界の運命とアリサを天秤にかけたら、迷うことなくアリサを選ぶぞ!」
「もう、
テレテレとデレるアリサの腰に手を伸ばし、キリッとした
いや、おまえは本物の勇者なんだから、そこは嘘でも世界の運命とやらを選べよ。
「名残惜しいがそろそろ行かないと」
「
ヒロキとアカリが出発を促す。
「じゃあケンツさん、シャロンさん、いつまでもお幸せに!」
「ケンツ、とにかく頑張れ!ミヤビも世話になった。ありがとう!」
「召喚勇者の俺が言うのもなんだけど、召喚勇者には気を付けてな!」
「召喚聖女の私が言うのもなんだけど、もう魅了されないようにね!」
「おう、おまえらも元気でな!無事帰国できることを祈っているぜ!」
「皆さんに命を救われた事、絶対に忘れません!どうかお達者で」
「ユーシスさん、いつか必ず種を頂きますからねっ!」
四人は其々の愛馬に跨り、何度も振り返り、手を振りながら去って行った。
「行っちまったか……」
「気持ちのいい人達だったね……」
「でも、また会える気がしますよ」
ミヤビがヒョコリと顔を出して言った。
そうだ、まだこいつがいたんだっけ。
「ミヤビはこれからどうするんだ?」
「
ミヤビはニコニコと嬉しい言葉を言ってドロンとラミア形態になった。そして
*
「あらあら、皆さんもう発たれてしまったんですか」
朝の受付業務から戻ってきたケイトが残念そうに言った。
すまん、すっかり忘れてた。
もう少しあいつらを引き留めときゃよかったな。
「それで、お二人はこれからどうされますか?」
俺とシャロンは一旦顔を向け合ってから、ケイトに向き直した。
ケイトよ、ここは冒険者ギルドだぜ?
どうするかなんて決まっているだろう。
俺達はケイトに向かって――
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