137 第四十七話 それぞれの道へ 03




◆翌日の早朝。冒険者ギルド裏多目的広場




サンダーブレイク破壊の雷斬!」


サンダーブレイク破壊の雷斬!」



― グワガラガラガラ、ドゥギャアアアアアアアアアン!



俺の放った白銀色の雷斬波と、バークの放った漆黒の雷斬波がぶつかり合う!



「うわああああああああああああああああああああああっ!?」



そして消し飛ばされるバークの雷斬波。さらには余波を食らってバーク自身も吹き飛ばされた。



「やはりな、アパーカレスの影響が無くなった以上、パワーダウンは免れないとは思っていたが……」



バークは俺と最後に戦った時と比べると、かなり弱体化していた。


今のバークの実力は、素の状態で三級中位魔法剣士クラス。バフは瞬間的に1.25倍程度は効くようだが、それでも二級下位にどうにかかかる程度の力しか出せない。


「いてて…………でもポーター時代の力に逆戻りかと思っていたけど、意外でしたよ」


「そうだな。よし、冒険者登録の再試験は終わりだ」



俺が試験官を務めるバークの冒険者登録試験は終了した。





*





◆前日、冒険者ギルドの一室




ゲドー達が引き上げ、今度は冒険者ギルドの事情聴取が始まった。


とは言え、先程ゲドーによる聴取を受けた際、ケイトとギルド長も同席していた。なのでそれほど時間は掛からなかった。


問題なのは、その後どう処理するかだ。


俺やユリウスユーシスやアリサ、そしてミヤビはもちろんお咎めは無いのだが、バーク、キリス、キュイに関してはそうは行かなかった。


さっき俺達はバークに対して(主人公メインマンと揶揄う以外)制裁をしないことにしたが、それは俺達内輪に向いての話だ。


外輪に向けての話となると、バークには何かしらの制裁なりペナルティーが課せられるのは当然となる。


また、悪意を持ってバークを処分しようとしたゲドーの時とは違い、ユリウスユーシスとアリサは干渉しようとしない。今度は静観して見守るだけだ。



「ポイントはこの二項ですね」

「そうだな」



渋い顔のギルド長ゲパルトとケイト。


事情聴取において次の二項が注視されている。


①当冒険者ギルドのトップ冒険者が、邪竜アパーカレスを復活させてしまった事実。

②結果的に武闘大会は死傷者ゼロで済んだものの、あの大騒動を引き起こしたのは間違いなくバークとアパーカレスだったこと。



「さてどうしたものか……」



ギルド長ゲパルトは、禿げた頭をボリボリ掻きながら思案した。


前例の無い案件だけに、ギルド長の権限だけで処分を決めるのには少々手に余るのだ。


そうなると最低でも査問委員会を開かなくてはならないが、その場合は他支部の幹部や外部からの有識者を集めなくてはならない。


この他支部の幹部や有識者というのがクセ者で、いざ処分の内容を決める段階となると、他支部幹部や有識者同士でマウントの取りあいになる事が多い。


双方に納得のいく落としどころを付ける為、歪んだペナルティーを課されるケースが少なくないのだ。



悩むゲパルトにケイトは進言する。



「ギルド長、ここはギルド長の強権を発動するべきですよ。査問委員会を開くとなると当ギルド以外からも人を集めなくてはなりません。そうなると、連邦のメンツを潰されたゲドーが絡んで来ようとするのは目に見えています」


「確かにな。メンツのために有識者を使ってバークを過剰に罰しようとするか…………よし、査問委員会は無しの方向で進めよう。今日中に全て決着させるぞ!」



ゲパルト、ケイト、さらにはギルドの上級職員も集まって、適切な処理方法が相談された。


結果は次の通り。



①については、

そもそもバークが冒険者登録した日の時点で、すでにアパーカレスの影響下にあり、現時点で影響の無くなったバークは全くの別物とも判断できる。


そしてその考えを拡大解釈すれば、今のバークは冒険者では無いとも言えるのだ。


そこで冒険者ギルドとしては、バークが冒険者登録をする直前に時間を差し戻し、【冒険者資格の剥奪】では無く【冒険者試験の受け直し】をさせる事で落ち着いた。


それに伴い、バークが冒険者として報酬は、無級冒険者相当の支払いに換算させられ、その資産のほとんどをギルドに没収されることとなった。バークはほとんど無一文になってしまったのだ。


なお、キュイとキリスに関しては、バークと行動を共にしてから昇級試験など受けてはおらず、登録上は三級冒険者のままだったので【冒険者試験の受け直し】は免れている。



そして②についてだが、騒動を起こし、観客達を危険に晒し、リットールに未曾有の危機に陥れかけた事実。そしてそれをバーク自ら暴露した以上、大会主催者であるギルドとしては、バークから必ずケジメを取らなくてはならない。


ただ実質被害ゼロで収束した上、観客達もバークに対してそれほど悪い印象を持っておらず、どのようなケジメペナルティーを課すべきかに頭を悩ませられた。


結局冒険者ギルドとしては、バークに対しては冒険者再登録後に、高難易度の【更生プログラム】受けさせることでペナルティーとすることで落ち着き、キュイとキリスに対しては一か月の依頼受付の禁止で落ち着くことになった。


また関連してケンツとシャロンが受けた不名誉極まりない昇格と降格、並びに二次・三次的な被害についての賠償問題については、俺とシャロンが【我問題とせず】の姿勢を取ったため不問となった。



「それではバークさん。拘束等は致しませんので、今日のところはお引き取り頂いて結構です。他の皆様も御苦労様でした」



ケイトから解散が報じられ、俺達は其々の宿に帰った。


明日は早朝からバークの冒険者試験が行われる。試験官は俺が務める事になった。


バークよ、なんだか俺の昇級試験の時と、逆みたいになっちまったなぁ。


少しでも力が残っている事を願うぜ。



「シャロン、行こう。流石に疲れたぜ」

「うん。やっとケンツと一緒になれて嬉しいけど、今日は流石にヘトヘトだわ」



その晩はシャロンと同じ宿に泊まり、同じベッドで過ごしたが、あまりの疲労からお互い抱き合いながら、泥のように眠った。





*




◆時間は戻り、再び冒険者ギルド裏多目的広場 バークの再試験後



早朝より俺達は全員が集まっていた。



ケンツとシャロン。


野良勇者ユリウスユーシスと野良聖女アリサ、そして現人神ミヤビ。


バークとキュイとキリス。


召喚勇者ヒロキと召喚聖女アカリ。



もうすぐ俺達は【其々の道】を歩み始み始める。



「それではバークさん、これが新しい冒険者カードです」



敏腕受付嬢ケイトは、三級中位で登録された真新しいギルドカードをバークに渡した。



「三級中位か……随分と落ちたもんだなぁ」



俺はボソリと呟いた。


バークの試験をした俺としちゃ、少々複雑な心境だぜ。


シャロンを奪い合い、俺と死闘を演じたバークはもう存在しないんだな。少し寂しい気がするぜ。


しかし、当のバークはサバサバとした表情をしている。



「三級なんて願ったりですよ。これでケンツさん達の受けた苦労が少しは理解できるってものです」



バークはやはり嬉しそうに言った。


俺の苦労ねぇ。


たしかに俺も一級上位冒険者から三級に降格だったからなぁ。今となっちゃ懐かしいぜ。


それよりこいつ、俺みたいにイジメに遭ったりしないだろうな。


俺と違ってガラスメンタルだから少し心配だぜ。



「バークさん、この後の更生プログラムの件ですが……」



ケイトに呼ばれ、バークはふんふんと説明を受ける。


バークはこの後すぐ、ギルドが用意した更生プログラムを受ける事になっている。


更生とか言っているが、内容は誰も受けようとはしない訳ありの【塩漬け依頼セット】だ。それも極めて難易度が高い。


それらを何日もかけて解決して行かなきゃならねぇ。


今のバークには骨が折れそうだぜ。





「なあバーク……じゃなかった主人公メインマン、更生プログラムが終わった後はどうするんだ?」

「戻って冒険者を続けるんでしょ?」



俺とシャロンはバークに訊いた。


しかしバークは首を横に振る。



「報告の為に一度だけ戻りますが、その後は少し流れてみようかと。自分を見つめ直してみます」


「そうか。確かに一度頭を冷やした方がいいかもな」

「バークさん、アパーカレスの影は必ず拭えます。頑張って下さいね」



飄々としているように見えたバークだが、内面はやはりズタズタだった。


立ち直るのには思っている以上に時間がかかるかもしれないな。



「流れるって旅に出るってこと?」

「だったら準備をしておかなきゃ!」



キュイとキリスは三人で旅行に行くと思い、キャッキャと喜んでいる。


しかし、バークの次の一言で凍りついた。



「待ってくれ、すまないがキュイとキリスは連れて行けない」


「うそ!?」

「そんな!?」



バークに捨てられたと思い、キュイとキリスは顔色が青ざめる。


キュイとキリスへの愛情……それが本物の気持ちなのか、それとも偽りの気持ちなのか、バークは分からなくなっていたのだ。


それどころか、キュイとキリスの自分への気持ちでさえ、自分が植え付けた偽りのものではないかと疑念を抱く始末だ。


キュイとキリスの事だけじゃない。バークはありとあらゆるモノが揺らぎぼやけている。


これまでの自分の想い・思考は、実は全て【アパーカレスに歪められた偽りの気持ち】では無いかと思えて仕方がない。そんな末期的な状態にまで、バークの心は追い詰められていた。



「バークお願い!」

「私達を見捨てないで!」



しかしバークは心を鬼にして、泣きわめくキュイとキリスを振り切ったのだった。








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第一章部分終了まで残すところあと二回。

なお、本日はもう一回投稿予定です。

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