135 第四十七話 それぞれの道へ 01
第四十七話は全四回。
バークに関する話がやや多めです。
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その後、優勝カップの授与やら勝利者インタビューやらを済まし、さらには主催者がやとったプロ司会者に散々いじられてから、俺とシャロン、それにバークは闘場中央より開放された。
「ケンツさん、おめでとうございます」
少し寂しそうな笑みを浮かべながら、バークは俺の優勝を称えてくれた。
「バーク、おまえはそれで良かったのか? せっかくシャロンを取り戻すチャンスだったのによぅ」
「実は一瞬だけ頭に過ぎりました。やっぱりしくじったかなぁ。ケンツさんならどうしました?」
バークは笑みを浮かべたまま訊いてきた。
俺がどう答えるか察しているのだろう。
「そんなもん、しらばっくれてそのまま優勝ってことにしちまうさ。ゴネられたらその時に考えりゃいいんだ。それでもダメなようならシャロンを肩に担いで速攻で逃げる!」
俺はフンスと鼻で息をして、さも当然のようにサラリと答えた。
「やっぱり。ケンツさんは僕には出来ない事を軽々とやってのける」
バークは羨ましそうに呟いた。
軽々?
バークよ、そうじゃないんだぜ。
決して軽々とやっているワケじゃねーんだ。
惚れた女のために必死だからやれるんだぜ。
どうもこいつは行儀よく生きてきたせいか、貪欲さが一歩足りないんだよな。
欲に慣れていないっていうか。アパーカレスもよくこんな欲の無い男に憑りついたもんだぜ。
「なあバーク。この世は大抵乱戦だ。一人だけお行儀よくしていたって、結局ライバル達に屁をかまされるだけなんだぜ」
「そうですね……じゃあ、全部無かったことにしてシャロンさんを返して下さい!」
へー、言うじゃねーか。ちょっと驚いたぜ。
だが却下だ!
「やなこった。苦労して取り返したんだ、もう絶対に離さねえ!それにシャロンにとっての
「ちぇっ」
「へんっ!」
バークの態度が今までと微妙に違う。
こいつ、シャロンへの想いを吹っ切ろうとしてやがるんだ。シャロンと一緒にいた物語が終わった事を感じているんだろうな。
「それで……ケンツさんは僕をどうします?」
「どうって何がだよ」
「ケンツさん、シャロンさん、本当にもうし訳ない事をした。ケンツさんが底辺に堕ちてシャロンさんと破局を招いたのも、元を辿れば全部僕のせいだ。僕は二人に対して償いをして罰を受けなければならない。責任を取らなくてはならないのです。どうか制裁を課してほしい」
うわっ。出たよ、面倒くせー。
「バーク……おまえって本当に真面目君だな。挑戦状を叩きつけた時と今回の試合で散々殴る蹴るしたんだし、これ以上は疲れるだけだぜ。俺もう殴るのも蹴るのも飽きたよ」
「蹴る殴るだけが制裁では……」
なおもバークは食い下がる。
それだけ罪悪感がデカいんだろう。
だが迷惑だ。というか、おれにとっちゃ制裁ってのは蹴る殴るだぜ!
「しつっこいな。なあ、シャロンだってバークに制裁は望んでいないだろう?」
俺はシャロンに訊いてみた。
するとシャロンはコクリと頷いた。
「バークさん、もうこの辺で置きましょう。それに元を辿ればと言ったけど、それを言うなら私にも責任はあるのよ。バーでケンツと別れを告げられたあの日、無理にでもケンツの後を追っていれば……それにバークさんがアパーカレスのダンジョンで『隠し通路がある』と言ったのを、私達はよく調べなかったわ。バークさん一人が責任を被るのはおかしいわ」
俺もシャロンに同意見だ。あの時、もっとバークの声に耳を傾けていたらこうはならなかったぜ。むしろ、パーティーリーダーである俺の方が責任配分はデカいかもしれねえ。
バークのバフに気が付かなかったのもパーティーリーダーとして俺は失格だ。
「バーク、これ以上おまえに制裁は求めねぇ。今の俺の頭の中は、これから始まるシャロンとの幸せ生活で一杯なんだぜ。いつまでも過去に捉われて足を止めるのは性分じゃねーんだよ。俺は未来志向の紳士なんだぜ!」
「しかし、それじゃ僕の気持ちが……」
まだ粘るか、本当に面倒くせーな。
テメーの気持ちなんか知るかよ!
「なあバークよ、自責の念が強いのは見て分るし、責任を取りたいという気持ちも理解できる。
だがな、取らなくてもいい責任を取るってのは、実は責任を取る事で自分が楽になりたいだけなんだぜ。制裁を課される事で逃げてるのさ。
求めていない責任や制裁なんて俺とシャロンには迷惑なだけだっての!」
「…………」
迷惑とまで言われて、さすがにバークは黙った。
バークよ。
俺は器の小さい男だし、心から許すってのは無理だけどよ、それでも俺達はいい加減に区切りを付けたいんだ。
そして前に進みたいんだぜ。
だから制裁を課して責任を取らせるなんてマネはしない。
そんなの後味を悪くするだけ……
…………
…………
…………
まてよ?
その時、俺に天啓の如く閃きが!
「制裁ね、ぐっふっふっふ……」
やっぱり制裁てのは、課せられた本人がとことん嫌な思いをしなきゃなぁ?
俺は悪い顔をしてネチャリと笑みを浮かべた。
「ま、責任なんか気にせず気張って生きてみろ。この世界の
俺はバークの耳に囁くように「
「げほっ!がほっ!」
突然
ふふふ、バークめ。案の定嫌そうな顔をしているぜ。
なにしろこれはテメーが犯した痛―い黒歴史だからな。
絶望的な恥ずかしさに身をよじりやがれ!
ふひひひひひ♪
「ケ、ケンツさん。その
「そうかそうか、恥ずかしいか。実にいい感じだぜ。じゃあこれから飽きるまで
「そんなぁ、僕がケンツさんをイジメたことなんて一度も無いじゃないですか! むしろ何度も助けようと……それにさっき自分で『未来志向の紳士』だって言ってたでしょ!」
「何か言ったか
「うぐぐぐぐ……」
バークは涙目になって、助けを求めるようにシャロンに顔を向けた。
しかしそのシャロン――
「バークさん、いえ
なんとシャロンもニッコリと悪い笑みを浮かべている!?
「ふぐぅっ!シャロンさんまで弄るんですか!? うう……もう……いいです…………」
シャロンにまで
「ぷっ、くすくす……これぐらいの仕返しはさせて貰わないとね」
最初はハラハラしながら成り行きを見守っていたシャロンだが、とうとう堪えきれずにクスクスと笑い出した。
バークよ、制裁を求めたのはおまえ自身だからな。
ひっひっひっ……
さて、バークの制裁プランも目出度く決まったし、あとは冒険者ギルドとリットール、それにアドレア連邦がどう出るかだが……
「冒険者ケンツとバーク、及びその関係者達、我々と同行願おうか」
俺とバークは仲間達と合流して、すぐ受付嬢のケイトとギルド長、リットール職員、そして黒尽くめの男に呼び止められた。
「やはり来やがったか……」
国家保安委員会リットールエリア担当員、ゲドーがそこにいた。
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