136 第四十七話 それぞれの道へ 02
俺達はヒロキとアカリを除き、冒険者ギルドの会議室へと場所を移動した。(他国の召喚者であるヒロキとアカリは、不法入国がバレるとアリサと
そこでバークのカミングアウトした話を元に事情聴取を受けているのだが、どうやらゲドーはバークよりも、アパーカレスを倒した俺に強い関心があるようだ。
「魔法剣士ケンツ、おまえのせい……とまでは言わないが、連邦は召喚勇者を三名も失っている。早急に戦力の補充が必要なのだ。そこで連邦はおまえをアドレア連邦認定勇者候補者として再び迎えてやる。光栄に思うがいい。
魔法剣士バーク。キサマには邪竜を使った国家転覆の容疑が掛けられている。テロリストに対して連邦は容赦しない。覚悟するんだな!
そして不法入国冒険者ユリウスとアリサ。キサマ達の身柄を拘束させて貰う。後日我が国の法の元に裁かれる事となるだろう!二度とスラヴの地は踏ませんぞ!」
ゲドーは、俺をアドレア連邦認定勇者の候補者として再度取り込むつもりらしい。(アドレア連邦認定勇者とは、特に力の秀でた者を勇者認定する制度。召喚勇者の補完戦力的立ち位置)
しかし、バークに対しては連邦に対する反抗の意思があったとされ、どうも良くない方へと流されそうな気配にある。キュイとキリスともども連邦首都に連行され、そのまま処刑されるかもしれねぇ。
そして
同席しているギルド長と受付嬢ケイトは、今のところ発言権を与えて貰えず、悔しそうにグッと堪えていた。
それにしても、連邦認定勇者か……
権力と富、勇者特権とハーレム…………かつての俺が目指し、そして霧散した夢。
そのチャンスが再び巡ってきやがった。
だけどなぁ……
「おいケンツ、おまえどうするツモリだ?連邦認定勇者とやらになるのか?俺が言うのもアレだが、勇者なんてなるもんじゃないぞ。とんでもなく苦労するか身を崩すかの二択の未来しかない」
「私達はもう去るし、ケンツさんの好きにすればいいけど……でもケンツさんは勇者には向いていないと思う。ゲスいけど非情にはなり切れないもの。勇者では無く英雄向きだわ」
アリサよぉぉぉ、ゲスいとか言うなよぉぉぉ、地味に傷つくぜ。
どうも
「ケンツさんは勇者になるべきです!ケンツさんならきっと権力に溺れる事なんてないはず!その力を世の弱者救済に使うべきですよ、世に貢献するんです!」
逆にバークは俺に勇者になれと言いやがる。
弱者救済?世に貢献?
おまえは勇者に何を求めているんだ。相変わらず頭の中お花畑の小説脳なヤツだな。
連邦認定勇者なんてのはな、
そんな連邦認定勇者になるよりも、ギルドで薬草取りの仕事でも受けた方がよほど世の中に貢献できるってもんだ。
それよりバークよ、俺の事より自分の事を心配しろっての。
おまえ、このままじゃ処刑まで待った無しじゃん。
キュイとキリスがおまえのことを心配して泣きそうな顔してんぞ。
「ま、生活を保障されて
ミヤビはニコニコと笑顔で言った。しかしその目は全く笑っていない。
ラミア族の巫女にして亜神を目指す者。そして連邦から認定された現人神ミヤビ。
敵に回せば即座に魅了されて、一生レッサーラミア達の性的な餌にされちまいそうだぜ。
「シャロンはどう思う?」
「ごめんなさい。勇者になんてなって欲しくはないわ。勇者になれば、また離れ離れになりそうで怖い……」
シャロンは不安を隠さずに縋るように言った。
よかった。シャロン、俺も同じ気持ちだぜ。
シャロンとまた破局したら、俺は今度こそ生きる活力を失っちまう。
連邦認定勇者なんてもん、今の俺達には危険で面倒なだけだ!
「決まりだな。おい、ゲドーさんよ、俺は勇者にはならねぇ。なりたいなんて微塵も思わねーぜ!」
あれ程憧れた連邦認定勇者の座が、今は微塵も興味がねえ。
人ってのは案外変われるもんなんだな。
「キサマ正気か?連邦に盾突いて無事でいられるとでも?」
まさか断られるとは思っていなかったのか、ゲドーの顔色が変わり凄い目で睨んでくる。
へんっ、正気も正気。シャロンが嫌がるなら連邦認定勇者なんて、ぺっぺっぺーだ!
今の俺は富や権力や名声よりも、シャロンとの幸せで穏やかな日々を送る事を選ぶぜ!
それに「無事でいられるとでも?」だと?上等じゃねえか。
こうなったら
連邦を敵に回してでも、この場を乗り切って……うん?
俺がノーを叩きつけたのを見て、
「そういう事なら後は俺達に任せろ!」
「あの連邦のお偉いさんを黙らせてやるわ!」
そこからは
「おいゲドーとやら。俺達の正体はな……」
なんと
野良とはいえ、創造の女神テラリュームより祝福を受けている本物の勇者と聖女だ。
ゲドー如きが尋問していい人間ではない。二人は女神の使徒なのだから。
しかし、そこは流石に「はいそうですか」と引き下がりはしない。
女神の使徒を騙る重罪人の登場により、ゲドーは庶民に対する上質なガス抜きネタが現れたと、むしろほくそ笑んだ。
「嘘を吐くな!女神の勇者と聖女を騙るのは重罪……」
しかし咆えるゲドーは割って入ったケイトにより遮られる。
「アリサさんは本物の聖女ですよ。ギルドカードにレベル7の隠蔽処置が掛けられているのを確認しています。恐らく
彼女は早い段階でアリサが聖女であることに気が付いていた。
今までは守秘義務があるため黙っていたが、本人達自ら正体を明かした以上、秘密にする理由もない。
「ケイトさんの言う通りです。
ケイトに続きミヤビもニコニコしながら言った。しかしその目からは妖しいオーラが溢れ出ている。
これ以上ゴチャゴチャ言うのなら
「そんなバカな!?」
目を白黒させるゲドーに、アリサと
「それにケンツさんを欲しがっているみたいだけど、残念ながら彼に連邦認定勇者になれる実力は無いわ。アパーカレスを倒した時のケンツさんは、
「俺の助力もあったしな。だからケンツを勇者にしようとするのは諦めろ。あと、連邦がバークを罰するのは認めない。バークは最大の被害者であり、最後はアパーカレスの討伐に協力してくれた貢献者だぞ!」
アリサは俺のことをワザと過小評価して連邦認定勇者には不適格だと言った。
「うぐ……むむむ……失礼を致しました……後日、改めてお伺いします……」
ゲドーは額から汗を流しながらとりあえず了承。二人のリットール滞在予定だけ聞いたのち、リットールの職員ともども慌てて去って行った。改めて話の出来る人間を連れて来るつもりのようだ。
基本、国家は神託済みの勇者と聖女を取り込む事はしないが、まだ役割の無い野良なら話は別。もっとも、何か
それでも召喚勇者を三人(厳密には四人)も消失し、戦力が大きく落ちた連邦は、
「なぁ、正体をバラして良かったのか?連邦は間違いなくおまえ達を確保しようとするぞ」
助けてくれたのは有難いが、今度は
「もうユーシスは見つけたんだし、今さら身バレを恐れる事はないわ」
「俺達は逃亡には慣れているんだ。追い付かれることなくキッチリ逃げ切ってやるさ」
この二人、まるで気にする様子は無ねえな。
それどころか、まるで逃亡のプロであるかのように豪語しやがる。
こいつら本当に勇者と聖女か?逃亡に慣れてるとか、前職は泥棒だったんじゃねーの?
そういやここに来る前は、環状砂漠の【逃亡者の都ダバス】に住んでいたんだっけ。
逃亡者の勇者と聖女とか、今更ながらヘンテコリンな奴らだぜ。
「まあなんにせよ、これで事情聴取は済んだな。それじゃ、今日はこれで解散しようぜ」
俺達は揃って部屋を出ようとしたが、ケイトがそれを阻んだ。
「えっと、すみませんけど次は冒険者ギルド側の
ちっ、やはり終わりじゃ無かったか。
査問委員会を開くとかだと少々厄介だぜ。
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